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第四話 どうやらスキルで作る鰹節や昆布には特殊な能力があることを示唆する回

 今俺の前には見たこともないような美女が座っている。

 そして、こんな狭い空間に俺なんかが一緒にいていいのかと思ってしまう。

 なんたってそのサーナと呼ばれた美女は美しい深い緑の髪、大きく優しい瞳、スッと通った鼻筋、ぷっくりとした唇、からの、何が入ってるのと言いたくなるほどの抜群のスタイル、ボンキュッボンとはまさにこのこと。上品なドレスのような洋服からあふれ出る色気に俺は耐えられるのだろうか……


「ど、どうも、は、はじゅめまして」


 噛んだ。


「どうぞかしこまらないでください。私たちは貴方様、ツユマル様に命を救われたのです。

 申し遅れました。私サーナ・リースタニア、どうぞサーナとお呼びください」


 ……美しい。お辞儀をすると、まぁ、男ならそこに目が行くのは仕方がない、おっちゃんこんな素晴らしい景色がこの世にあるなんて知らなかったよ。

 天国にいるおっかさん、おとーちゃん、俺、今、幸せだよ?


「……ツユマル様?」


「あ、あ、し、失礼しました! 露丸です。出涸 露丸」


「もしかしてツユマル様は東の流れをくまれるのですか? それでしたらデガラシ様とお呼びするべきでしたね、大変失礼をいたしました」


 ああ、なるほど。サーナさんは米国とかと同じくファーストネームとラストネームの作りなんだね。

 最初に来るのが名前で、後に来るのが苗字となるわけだ。なるほどなるほど。


「ライトから伺いましたが、デガラシ様は創造魔法の使い手、しかも迷い人であるならば我らの想像を超えたお力をお持ちなのでしょうね」


「あ、あの、どうかツユマルとお呼びください。それと、創造魔法かどうかは自分ではわかっていないのです。なにぶん気が付いたら草原に立っていたもので……そういう、迷い人でしたっけ? 

 そういう人はたくさんいるんですか?」


 サーナさんは俺の質問にも最高の笑顔で優しく答えてくれる。美しい。


「ツユマル様、まずはこの世界、この場所の説明からいたしましょう。

 ツユマル様が降り立った草原はグリード大草原。我が国シーサイド王国の南に広がる草原です」


 ふむふむ、シーサイド王国、王政の国家なのかな?

 シーサイド、海があるのかな? てか、今更だけど言葉が通じるな……


「そういえば、当たり前なのですが、言葉通じるのですね」


「ええ、迷い人達はこの世界のすべての言葉を理解して話せると伝え聞いています」


 なんという便利機能付き!


「では、迷い人のお話を。

 迷い人はこの世界に稀に表れる存在で、別の世界から迷い込んだと言われています。

 先ほどの言語のように不思議なお力と知恵をお持ちの方が多く、我が国では大変大事にされております。ツユマル様も町へ着いたら登録していただければ色々と援助を受けられます」


「それは、ありがたいです」


 美しい。


「ツユマル様は我が国に降り立って運がよかったですね。一部の国は迷い人を道具のように扱うところもありますから」


 笑顔で恐ろしいことをおっしゃる。


「そ、そうだ! あの襲ってきた奴らは何なんですか?」


「ああ、魔物がいない世界からいらっしゃったんですね。

 赤い目をした魔物、人気のない闇から生まれると言われている存在で、私たち人間や動物を襲ってきます。倒すと塩と魔石が手に入りますが、非常に危険な存在です。

 でもツユマル様はそのお力がありますから冒険者になって魔物狩り(ハンター)を目指してもいいかもしれませんね」


「冒険者というのはわくわくしますね!」


「ところでツユマル様、ゴブリンをまるでパンを切るように一刀両断した武器は、ツユマル様の()()なのですか?」


「あ、ええ、そうですね。なぜかあんなものが作れるというか出せるみたいで……」


「出せる?」


「こんな感じで」


 俺は右手から鰹節をはやしてみる。


「様々な武器に変化したと聞きましたが、魔力を使われた気配もないですし、素晴らしい能力ですね!」


「左手からはこんなのが出るんですけど、戦いには向かないかと……」


 にゅるんと生昆布と乾燥昆布をはやしてみた。


「こ、これは????」


 見たこともないのか困惑している。無理もないよな……その表情も、綺麗だ。


「生き物……なんですか?」


「私のいた世界では昆布といって、食べたり出汁を取ったり……」


「食べられるものを作り出せるのですか!?」


「え、ええ。右手のこれも一応食べられます。食べます?」


 俺は自慢の極薄づくりの鰹節を作り出してサーナさんに見せてみる。

 よく考えなくても気持ち悪いよな、ちょっと自分の行動を後悔した。

 それでも恐る恐るサーナさんは鰹節に触れて一つまみ口に入れる。


「!!」


 驚いたサーナさん。綺麗だ。


「お、おいしい! 素晴らしいですわ! 食料を生み出せる能力なんて聞いたことがありません!

 ツユマル様は王国の救世主になるお方なのかもしれません!」


「い、いやぁ……鰹節と昆布ですよ?

 確かに鰹節にはイノシン酸を始めとする様々な栄養成分と旨味成分が含まれており疲労回復、ダイエット、美容健康に多大なる効果がありますし、昆布にもグルタミン酸を始めとする旨味成分をもっており、イノシン酸とグルタミン酸は同時に使用すれば相乗効果で非常に強力なうまみ成分となり、料理の味を一層華やかなものにして、塩分の使用量を減らしたり健康面では素晴らしい効能が期待できます。

 女性にとっては美容効果も非常に有益でしょうね。豊富なビタミンにヨード、保湿成分など計り知れない美肌効果、抗老化作用、血糖値抑制、脂肪吸収阻害など、素晴らしい食物であることは否定しませんが……」


 しまった。童貞にありがちな自分の知っている知識の話になると早口になって相手のことを全く考えないトークを発揮して場をしらけさせてしまうパッシブスキルが発動してしまった。


「さすが迷い人の深淵な知識は伝え聞いた通りですね!」


 まさかの高評価。


「先ほどのなんといえばいいのでしょうか、口に入れるとあっという間になくなってしまうのに美味しさだけが舌の上に残っていて、あんな食べ物食べたことありませんでした!」


「我ながらあれは最高の品と思います。変な力ですが、この力のおかげで命を助けられましたし、感謝しかありません」


「……気のせいでしょうか……? 先ほどのカツオブシを食べたら……魔力が……

 ライトいますか?」


「はいサーナ様おそばにおります」


「メグを馬車に呼んでちょうだい」


「かしこまりました」


 俺の鰹節と魔力が何の関係があるんだろう?

 とにかく、こちらの世界でも鰹節を美味しいと思ってもらえるのは正直うれしい。

 どうやら路頭に迷うこともなさそうだし、ホッと胸をなでおろすのでありました。


「失礼します」


 馬車が停車して扉が開くと、これまた別嬪さんが乗り込んできました。

 お父様、お母様、僕、こんな美人二人とこんな狭い部屋に存在していいのでしょうか? 

頑張れ、俺。

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