1032:時の向こう側
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1796年10月1日
フランス パリ ヴァンセンヌ城
今日はパリ郊外にあるヴァンセンヌ城にて国際会議を行っている最中だ。
ここでは欧州協定機構加盟国の面々が集まっており、各国を代表して大使や使節団などが訪れている。
集まっている理由は今現在も続いている北米複合産業共同体との戦争について語るためだ。
大々的にはヴァンセンヌ会談と呼んでいる……。
この会談において、戦後の北米大陸の統治であったり、メキシコの扱いなどを議論し、戦後の社会秩序について取り決めを行う場となっている。
戦争は我々に有利に進んでいるが、今もまだ戦争が続いているために欧州各国においては戦費の捻出などで課題も山積しているところだ。
スペインやポルトガルでは戦費が想定よりも多く嵩んでおり、特にポルトガルに至っては植民地支配をしているブラジル地域において北米複合産業共同体が嗾けたと思われる農民反乱も発生しており、これの鎮圧に兵力が多く使われていて、損失が激しいという。
ポルトガルに関しては自国の面子も相まって『あくまでも自国領として組み込んでいる南米大陸での農民反乱』として他国からの援助を拒んでおり、フランスとしては双方が話合いを行って自治権を認める代わりにスペインが執り行った独立モデルを参考にしてみてはどうかとこの場で提案を述べたのだ。
「ポルトガルに関しては、ブラジル地域での農民反乱が拡大しているという話を聞いているが……それは事実かね?」
「はい、確かに事実であります。現在農民反乱は拡大しており……お恥ずかしい話ですが、我が軍の半数がブラジル地域で発生した農民反乱に兵力を割いている状態です。沿岸部は政府軍が支配しておりますが、広大なプランテーション農園などの一部が反乱軍によって支配されており、現地では農園の地主などが処刑されているという情報が入ってきております」
ポルトガルの特使が持って来てくれた情報では、ブラジルの内陸部で農民反乱が拡大しており、その勢力は反乱に加わった農民や離反した現地軍を含めて述べ2万人に達する勢いであることが判明している。
2万人もいれば、この時代では一大反乱勢力に匹敵するだろう。下手をすれば中小国の軍隊と互角であり、ポルトガルの本国軍を動員しても鎮圧できるか怪しい。
というか、すでに2万人規模まで膨れ上がっている時点で本国は頭下げて援軍要請をするか、仲介を要請して欲しいものなのだが、どうもポルトガルの本国では面子を重視し過ぎているようだ……。
マリア一世が統治をしているようなのだが、ポルトガルも各地に持っている植民地……ひいてはブラジルの利権絡みで王室が直接指揮を執ると、ブラジルの新興財閥などが輸出などを打ちとめて本国経済を干上がらせると脅しているらしい……メキシコと同じく、植民地政府やその元で潤ってきた派閥が色々と横やりを入れてしまっている状況だ。
この状況は改善しなければならない。
「その件についてだが……スペインがメキシコに対して行った温和政策を実施し、農民反乱を起こした人達だけでなく、現地において改革を訴えている人達の意見を聞き入れて自治権を与えるというのはどうだろうか?農民反乱が拡大してブラジル全域が反乱軍の支配地域になってしまった場合、その反乱軍が北米複合産業共同体に同調し、支配地域から北上してスペインやフランス・スウェーデン統治領の地域に進軍する可能性がある。それを放置しておくわけにはいかないのだよ」
ブラジル全域が反乱軍……ひいては反欧州協定機構派に属する事になって独立運動を南米各地で起こした場合、他の欧州各国もこの反乱軍への対処に兵力を割かなければならない事態となる。
北米大陸の攻略作戦の第一段階が成功し、いよいよこれからという時に他の地域にも独立運動や反乱が拡大して北米複合産業共同体への反撃が満足に行えないと、彼らは持ち前の工業力で復活することだってできる。
品質が悪くても、持ち前の工業力で復活して南米での反乱が拡大して兵力を割かれてしまえば必然的に大幅に増援の兵士も限られてしまう。そんな状況でワシントン……はこの世界では首都ではなく、ニューヨークに首都までたどり着くころには欧州協定機構軍の軍事費と兵力の損耗が激しくなり、国内で和平論が出てしまうぐらいには難航してしまうだろう。
北米複合産業共同体の利点は、本土決戦を行うことで既に自分達の退路がないことを自覚している点だ。
これによって、本国にいる人口を使って市民を徴兵して戦わせる戦術で時間を稼いでおり、さらに固定式で超大型の蒸気野砲を都市部から持ち出しているという情報も挙がっているのだ。
この情報がもたらしている事は、北米複合産業共同体も南部地域を使い潰しても、自分達の持ち前の工業力がある北部地域の死守を命じていることにも繋がっており、ニューヨークなどの北部地域さえ無事であれば、あの国は必ず復活を遂げようとするだろう。
企業国家であり、究極の格差社会を行なっている思想は正すべきだ。
故に、北米複合産業共同体は降伏させなければならない。
彼らと対峙するためにも、ポルトガルなどの同盟国との間で連携が必要なのだ。
ポルトガルが自国のプライドを優先して支援を拒んでいれば、取り返しのつかない事態に発展するリスクが高まる。
現に、反乱勢力が2万人……これは2週間前の速報値であり、今はもっと増加している可能性が高い。
特に、スペイン統治領であったメキシコでの反乱勢力も、メキシコ国内にいる独立派と接触して改革的な政府を樹立して安定に向かったことを考えれば、それと同じやり方を取ったほうがいいだろう。
「ブラジルの事をこの場で吊るし上げるのではない。フランスとしては現在起こっているポルトガルの内政干渉を行うのではなく、反乱勢力との一時的な和平……もしくは自治権を付与する代わりに、双方が会議を行う場を提供したいのだ。メキシコの独立をモデルケースとして貴国の政治的安定に寄与したいのだ」
メキシコの独立を認める代わりにメキシコの歳入のうち5%を支払うことに同意した国家間契約を結んでおり、この同意によってスペイン国内にいる右派の論者を黙らせているそうだ。
ポルトガルでも、独立を認める代わりに歳入の一部を本国に送金する仕組みづくりを取り組んだほうが国内の右派や植民地政府と癒着している新興財閥との関係も悪化はしないだろう。
ただ、財閥が強い権力を握っているとなれば厄介だ。
北米複合産業共同体への戦争に支障が出る恐れがある。
今現在フランス主導で始めている北米複合産業共同体への軍事行動は一定の成果をおさめている。
すでに南部のフロリダ州やアラバマ州、ルイジアナ州、テキサス州の重要な沿岸部を制圧下においた。これにより、欧州協定機構軍は北米大陸における橋頭堡を確保。
サン=ドマングなどのカリブ海諸島付近に一時停泊していた船などから、歩兵や騎兵、それにマイソールロケット砲兵隊などの重武装した軍隊を輸送することに専念が出来ている。
ポルトガルとしても、フランスが仲介をして和平を提案してきた事が重要であり、外交としての切り札は切るべき時に切った方がいい。
フランスの提案に、ポルトガルの特使は何度か頷き提案を本国に持ち帰るといった。




