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第二十五話 キンキンに冷えたビールを飲み干して悪魔的な美味しさな回

「ライオネンさん、シンサールさんも本当に気をつけてくださいね」


「なあに、俺一人でも十分だが、この街ならシンサールがついていて間違っても何か起きたりはしない!」


「おまかせくださいサーナ殿」


「本当にお願いしますね。ツユマル様も気をつけてくださいね」


「心配をおかけして申し訳ありません。十分気をつけます」


 この二人に喧嘩を売る人間なんていないと思うけど……

 それに、まだ時間は日が沈んで間もない。

 日本にいたころならば夜はこれから、というか、夕飯も食べていないような時間だ。

 こちらの人々はだいたい朝の5時には朝食を食べて夕方5時くらいには夕食になる。

 とっても健康的な生活を送っている。

 かがり火は町の周囲で獣や魔物から町を守る意味合いで使われるので、夜の街は暗くなる。

 が、王都は違う。

 町中のいたるところに魔道具の街灯が設置されていて、日が沈んだ後も眠らない街だ。


「流石は王都ですね」


「久しぶりに来たが、やはり、王都の夜は良いもんだ!」


「これから行くところも、華やかだぞ!」


「でも、なんだか、懐かしいですねこの香り……」


「ああ、海の匂いか……色々と対策はしてるが、僅かにはな」


「ツユマルなら消せるだろ?」


「はい、ですが王の前にお見せするまで待ってほしいってサーナ様に……」


「なぁツユマル。別になんでもなければいいが、サーナ殿と何かあったのか?」


「ふぁっ!? い、いや、何にもないですよ!」


「そうか、気にしすぎならいいが、妙に他人行儀というか……サーナ殿も寂しそうだったし……」


「ツユマル殿、あのような素敵な女性を袖にするとは……流石は迷い人」


「いやいやいや!! あんな素敵な人、ぼ、俺なんて、相手にならないですし、相手は領主さまですし、勝手にこっちがどう思っても身分の差というか、そもそもそんなこと思っても迷惑というか……」


「ははぁ~ん。なるほどぉ、ツユマル、お主、女を知らんな?」


「な、何をおっしゃいますかライオネンさん、女なんて、そりゃ、もう、あれですよ」


「なるほどぉ、そういうことでしたか。ツユマル殿は奥手ですなぁ……

 そういや、どことなくアイツに似てるからなぁ……」


「ああ! なるほど、ツユマルを見ての既視感はアイツか!」


「な、何なんですかアイツって……」


「まぁ、詳しい話は店でしましょう、さ、ここがまずは一件目のおすすめですよ!」


 建物はそれほど大きくなく、丸太と木組みのログハウスのような作りだ。

 大きくせり出したウッドデッキにもたくさんのテーブルが並んでおり、多くの人でにぎわっている。


「お前が勧める店っていうから気取った店かと思ったら……わかってるじゃねーか!」


「なんだかな、昔に戻ってこういう店で騒ぎたくなったんだよ」


 まるで西部劇のような木戸を抜けると思ったよりも内部は広い、天井の高さがそう感じさせるんだろう。それでもテーブルとイスが所狭しと並んでおり、人々の熱が凄い。でも、この喧噪嫌いじゃない。


「おやまぁ、マスターがいらっしゃるとは珍しい、部屋を取りますか?」


「いや、普通の席がいいな、何だ、見知ったやつらが多いな?」


 周りを見ると、どこかバツの悪そうにしている冒険者風の男たちが多い。


「気にするな、今日はプライベートだから、好きに騒げ。

 ま、今日は気分がいい、女将さん、皆に一杯奢ってやってくれ」


 シンサールさんが女将さんに金貨を渡すと周囲から歓声が上がる。

 店の中でも雰囲気の良い席で飲んでいた冒険者たちがささっと立ち上がり、その一番いいであろう席を譲ってくれた。

 カッコいいなシンサールさん、こういうことが出来るのが大人の男ってやつなんだろう。

 それから酒場は喧騒を取り戻す。


「それでは、三人の幸運に乾杯!!」


「「カンパーイ!」」


 木製の大きなグラスになみなみと注がれたエールを飲み込む。


「おお、冷たい!」


「王都のエールは魔道具で冷やされているからな、汗臭い冒険者が火照った身体を冷やすのに最高だ!」


 冷たいエールが喉を抜けると心地よい刺激と苦みが体を貫く。

 やっぱり、とりあえず生ですよ!

 こっちのビールはかなり濃い、栄養補給的な役割も担っているとライオネンさんが教えてくれた。

 

「飯は食ったが、まだ食えるだろ? ツユマル殿のあのネクタル料理ほどじゃないが、ここの料理は酒の肴としては一級品だ。楽しんでくれ!」


「はい、楽しみです!」


「あ、あの、刃風のライオネンさんですよね? あ、握手してもらえますか?」


 ふと見るとライオネンさんの前に若い冒険者が行列を作っている。


「す、凄い人気ですね……」


「まぁ、俺もライオネンもそれなりに名前の売れた冒険者だったからな。

 特にライオネンは引退したらすぐに田舎に引きこもっちまってよ……」


 なんだかすねたような寂しいような表情でシンサールさんが教えてくれた。


「なんだ、寂しかったのかシンサール? まさかお前がギルドマスターとはなぁ……

 そういやアイツはまだ見つからないのか?」


「ああ、未だに足取りは不明だ……」


「アイツって言うのは、さっき言っていた?」


「そう、俺らのパーティ……白銀の狼のリーダー、ブレイド。

 どうしようもない馬鹿だが、まっすぐで気持ちのいい馬鹿だった」


「ほんとになぁ、あんな馬鹿はなかなかいないぐらいの馬鹿だった……」


「……そのブレイドさんが、俺に似てるんですか?」


 褒められた気分が一ミリもしない。


「そう、あいつは鈍感でなぁ……

 ヒーロも苦労してたよなぁ……」


「ヒーロも消息を絶っている……二人とも、どうやらロダルギーアのダンジョンに向かった可能性が高いところまでは分かっているんだがな……」


「あの広大なダンジョンか……普通なら、望みは薄いが、あの馬鹿だからなぁ……」


「そう、あの馬鹿だからまだ生きている可能性が捨てられない。

 ただ、だからと言って、あのダンジョンに探索を出すのは無理だ……立場的にも……」


 二人はグイっとエールを飲み干しお代りを頼む。

 俺もそれに合わせて一気に飲み干す。

 どうやら、二人の過去にはいろいろあるみたいだ。


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