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第五話 スキルを与えてくれた存在がいそうなことを示唆する回

 メグと呼ばれた女性は馬車に乗る前に外套を外し俺とサーナに挨拶をしながら室内に入ってくる。

 美しい暗いワインレッドの落ち着いたローブに身を包んだ彼女は1mほどの杖から戦闘中には炎の玉を出してゴブリンと戦っていた。所謂魔法使いのお姉さんというやつだ。

 サーナさんが柔の美人とするならば静の美人とでも表現しようか、ほとばしる知性がその美しい顔にも反映されているような気がする。スリムなスタイルと長い手足、日本では雑誌の中でしかお目にかかれないレベルだと、思う。お客さん以外に女性と接点が少ないからな、俺。


「先ほどはご挨拶も致しませんで大変失礼いたしました。

 メグと申します。デガラシ様、先ほどは命を救っていただきまして本当にありがとうございました。

 それと、ライトが失礼なお呼び方をしたことを謝罪しておりました」


「……? 呼び方……ああ! お気になさらないように、どうぞメグさんもツユマルとお呼びください」


 女性と話すときは接客スイッチが入る。

 しょうがないじゃないか、こんな綺麗な人と縁がない人生だったんだもん……


「ツユマル様、申し訳ございませんが先ほどの食べ物を出していただけますか?」


「あっ、はい」


 俺は右手からファサファサと最薄削りの鰹節を生み出す。

 メグさんはサーナさんに促されて鰹節に口入れる。


「こ、これは!?」


 美味しいでしょう美味しいでしょう、クールな表情がふっ……と緩んだことを俺の瞳は見逃しておりませんぜ。まぁ、俺は出してるだけで何もしてませんけどね……


「サーナ様! 間違いありません、魔力が、魔力が回復しています!」


「まぁ! それではこれは魔力ポーションと同じ働きが?

 凄いですわツユマル様、魔力を回復させるポーションはその価値から非常に高価、もしそれを量産できるとなれば魔力に対する憂いはなくなり、冒険者や魔法を扱う人々がどれだけ助けられることができるでしょうか!?」


 何やらすごいことらしく、サーナさんとメグさんがものすごく興奮して喜んでいる。

 なんだろう、ここは天国だろうか……眼福眼福……


「あのー……申し訳ないのですが、魔力とかよくわからなくてピンと来ないのですが、お役に立てるのだったら嬉しいです」


「ツユマル様は謙虚でいらっしゃいますね!

 そのお力が本当であれば国賓として遇されると思いますよ!」


「……あまり目立ちたくはないのですが……」


「はっ!? し、失礼しました。こちらばかり勝手に暴走してしまって……

 そうですよね、ツユマル様にもお考えがございますよね、メグ、このことは他言無用。

 ライトもそのようにお願いしますよ」


「「はっ!」」


 馬車が走っている間もライトさんは並走しているのか、すぐそばから声がした。

 なんにせよ、俺の鰹節はこの世界の魔力的な物を回復するらしい。

 それから魔法についてやこの世界のお話を受けながら、気が付けば町へと到着していた。


「その、ツユマル様、馬車から降りると少々匂うかもしれません……」


「匂う? ……ん? 確かに少し……生臭い……?」


 馬車から降りると、大きな屋敷の前につけられていた。

 建築様式としては西洋式、雑誌で見たヨーロッパ風の建物、石造りと石膏で塗られた外壁、以前の俺とは縁がなさそうな美しくおしゃれな街並みだ。

 でも、町全体に妙なにおいがする……


「そんなにひどくないですが、なんというか、魚臭いというか……」


「ええ……この町は海が近いのですが……この国、いや、世界の海は汚れているのです……」


「この匂いは海から……」


 なぜだろう、胸がざわつく。


「私の出す物は海から取れるはずの物なんです……

 海を見させてもらってもいいですか?」


「……わかりました。

 大変申し訳ないのですが、私はいくつか所用がございましてご一緒できないので、ライト、ツユマル様をご案内してあげて」


「ははっ!」


「すみませんわがままを言って」


「いえいえ、ライト海を見終えたらツユマル様をギルドへお連れしてください。

 手続きをして、仮の住居はうちでいいでしょう」


「かしこまりました」


「な、なんだかお世話になりっぱなしですみません……」


「いえいえ、ツユマル様は命の恩人、この程度で恩は返せたとは思っておりません」


「いやいやいや、それこそ私も成り行きでああなっただけなので、ほんと気にしないでください……」


「フフフ、ツユマル様は謙虚ですね。でも大丈夫です。

 こちらもツユマル様のお力をお借りするつもりでお助けしています。

 お互い様ということで」


「ああ、そういうことなら。お手伝いします!」


「それではツユマル様またあとでお会いしましょう、ライトは優秀な者です。どうぞお使いください」


「何から何まですみません、またお伺いいたします」


 サーナさんは華麗なしぐさで礼をして屋敷へと入っていく。

 護衛の方々も俺なんかに過分な挨拶をしながらそれに続いていく。

 屋敷の規模からしてもサーナさんはかなりの実力者であることがうかがえる。

 いい人と知り合えたことをこっそり喜んでおく。


「中央通りをまっすぐ歩けば海になります」


 イケメンと並んで歩くとちょっと気後れしてしまう。

 なんか町の人もこっちを見ているようだし……

 鎧を外して普段着であろう格好になったライトさんは、なんだろう、王子様のオフショット? みたいなまた別の魅力があふれている。

 それに比べて、俺は……


「ツユマル様、失念しておりました。こちらをお使いください、その格好のままだと目立ちすぎますので」


 ライトさんが外套を渡してくれた。

 そうか、俺の格好はこの街だとかなり変わっているんだ。


「目立ちすぎると、悪い奴も目をつけてきますので……」


 そっと耳打ちをしてくれた。俺が女の子だったら落ちたな。

 キュンとしちゃった。


 海に近づくにつれ匂いが強くなってくる。

 少し痛んだ魚がそこら中にあるような、道行く人もどんどん少なくなっていく。


「遥か昔は……海は美しく様々な実りを与えてくれるものでした。

 それが、魔王のせいで……この有様です」


 少し丘っぽくなっている道の終点、その先は元は港だったのであろうエリアになっていた。

 

「これは……強烈ですね……」


 少し目にも来る匂い。マントで鼻と口を押えても臭い。

 その原因である海は……酷い有様だ。東京湾だってこんなことにはなっていない。

 むしろ最近の東京湾は綺麗になっている。

 どうでもいいけど。


「ヘドロかこれ?」


 海面に黒と緑を混ぜて紫をばらまいたようなヘドロとぶくぶくと泡が立っている、とてもじゃないが触ろうとも思わない。


「一応触っても皮膚が溶けたりはしませんが、飲むと3日ぐらいは下痢と嘔吐が止まらなくなります」


 やったやつがいるのか……

 あまりに酷い光景に俺は泣きそうになってしまう。


【……れ……】


「ん? ライトさん何か言いました?」


「いえ、私は何も……」


【……を、……れ……】


 いや、確実に声が聞こえる。


【だ……を、とれ】


 頭の中で段々と声が大きくなる。それと同時に左手が熱くなってきた。


「な、なんだ? この声は……く、それに、し、静まれ俺の左手!」


 中二病患者のようなことを言ってしまった。


「どうなさいましたツユマル様!?」


「なんか、声が、それに腕が!!」


【出汁を取れ!!】


「うおおおおおお!!」


 左手から俺の意志と関係なく、大量の昆布が海に向かって放出された……


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