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第九話 とうとう出てきた合わせ出汁が凄い物であることを示唆させる回

 ある程度は予想できていたが、手から離れても昆布も同じように効果があった。

 問題はその効果だ、乾燥昆布には、なんと体力回復効果がついていた。

 生昆布でも同様だ。

 怪我をした部位に生昆布を張り付けると、自然治癒力を高めて怪我が回復する。

 その速度は回復魔法や体力ポーションと同等だというのだから、昆布の力には恐れ入る。

 なお、昆布本来の美容効果も強化されており、かぶれそうだから止めたんだけど、昆布パックをしたメグさんとサーナさんの肌は、輝いていた。しかもかぶれることもなかった。

 これは昆布から出る粘液だけでも効果があるようで、この世界のすべての女性の神となるなんて持ち上げられた。

 出汁は、もう予想できているだろう。

 そう、最高級のポーション並みの効果に加えて、肉体強化能力のおまけつきだった。

 ライトさんが雄たけびを上げながら打ち込みをしてたぎる熱を冷ましている。


「これは世界を変える能力ですよツユマル様!」


「付与魔法がアイテムでできるとなればかなり助かる冒険者や魔物から町を守る兵士たちも救われます!」


「いやー、凄い物を出せるようになったんですね……」


「凄いなんてものじゃないですよ! 世界が変わりますよ!」


「なんだか、怖いな……」


「確かに、これでツユマル様の価値は計り知れない物になってしまいましたね……」


 俺は静かに蕎麦屋でもしてたいんだけど……

 でも、人を救うことが出来るなら手の届く範囲でがんばりなさいとばっちゃが言っていた。

 

「私が出した物であればだれが作っても同じ効果か調べたいですね。

 それと、合わせ出汁というものがあります。それも作ってみますね」


 すぐにサーナさんが信用のおける3名の料理人を集めてくれた。

 俺は彼らにだしの取り方を丁寧に指導する。

 そんなに難しい作業ではない。

 自分では合わせ出汁を取る。時短で行くために乾燥昆布を多めに水から弱火で焚き上げる。

 沸騰寸前で昆布は取り出しておく。これ自体も治癒効果があるので大切に取っておく。

 そこから中火にして沸き立ったら薄めに作り出した鰹節をざばっと入れる。

 弱火にして灰汁を丁寧に取って布で濾してやれば、黄金色の昆布と鰹節の出来上がりだ!


「……確かに綺麗な出汁だけど……ほんとに輝いているような……?」


「こ、これが……あの二つを合わせた……」


 移した容器の中で、出汁が放つとは思えない淡い光を放つ何やら神々しい液体を皆が見つめている。

 ポーション用の容器を使わせてもらったので見た目はくすりっぽい。

 中身は料理に使う出汁なので、なんだか、変な感じだ。そう感じてるのは俺だけだけど……


「サーナ様、どうしましょうか……これ……たぶん、すさまじい物なのは間違いありませんよね……」


「そうね……ライト……ギルドへ行って鑑定士を派遣してもらって下さい。

 ギルド長へ直接私の名で依頼を出してください」


「かしこまりました」


「こっちの削り節を使うと二番だしが出来るのでそれも作りますね」


「は、はい!」


 出汁を取り終えた昆布と出涸らしを鍋に入れて水をそそぐ、中火ぐらいで水が沸騰するまで煮たら弱火にする。

 5分ほど煮込んだら追い鰹を入れて弱火のまま2分ほど煮込む、あとは同じように布で濾せば出来上がりだ。

 さすがにここまで出した鰹節は醤油酒味醂砂糖で煮込んでおかかにしたりするぐらいしか利用方法がない。

 一応実験なのでちょっと塩味つけて食べてもらうと、この状態でもまだ魔力回復能力が残っているらしい。

 そして、出来上がった2番だし、合わせ出汁も1番だし程ではないが、ぼんやりと光っている。

 さすが合わせ出汁だ。


「ツユマル様、それぞれ出汁が出来ました」


 鰹出汁、昆布出汁、合わせ出汁が完成した。

 少なくとも合わせ出汁は輝いてはいない、美しい黄金色で素晴らしい出汁が取れているのは香りでわかるのだけども……


「どれどれ……うん、とても美味しくとれてますね。メグさんお願いします」


「はい……おお、大丈夫です! きちんと魔力が回復しています!

 付与は……えい!」


 メグさんが手をかざすと火球が的に向かって飛んでいく。


「……魔力は回復しますが、付与効果は……

 どうやらツユマル様が御作りになった者だけのようです……

 それでも魔力回復ポーションが出来ただけでも凄いことですよ!」


「自分としてはこれで早く料理を作りたいんですが……」


「これで、料理を……」


 メグさんがものすごく不思議そうな顔をしているが、本来の用途はそっちなんだが……


「例えばあの肉と野菜のスープなんかも水の一部をこれにすればぐっと味わいに深みが出ますよ」


「な、なんだかとんでもなくもったいないことをしているような気分になりますが……」


「私のいた世界の故郷ではこの出汁が料理の基本と言ってもいいくらい日常的に使っていましたよ」


「なんという……よほど猛者ぞろいの国なんでしょうね」


「い、いやぁ……どうでしょう?」


 どちらかと言えば疲れた人々が多かったような……


「皆さんが作った合わせ出汁も非常に美味しいです。さすがは料理人の方々ですね」


「確かに、この味わいをベースにスープでも作れば逸品が生まれそうですね」


「煮込み料理もいいですよー」


 それから料理人の方々と料理談義をしているとライトさんが帰ってきた。


「お待たせいたしました。鑑定士の方をお呼びしました」


「これはサーナ様相変らずお美しい。お急ぎの用ということでケムリが参りましたぞ」


「これはケムリ様、ご無沙汰しております」


 美しい黒のローブに身を包んだ初老の男性、立派なあごひげが胸のあたりまで蓄えていて、魔法使いといえばこんな感じ! って見た目をしている。


「ケムリ様がいらしたのなら話が早いですね。

 実は、迷い人の作成されたアイテムの鑑定をお願いしたいのです。

 どうやら、認定していただく必要があると思いまして」


「ふむ、それは大事ですね。それほどの物ですか?」


「ええ。世界を変えるかもしれません」


 俺がとった出汁を前に何やら大事になりそうな話をしている。

 齧っていた昆布がおいしい。 

 

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