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第三十三話 ようやく城へと呼ばれる回

 昨日は夢のような時間だった。

 その後、ふわふわと浮いたような感じで宿に帰った。酔いのせいではない。

 あんな時間、そうそう味わえないな……

 とりあえず、まだ日も出ていないが、妙に目が冴えてしまった。

 宿から出て水場に向かう、外の空気はまだ冷たいが、その静けさが昨日の興奮がいまだに残る身体を冷ましてくれるようで心地がいい。

 

「ちべたいっ!」


 水がこれでもかってぐらい凶悪に冷えていた。

 恐る恐る布で体を拭くとばーーっと鳥肌が立ったが、意を決してごしごしと乾布摩擦だ!


「うおおおーーーーーーー」


 大声は迷惑なので小声で。

 でも、だんだんと体があったまってきた。

 

「なにやってんだお前は?」

 

 またライオネンから声をかけられた。一体いつから鍛錬してるんだこの人は……


「最近飲みすぎだからな」


「耳が痛い」


「ネクタルで酔い覚ましとか、信じられない使い方をしているから楽だけど、身体はなまる、若くないからな」


 しかし、ライオネンの肉体を見て、老いを感じる人間はいるのだろうか?

 

「見た目じゃないぞ、動かし方とか力とかな、お前もあんまりサボるなよ?」


「そうだな、今日は予定ないからギルドに顔出そうかな……」


「良い心がけだ、俺も付き合おう」


 そんな会話をしながら二人で身を清める。

 しかし、結局ギルドへ向かうことは無かった。

 急転直下、朝食中に王城からの使いが来た。

 しかも、謁見は昼。異例の先触れだった。


「ツユマル様、すぐに準備をしましょう」


 ちょっと、ぎくしゃくしたサーナ様との会話もすぐに緊迫した空気が流れる。

 それからはドタバタと準備に追われることになった。

 ギルドからも手伝いが来てくれてシンサールには感謝だ。

 なんと言ってもこの国の王様に合う、そんな経験はもちろんない。

 ただただ失礼のないようにしなければと頭がいっぱいになる。

 昼飯を食べている時間はないので、ささっと野菜たっぷりの味噌汁を作って流し込む。


「うん、良い出汁だ。うまい……」


「おっ、ツユマル俺にも一杯」


「ツユマル様……いい香りですね……私もいいですか?」


 慌ただしい中でも、味噌汁をすすると不思議と心が落ち着く。

 

「体が芯から温まりますね」


「ネクタル入りですからな」


「味噌汁はホッとする味なんですよ」


「確かに……」


「一戦前に落ち着かないとな……」


「大丈夫ですよツユマル様、私が、私たちが側にいます」


「そうだぜ、『友達』なんだろ?」


「ぬぐっ……」


「なんだか皆さんすぐ仲良くなっていいですね……」


「男は単純ですからね、酒を飲めばすぐ仲良くなっちまうんですよ。

 なんならサーナ殿もこれが終わったら祝杯でもあけますか?」


「いいですね。ぜひご一緒させてください」


「じゃ、じゃあ頑張らないとですね!」


 そんなこんなで準備を終えると、ほどなく王城からの案内がいらっしゃることになった。


「王がお呼びです。王城までご同行いたします」


 高級店街で見た近衛部隊に先導されながら王城へと向かうというのは、なかなかに気持ちがいい物だ。

 俺たちの馬車を街行く人が何事かと眺めたりして、少し有名人気分だ。

 

「ん? ……サーナ様、その服……」


「あっ……はい、その、ツユマル様が選んでくださったので……

 儀礼的にも問題ないと言われまして……ど、どうですか?」


「と、とてもお似合いですよ」


「……やった。あっ、いえ、う、嬉しいです!」


 な、なんだよ今の小声の『やった。』って、もうさ、完全に天使だよね。間違いない。


「はー……、俺どこか行ってましょうか?」


「おいっ!」


「い、いやですわライオネン様……」


 ほーらへんな空気になっちゃったじゃん、昨日変なこと言われて変に意識しちゃって変になりそうなんだよ。頭の中では突然変なこと言ったらどうなるかな? とか危険な思考が回ってます。

 馬車って空間が狭いんだよ、なんていうか、耳を澄ますとサーナ様の呼吸音とか聞こえて来そうで!

 距離もどうしても近くなるし、膝を突き付けるような距離でサーナ様といると、もう、心臓の音とか漏れないか心配になっちゃうんだよ!


「お、ツユマル正門にわたる橋だぞ。人口湖なんだぜここ」


 外を見ると王城を囲う様に水場があって橋が正門に伸びている。

 これが人工的な建造物ならかなりの労力がかけられている。


「もし襲われたら橋を落とせば籠城しやすそうだな」


「そういう風に作られているからな、ってもっとなんか綺麗ですねとかいつもみたいに言えよ急に殺伐になったじゃねーか」


「ふふふ……」


 俺たちのあほなやり取りに笑ってくれるサーナ様。

 そうだ、サーナ様の恩義に報いて俺もプレゼン頑張らないと!


「着いたみたいだぜ」


 馬車が止まる。目の前には大きな正門が(そび)え立っている。

 馬車から降りると、周囲の湖から冷たい風が吹き込む。

 この場に誘い込んで退路を断つのもいい戦法だなとまた物騒なことを考えていると、ゆっくりと扉が開いていく。


「おお……」


 思わず声が出た。

 人造の湖の中央にこれほど巨大な城が存在していることと、その大きさだけではない華麗さに思わず目を奪われてしまった。

 統一された意思で美しく作られた建築はこうまで感動を産むのかと感心してしまう。


「皆様、どうぞこちらへ」


 正門を抜けると手入れの行き届いた中庭、そこを抜ければ城の正面門になる。

 全体として、高級品を使っているというよりは細工と管理で美しく見せる工夫が好感が持てる。

 今のこの国の現状はいろいろと聞いているから、あまり華美だとうがった見方をしてしまう。


「こんな仰々しくやるから何日も待たされるんだよ」


「オホン!」


 ライオネンのひそひそ話にサーナ様が咳払いを放つ。

 でも、正直俺も似たような感想を持っていた。


 その後、応接室で再び待たされることになって、余計にその思いを強くしたのだった。


 







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