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第十九話 王都へ行く前のちょっと総集編な回

 マジックバッグは、本当に素晴らしい物だった。

 あの日からしばらく町の外へ出かけることを禁止されてしまってからというもの、俺は出汁の鬼になった。

 出汁を取って取って取って、しまってしまってしまって、出汁を取って取って取って、しまってしまってしまって……

 いくら作っても容器に入れてバッグに入れればいつでも好きな時に取り出せる……

 もうね、この世界の調味料と可能性研究に没頭しました。ええ、それはもう。

 

「楽しい!」


「ええ、楽しいですねツユマル殿!」


 すっかり仲良くなったサーナさんの専属料理人のスパスさん。それと他の調理人の皆さん。

 毎日厨房に籠って研究に没頭しています。

 この間の宝のせいですっかり潤沢になりすぎたこの町は、俺とスパスさんの研究結果を町の皆様にも楽しんでもらっている。

 サーナさん曰く、少しでも利益を周囲の都市に流さないと、僻みややっかみを受けるのは絶対に避けたいそうだ……「ただでさえツユマル様を擁護しているだけで……」とぼそっとつぶやいた声は本気に暗かった。


「海もすっかり綺麗になって久しぶりに海から収穫が得られるよになりましたから、料理のし甲斐があります」


「僕なんて海から食材が取れるって知りませんでしたよ!」


 若い料理人は本当に嬉しそうに魚をさばいている。

 あまり魚をきちんとさばいて食べる文化が育っていなかったみたいで、内臓を取り出してスープに入れるか、ぶつ切りがメインだったので何通りかさばき方や調理方法を伝えたら、みんなあっという間に技術を自分たちのものにしていた。

 まぁ、俺の技術なんて素人に毛が生えたようなものだから……

 一応専門である蕎麦もだいぶ形になってきた。

 醤油の作成にはまだ時間がかかりそうだけど、ピザ生地のように薄く伸ばした生地でいろいろとくるんで食べると美味しいことが分かった。

 所謂、そば粉で作るガレットだ。

 小麦粉に並ぶ主食になる勢いで街では人気を博している。

 もちろん蕎麦としても使われているが、小麦粉で作ったパスタのほうが人気が出てしまった。

 やっぱり蕎麦は醤油がないとなぁ……

 キッコ〇マンの工場見学には何度も何度も行ったので作り方はばっちり頭に入っているんだが、実際に作ると色々と勝手が違う。

 それでも、色々と試行錯誤していくのが楽しい。

  

「少量ですが、東の国から仕入れた焼き豆液は手に入ったんだけど……ちょっと雰囲気が違うんだよねぇ……」


「それでも出汁と合わせるとぐっと美味しいベースになりましたし、あの蕎麦、あれも美味しかったですよー」


「本当の醤油はもっともっと美味しいから!」


「それに酒と味噌もですよね! 頑張りますよー!」


「少なく見積もっても完成は1年はかかりますからねぇ」


「ツユマル様は本当に数奇物ですな」


「やはり人間は、美味しい物を食べたいという欲求で生きているのですよ」


「確かに」


 うんうん、と料理人たちがうなずいている。

 同じ価値観を持つ人たちとの楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 料理研究会での日々は飛ぶように過ぎていき、いつの間にか俺が国王との謁見する時間が間際に迫っていた。


「ツユマル様、王都に一週間後に向かいます。すべて準備は整えてありますので安心してお待ちください」


 サーナさんがすべて準備を整えてくれていた。ライオネンさんも護衛として同行してくれる。

 ストーンブリッジのメンバーも強制的に護衛を任されている。

 あの裏ダンジョンのせいで彼らの装備する物はこの王国、いや、世界においても最上位のパーティになってしまったらしい。もちろん俺もだ。

 今俺が装備しているのは黒龍の外套、炎虎の靴、雷鳥の手袋、硬亀の鉢がね、どれも幻の魔獣らしい。

 どの装備もまるで体の一部みたいにしっくりと俺の体にぴったりと馴染んでくれている。

 武器に関しては、鰹節ソードが最強なので必要ない、副武装の昆布も最強の武器として君臨してくれる。

 呼吸をする魔物なら完全パターンで絶殺間違いなしだ。


「それじゃぁ行きましょうか!」


「はーーい!」


 この街から王都までは一週間ほどの日程になる。

 馬車は使うが、なんといっても俺にはマジックバッグがある。

 どんな荷物が俺が持てばすべて解決、何の問題もない。大丈夫。

 色々とうまくいくように直接的に言えば賄賂もたくさん用意している。

 全ての部位欠損、死以外のすべてを覆す魔法の薬も大量に用意している。 

 実際には俺が作った昆布と鰹節の合わせ出汁だが……

 なんにせよ、王様に謁見するための準備の段取りはきちんとサーナさんが作り上げてくれている。

 

「ツユマル様、そろそろ今日のキャンプ地につきます」


「いいね、キャンプ! ワクワクする!」


「私たちもいるから安心してねー」


 シフさんがひらひらと手を振っている。

 冒険者にとって野営地でのキャンプはお手の物、しかし、俺たちには強い味方がいる。

 マジックバッグだ。プレハブ工法と同じようにあとは組むだけの建材をバッグから出してくみ上げれば、あっという間に防衛設備並みのキャンプ地が出来上がる。

 野に出る魔獣、魔物、野生動物も、我々の敵ではなくなっている。

 問題は夜間寝ている間だけだが、これも、昆布出しておけば解決することに気が付いた。

 昆布の危険察知能力を信用してからは夜勤も随分と楽になったのであった。

 最後の方は全員がぐっすりとベッドで安眠できるただの旅とかしていた……


 

 



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