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1024:王政による農地改革

メリッサからしてみれば、フランス革命を行うことが格差社会をリセットできる正義のやり方だと思っていたようだが、俺の行ったブルボンの改革によって既存の特権階級と化していた貴族や聖職者の利権にメスを斬りこんで、税金をしっかりと徴収できるシステムを構築したことに驚いていた。

史実では三部会の反対や離反者によって政治体制が上手くいかなくなり、結果として怒り狂った民衆がヴェルサイユ宮殿に突入し、ルイ16世らは幽閉されてしまったのだ。

この世界においては権力の一極集中ではなく、内閣を組閣して国王はその内閣の決めた法案などを審査し、最終承認を行う立場であることも伝えている。戦前の大日本帝国における天皇の総帥権を持っているようなものだ。


基本的には内閣の決めた法案や軍事行動に関しては最終承認をする立場ではあるが、ブルボンの改革に至っては俺が具体的な改革案を立案・整備してそれを実行に移した10年間に及ぶ集大成の一環でもある。

それを見たメリッサは、現代人の……共産主義的な側面から評価を下した。


「まず、平等に税金を徴収するために貴族や聖職者で免除されていた税金を取り立てるシステムだけど……このシステムを作って税金の収入はどのくらい上がったのかしら?」

「国庫に納められる税収入のうち、30%以上は増えたよ。おまけにオルレアン派が保有していた不動産や事業などはほぼ全て国有化して国の資産に変換したから、それを含めてフランスの赤字状態が大幅に改善されるぐらいには良くなったよ。今のフランスは国の借金は無くなって、負債や債券などは全て回収している状態さ」

「すごいわね……税制改正をするだけでそこまで変わる物なのね……」

「いや、これはこれまで貴族や聖職者に対して税金が免除されていた面が大きいんだ。何かと特権階級として彼らはこれまでにも税金以外にも法律の面でも優遇されていたからね。多少の汚職や不祥事は平民と違って見逃されていたし……それもあって、今回のような法案整備によって改善されたというわけだ」

「土地の国有化による再分配なども考えなかったの?」

「それも候補の一つの挙げたけど、ロシア革命後に農地を小作人に分配して一時的に支持を拡大したけど、結局のところ土地の集団農業開発というのは元農奴の人達をその場所に縛り上げるための方便として使われてしまう上に、農作物を資産と見なして過剰に徴収すれば大規模な餓死を産み出す……」

「餓死を産み出したのは当時の農業環境が劣悪な環境だったのも理由にあるんじゃないの?」

「確かにそれも考慮するべきかもしれないが、1930年代のスターリン政権下でウクライナ地域で強制的な食料の徴収によって数百万人が餓死したホロドモールの件も鑑みれば、そういった富農から強引に土地を国有化したり、再分配政策などは数十年で農業を縮小させる結果になるから、やり過ぎは禁物なんだよ。富農は少なくとも作物の生産ノウハウをもっているし、何よりも小作人たちに給料を支払う立場の人間だ。あくまでも税金をしっかり納めて帳簿を付けるように明文化し、大地主の下で働いている農民にも、大地主などが権力を振りかざして圧政をしているようであれば通報できる窓口も作っておいたのさ。ちゃんと小作人の人達であっても生活できるように法整備をしているんだ」


やはりというべきか、メリッサにしてみればこの時代の大地主が小作人を大量に雇って働かせている構図が少しばかり気に入らないようだ。

表情はムスッとしていたが、この時代に先進的な農地改革を実行したら間違いなく農民反乱が起こって厄介なことになる。なにせ、フランス革命時にも革命に反発した南部地域の農民を中心に王党派による反乱が勃発しているからだ。

この反乱に参加したメンバーであったり、反乱が起こった地域には反革命分子が混じっているとされて当時の革命政権による激しい弾圧が行われて、当時の資料では数十万人規模で犠牲者が出たとされている。


革命政権によって貴族や聖職者の特権階級が無くなっただけではなく、王政よりも弾圧的な革命政権が誕生したことで恐怖政治が続いたのだ。

最終的なことを言ってしまえば、革命政権というのは長続きはしないのだ。

理想的な事を述べて国民からの支持を集めることが出来るかもしれないが、支持を失えば弾圧を行って粛清を平気でやるようになる。

結果として国民のための政治ではなく政治権力の保持のために、国民を弾圧することを躊躇いもなくやる政治になってしまう。


「それに、この時代に権限を持っている富農や貴族や聖職者を完全に取り潰すような事は、彼らの私有財産などを全て取り潰すことになるし、そんなことをしたら諸外国からの信用を失ってしまうよ。現に、フランス革命の際には革命を恐れて対仏大同盟が成立したぐらいだからね。貴族や聖職者の中には諸外国の貴族から嫁いできた人もいる。そういった人達が反発をすれば周辺諸国との関係悪化にも繋がってしまうのだよ」

「それは分かっている。だが、階級による身分格差が広がってしまうのは良くはないだろう。格差是正のために税金を貴族や聖職者からも取り立てているのはいい事だが、それで国民の生活改善が出来たら、より儲けが出ている企業や貴族に対して税の課税を増やすべきではないだろうか?」

「それも案としてはいいかもしれないが、今まで免除されていた分の税の納付だけでなく、さらに追加で課税という形で彼らに負担を増やしてしまうのはよろしくないことでもあるんだ」

「あら、名案だと思ったけどどうしてかしら?」

「増税すれば彼らは税金の納付を渋るようになるだろう、結果として大地主や地方貴族の多くが粉飾決算をやりだすようになってしまう。粉飾決算で負債を隠すようになってしまうんだ。ソ連の経済が80年代に慢性的な停滞状態になっていたのも、国有企業が結託して見せかけの経済を良くしようと粉飾していたが故に起こった事案だよ。だからある程度絞ろうとするのではなく、余力を残した上で管理させるんだ。じゃないと国内の産業が空洞化したりする要因にもなってしまうんだ」


故に、俺は急進的なやり方ではなくこの時代でも出来るやり方であり、かつ一般大衆からも支持が期待できるやり方に拘っているのだ。

言われてみれば、今の王政政治の権限でやれることも出来なくはないが、農民の生活基盤を根本から変えてしまえば、生活が上手く成り立たなくなって政治的な混乱が発生するリスクがデカい。特に、この時代は国民の半数以上が農民の時代でもあるのだ。


この時代に、地方を敵に回すことは死を意味する。

地方によって大都市圏の生活基盤が成り立っている時代であるが故に、その地方の人達を無碍にするようなことをすれば反逆が起きて鎮圧する労力も掛かる上に、彼らは数世代に渡って統治者を恨むようになるだろう。

そうなって余計な火種は抱えたくはないのだ。

メリッサにもその旨を丁寧に説明した上で伝えたのであった。

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