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第二十話 王都入りする回

「ツユマル様、王都が見えてきましたよ」


 サーナさんが馬車の窓を指差す。覗き込んでみると巨大な石造りの壁が延々と続いている。


「まさか、あれが全部王都なんですか?」


「はい、あの城壁の内部にはたくさんの民が住んでいます」


 あまりのスケールに驚いた。サーナさんが地方都市の領主と妙に謙遜することを不思議に思っていたが、それも仕方がないほどに王都は巨大だった。

 街道を進んでも進んでも城壁が続いている。一体どれだけの労力がこの建築を作ることに費やされたのか考えるのが恐ろしい。


「建材だけでも石山がいくつか無くなりそうですね」


「はい。もともと個々にあった山を3個ほど平地に変えるほどの規模だったと伝えられています」


「ま、まじですか……」


「この人口の多さが我が王国の強みですから……ただ、同時に弱みでもありますが……」


「確かにこれだけの規模で人が集まっていたら、問題も山積みでしょうね……」


「もともと海に面していて食材豊富な豊かな国だったのが、汚染によって窮地に立たされ、農業国へとかじを切ったのですが……」


「塩害かぁ……」


「一世代前には本当に苦労したと聞いています」


「ギルドも冒険者総出でお金を稼いでなんとか食料を輸入したり、本当に大変だった……」


「塩害は()()()が使えますからがんばりますよ!」



「たぶん、王様と会見後、ツユマル様の周囲はがらっと変わってしまうと思います。

 本当によろしいんですか?

 いくらでも隠すことはできますよ?」


「……たぶん、こんな能力を与えた神様はこの世界を良くしたいと思ってこんな死人をこの世界に送り込んだんだと思います。俺は、頂いた人生をできる限り多くの人を救っていきたいんです」


「無理してないかツユマル? そんな聖人君子みたいな生き方をしなくていいんだぞ?」


「いやいや、俺はこれでいいんですよ。別に苦労してるわけじゃないんで。

 それに、この世界に来て、俺、本当に楽しいんですよ。

 生きてるんだか死んでたんだかわからない前世より、今のほうが満たされているんです

 自分でも気がついていなかったんですが、出汁を取る作業、没頭出来て好きなんですよね……

 それにこの世界には見たこともないような冒険がある。その全てが生きているって実感できるんですよ」


「迷い人の方々は、皆さんそういう考えをなさるのですか?

 正直我々は日々の自らの生活を心配するぐらいでそのような大志を抱けないので……お恥ずかしいですが」


「たぶん、満たされていたからなんでしょうね……しかも、気がつかないうちに。

 もともと自分の性分が、自分自身に興味がないというか、周りに流されてきたというか、そんな生き方をしていたので……それが、死を経験して変な風に達観したような気分になってるだけかもしれませんね」


 もともとの性格もあるんだけど、こっちに来てから妙に落ち着いている。

 死んだ後だからというのもあるかもしれないが、魔物を殺しても、しかも窒息死なんてエグイ方法で殺しても、たいして動揺もしない。そもそもあんなダンジョンを未知の魔物が出る場所であるにもかかわらず、冷静でいられる方がおかしい。感情のタガが外れているような気がする。

 でも、うまく出汁を取れたりすれば嬉しいし、美味しい物を食べれば幸せな気持ちになれる。

 サーナさんが近くにいればドキドキするし、戦いが終わると高揚感もある。

 ただ、それをどこか遠くで見つめている自分がいて、妙に冷静でいるという自覚もある。

 死からの転移なんて非常識な現象が、現実感を薄めてしまっているのかもしれない。


 それから他愛のない話をしながら城壁に沿って進んでいく、そして、一つの城門へとたどり着く。

 サーナさんとライオネンさんがいるおかげで王都へはスムースに入ることが出来た。

 迷い人である俺も、すでにギルドで手続きを終えており、この世界での身分もしっかりとしたものになっている。

 人口が多いこの国にとって個人情報の管理は大切らしく、魔法的な力を利用したある意味日本よりも厳密な管理体制がとられている。

 個人個人絶対に偽造が出来ないカード状の身分証明書、これで大体のことが管理できる。

 町や村へ入るためにも、冒険者としての仕事依頼達成具合など様々な場所で必要になる。

 別の国でも統一された規格らしく、冒険者ギルドが中立的な存在として各国の情報管理を行っているとの話だ。個人情報の取り扱いは、この世界でもかなり厳密に管理されている。大事だね。


「凄い……」


 城壁内部の感想はその一言に尽きる。

 人、建物がこれでもかというほど集まっているという印象。

 城門から続くメインストリートには所狭しと商店が並んでおり、生活の大動脈として活躍しているのだろう。サーナさんの街とは、規模がまるで違う。

 道路は石畳で舗装されており、建物は漆喰で塗られているか、石材を積み上げて合間を古典的なコンクリートで埋められた作りが中心だ。

 美しいヨーロッパ風の街並みというには雑多としているが、それが人間臭くて嫌いじゃない。

 町の綺麗さだけで言えばサーナさんの街の方が整っていた。

 一本脇に逸れた路地を覗くと地面に直に露店を出して歩く幅も狭いような道も多かった。


「王城から遠い場所になると、こういった無許可の店も多くなります。

 ツユマル様も脇道にはあまり入らないようにしてくださいね」


「ツユマルが王都にいる間は俺と行動してもらうから平気平気!」


「変なところに連れて行ったら本気で怒りますからね!

 ツユマル様の能力が知れれば国家問題になりますから本気で、本気で自重をお願いしますよ!」


 サーナさんがいつになく強い。すでに一度やらかしているライオネンさんは一言も返せずに小さくなっている。ストーンブリッジの人たちもよそを向いてサーナさんと目を合わせようとしない。

 サーナさんは俺と目が合うとにっこりとほほ笑んでくれた、なぜか背筋が凍り付いた。







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