101:警備とスタッフ
誕生日会はささやかながらも、様々な場所から人がやって来る。
国王である俺やアントワネットなどの王族関係者から招待された者や、閣僚関係者、改革責任者、フランス科学アカデミーなど、実に1000人に及ぶ人々がヴェルサイユ宮殿に招待されたのだ。
久しぶりにヴェルサイユ宮殿が賑わっているようにも感じる。
(如何にも近世フランスって感じになってきたなぁ。この感じは久しぶりのように感じるよ)
この日の為に警備関係者を増員し、通常より200名ほど職業軍人の警備兵も雇い入れた上でヴェルサイユ宮殿の安全対策に講じている。
赤い雨事件のように王族関係者が殺傷されるような悲劇は、もう二度と同じ過ちは繰り返さないぞ。
「召使い長、警備を担っている者達……主に班長クラス以上の者達を今一度集合させてくれ」
「かしこまりました」
召使い長に命じて、班長クラス以上の守衛、衛兵、雇い入れた警備兵を集める。
その数は65名……現在ヴェルサイユ宮殿には500名ほどの兵士・軍属関係者がいるので、7人で1組とした班を作って警備を行っている。
俺は守衛を含めた宮殿の警備を担う者たちに1分弱ほどの演説を行い、警備の徹底を訴えた。
「先日も述べたが、如何なる身分の者が来ても必ず招待状の確認と、凶器を持っていないかのボディーチェックを徹底せよ。チェックを拒否する者がいたら追い返せ。それと、女性の検査は必ず女性が行うように」
「陛下、恐れながら質問がございますがよろしいでしょうか?」
「守衛隊長か……よい、質問を許そう」
「はっ、もし武器を事前に持ち歩いている事を申告してきた者はいかがいたしましょうか?」
「事前申告であれば武器を一旦こちらで預かればいい。ただ、事前申告しても隠し持っている場合もあるから必ずチェックは怠らないように。彼らの従士やメイドも同様にチェックは必ず行え。いいな?」
「ははっ!」
赤い雨事件以来、ヴェルサイユ宮殿の警備は格段に強化されている。
身分証のチェックや身体検査など、貴族・聖職者といえどヴェルサイユ宮殿に入る際には刃物を持ち歩いていないか確認することを義務付けしている。
とはいえ、それでも大勢の招待客がこのヴェルサイユ宮殿にやってくるわけなので、当然ながら身体検査も行わないといけない。
そこで、効率よく身体検査を行えるようにヴェルサイユ宮殿の正面入り口以外の出入口を封鎖して、一か所で行えるようにしたのだ。
検査目的と称して変なトコ触ったと騒がれないように配慮して、30名ほど女性の使用人を身体検査のスタッフに組み込んでいる。
男性であれば抵抗するかもしれないが、同じ女性であればさほど抵抗感も無くなるだろう。
それに仕切りを用意させているので検査中の姿を他人に見られる心配もない。
宮殿にやって来た人物が招待状を持っていなかったり、検査を拒否してくる場合には武器などを隠し持っている場合があるので、別室に連れて行き更に徹底したチェックをするように呼び掛けている。
警備の者達も大変だが、使用人や料理人の人達にとって今日が一番大忙しの日だろう。
サービス課の者はヴェルサイユ宮殿内の掃除や食器の運搬用意は勿論のことだが水差しや酒なども運ぶことになっている。
施設整備課の者達はオペラ劇場で食事を取れるように席替えをしたり椅子やテーブルの運搬、配置を行う。
彼らがこの誕生日会の陰の主役である。
勿論、公務として仕事をしてもらっている以上給料も発生しており、今日は繁忙日ということもあってか彼らの給料はいつもよりも1.5倍増しにしている。
普段から頑張っている人達だし、今日ぐらいはやる気をあげるためにも上げているのだ。
それでいて調理課にいる料理人は1000人分の料理を作らないといけない。
料理はある程度は作り置きできるものを使用しているそうだが、お肉が苦手な人向けに魚料理も提供するらしい。
メイン料理だけでなく、夏の今が旬のフルーツを使った料理は作り置きが出来ないので、常に大人数で作っている状態だ。
厨房を覗いてみると、調理課の最高責任者である総料理長が彼方此方で指示を出しながら作業をしていた。
「オニオンスープが出来上がりました!味の確認をお願い致します!」
「まだスープの味付けが薄いぞ!もっとベーコンやキャベツをぶち込むんだ!」
「料理長!こちらのジャガイモの盛り付けはこれでよろしいでしょうか?」
「ダメだ!この盛り付けでは見栄えが悪い!中心ではなく少しだけ皿の後ろ側に置いておくんだ!」
「あと15分後にスイカが到着致します!在庫はどちらに置きますか?」
「できるだけ日陰に置くように!スイカは直射日光を浴びすぎると破裂するぞ!ここをスイカまみれにしたら他の料理も駄目になるぞ!」
厨房はまさに戦場のような状態だ。
彼らの事は信頼しているし、美味しいご飯を毎日作ってくれているので感謝しつつも、強いて言えばジャガイモの芽はちゃんと摘んでおく事と、料理で魚などの生ものを捌いた際には塩水でしっかりと消毒するようにお願いしている。
特に、手洗いの徹底はお願いしたい。
いやはや、転生して初め厨房に来た時はフツーに色んな所に触ったような手で生肉を捌いていたので肝を冷やしたのは良く覚えている。
とにかく肉類などはしっかり焼けば問題ないという認識だけだったようで、手洗いは業務の終わりとかで行っていたようだ。
近世までなら普通のようだが、現代ではそうした生肉の調理で手を洗わずに色々触ってしまえば十分に食中毒の原因に成りえる。
なので厨房ではしっかりと手洗いや消毒を心掛けるように調理課全体で徹底している。
「厨房に顔を出す必要はなさそうだな……あとは彼らに任せよう」
総料理長はハッキリと物事を言う人ではあるが、あれでもかなり指示に関しては的確に行っている。
料理人としての腕も一流だ。
厨房には警備を行っている守衛の姿もある。
もし問題が起これば守衛が直ぐに行動してくれるだろう。
「さてと、では重要な場所の視察を終えた事だし……俺も今日の誕生日会を成功させるように努力するか!」
そう自分に言い聞かせてから、小トリアノン宮殿へと足を運ぶのであった。