1033:宗叡
ポルトガルの特使に和平の提案をした後、いよいよ本命である北米複合産業共同体に関する詳細を話し合うことになった。
北米複合産業共同体の占領下に置かれているメキシコ北部と、そのメキシコへの輸送に使われている沿岸地域の占領が急務となっており、この輸送路遮断のためにフランス軍とスウェーデン軍が合同でテキサス方面への進軍を行って、今現在までに七割近い輸送路を遮断することに成功している。
内陸部の輸送路を経由して陸路で運ばれていくものに関しても、待ち伏せによる奇襲攻撃を敢行して補給路を絶つ作戦を実行に移している旨が明かされた。
「奇襲攻撃作戦に至っては、多くの場所で戦果を挙げております。沿岸部に関しては北米複合産業共同体の主要となる陸路を制圧しており、これらの地域にいた守備隊も捕虜にしております。現地の住民に関しても、奴隷のように使役されていたアフリカ系住民などを保護しており、現在彼らからの情報提供もあって、潜伏している北米複合産業共同体の兵士達の捜索や待ち伏せなどに協力してもらっております」
「アフリカ系の住民は奴隷解放をされていても、三等市民以下の扱いを受けており……その際に奴隷扱いされて脱走しようものなら住民総出で狩りの対象にもなっていたそうです」
「それは酷いな……」
「結果論になりますが、多くの地域で北米複合産業共同体の兵士たちが集団で投降をしている状況です、彼らからしてみれば、欧州協定機構軍の兵士に身柄を預けてもらったほうが確実に安全と判断されるからです、多くの場所で北米複合産業共同体の兵士達が拷問された遺体が複数発見されていることから、住民からの評判は良くないのです」
アフリカ系住民の扱いはかなり劣悪であり、多くの住民は奴隷解放後も三等市民ないしそれ以下の扱いを受けており、実質的に囚人と変わらないような扱いのまま過ごしていたようだ。
特にプランテーション農園等で従事していた人達の多くが朝から晩まで月に2~3日程度の休みしか貰えずに、有色人種であることも相まって差別的取扱いを受けて過ごしていたという。
余りにも酷い仕打ちに脱走を試みる者もいたそうだが、その多くが「脱走者狩り」という手法で捕まり、集団でリンチをされた末に殺害された事例が多く報告されているという。
その事件などを主導したのが農園の地主であったり、地方に赴任されていた警備隊の兵士達であったという。地主にとっては使役している労働者へのガス抜き、警備隊にとっては射撃訓練も兼ねた標的への攻撃として、軍用犬や馬などを動員して脱走した黒人労働者を追い込んで射殺したり、生きて捕まえれば殺すまでリンチにしても咎められない状況であったそうだ。
結果として、欧州協定機構軍が進軍して占領した街においては、黒人労働者を中心に北米複合産業共同体の軍人や労働者を虐げていた経営者が軒並み逮捕されたり、吊るされている状況のようだ。
今まで虐げられていた分の仕返しと言わんばかりにやり返す事例が多発していたようで、多くの場所で北米複合産業共同体の兵士たちが自ら進んで欧州協定機構軍に投降したのも、住民たちからの仕返しをされない為でもあったことが伺える。
「捕虜からの情報も相まって、フランス軍とスウェーデン軍は制圧した沿岸部における掃討作戦を実施しており、補給路の遮断も実行に移されております」
「それは良い事だが……メキシコ侵攻を行っている北米複合産業共同体の対処はどうなっているのだね?」
「北米複合産業共同体の陸軍戦力は確かに脅威ではありますが……あちらの主力部隊はメキシコから次々と撤退しているのも事実です。内陸部経由で撤退をしているのがメキシコ侵攻の際に主力軍とされている部隊であり、この部隊の殿と務めていると思われる部隊と交戦が始まっております」
北米複合産業共同体の主力部隊は想定よりも北上をしてインディアンの部族などが定住している地域を突っ切る形でフランスやスウェーデン軍の追撃から逃れようとしている。
主力軍の大部分はまだメキシコにいるようだが、メキシコへの補給路を遮断すれば必然的にメキシコ遠征軍も干上がるだろう。
ただ、ここで包囲されたら後が無いことを知ってか、北米複合産業共同体も死に物狂いで抵抗を続けている上に、新兵器まで投入しているという。
「今現在の北米複合産業共同体の陸上戦力において……メキシコ北部地域で戦線を維持している軍隊への輸送路を遮断するために、フランス軍とスウェーデン軍が主体となってテキサス方面への攻略を進めております。沿岸部はすでに我々の勢力下に置かれていますが、以前として北米複合産業共同体側の激しい抵抗が行われており、進軍は当初の予定よりも下がっております」
「北米複合産業共同体側も抵抗するのに必死ですからね……しかし、海上輸送の封鎖を行っているにもかかわらず、欧州協定機構軍の艦艇への被害報告がいくつか上がっていますが……やはり、北米複合産業共同体側の新型艦艇が攻撃をしているようですね」
「はい、そちらに関しましては今から配布する資料をご覧ください。二週間前にスウェーデン軍が鹵獲した北米複合産業共同体の新型艦艇となります」
スウェーデン側が提示した資料の中に、北米複合産業共同体の新型艦艇のスケッチが添えられており、そのイラストを見て俺は思わず驚愕した。
船の両脇に円形の水車のようなものが取り付けられており、これを一目見ただけで外輪船が使用されていることが分かったからだ。
(外輪船……!いや、確か史実でも外輪船……もとい外輪船に蒸気機関を取り入れて蒸気船を実用化したロバート・フルトンがいるはずだ……彼の技術供与を受けて開発したのであれば説明がつく……)
この蒸気船は音が大きい代わりに、無風や向かい風の状態であっても一定の速度を出すことが出来る船だ。その艦艇を必要最低限の武装をする代わりに、これらの船が自爆覚悟で突っ込んできたり、船首に大砲を取り付けて正面への砲撃に特化した小型戦闘艇としてなら少々厄介でもある。
現に、これらの船が海上封鎖を突破するためにフランスなどから徴収された私掠船が被害にあっており、粗悪な作りとして知られているTS型輸送船よりも頑丈であり、鹵獲された船も私掠船に搭載されていたネットが外輪に絡まって身動きが取れなくなったからだ。
「夜間にカリブ海の海上封鎖網を突破しようとする北米複合産業共同体側の輸送船が後を絶ちません。これらの船は武装は必要最小限にとどめており、船の乗組員の人数も20名程度の小型帆船が主体です。ですが、これらの帆船と……この蒸気船による艦隊の包囲網を突破する戦術によって少なくとも3隻以上の船を取り逃がしているのも事実です。決して彼らの真意を甘く見ないほうがいいでしょう」
まだメキシコの沿岸部には相当数の北米複合産業共同体の艦隊が残存していると聞く。
彼らが死に物狂いで突進してきた場合、欧州協定機構軍の海軍戦力も相応の被害を受けるのは確実だ。




