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第十五話 石の中にいる。というトラウマを刺激する回

 周囲は暗黒、周りにいる人の呼吸音だけが聞こえるほど静寂が支配している。


「ツユマル殿はおられるか?」


「ライオネンさん、大丈夫です。みなさんも大丈夫ですか?」


 確認すると全員無事だった。


「今から光を出しますので気をつけてください」


 こういった暗闇で光を出した瞬間に襲われることは珍しくないそうだ。


「闇を照らす光よ、我らを照らしたまえライトボール」


 ホーマさんの作り出す光球が俺らの頭上に浮かび周囲を照らす。

 そこで初めて10畳ほどの個室に閉じ込められていることを知る、扉は……一つ……。


「ライオネンさん、今のは……?」


「テレポーテーションのトラップでしょうが……今まであのダンジョンで確認されたことはありません、しかもあんな浅いエリアでは……」


「ここ最近でもミノタウロスを倒したパーティは多くいますが、聞いたことないですよこんなの」


「あの部屋の宝箱にだって転移なんて高度な罠は聞いたことないよ」


「よりにもよってツユマル様を巻き込んでしまうとは……」


「ダンジョンに潜る以上、ある程度覚悟はしています。

 自分自身も少し楽しんでいましたし、まずは、脱出を目指しましょう」


「ツユマル様……」


 あまりに凄いことが起きると、逆に落ち着いてしまう。

 今の俺はそんな状況なんだろう。

 皆を巻き取った昆布とぬるぬるする汁を回収して状況を整理する。


「それにしても、ツユマル様がまとめてくれなかったら、最悪バラバラで転移の可能性もありました。

 ありがとうございます」


「いえ、とっさに体が動いただけですから……」


「宝箱も回収してくれていたんですね。それでは早速……」


 シフさんが宝箱の開錠へと集中してしまう。こんな状況でもシフさんはいつもこうらしいのでメンバーも肩をすくめてやれやれという感じだ。部屋全体の物をからめとったのでボスドロップの宝箱も持ってこれたみたいで良かった。


「よし! 大丈夫っと!」


 素晴らしい手際の良さであっという間に宝箱の罠を外して開錠作業を済ませる。

 人一人ぐらい入りそうな大きな宝箱の口が開いていく。

 ダンジョンの宝箱、特にボスの部屋の宝箱は豪勢なものが入っていることが多いらしい。

 今回の宝箱には金塊に宝石、魔石が数個、そして大きな斧が入っていた。


「おお、これはありがたい。ちょうど武器がなかったからな」


 ホミさんが呪いの品ではないことを確かめてライオネンさんの仮の武器とすることになった。

 鑑定を使える人はいないので使って確かめるしかないが、素人目に見ても立派な斧だと思う。


「ふむ、悪くない……」


 斧を振るいながら使用感を確かめているライオネンさんも手ごたえを感じているらしい。


 とりあえず部屋の中は安全な様なので、しっかりとした休憩を取ることにする。

 俺は背負ってきた道具が無駄にならなくて済んで良かったと早速準備に取り掛かる。

 ダンジョン内の食事は簡易的な物になるが、少しでも温かく美味しい物を食べてこれからの苦難を乗り越えていかなければいけない。

 俺は出汁で作ったスープと乾パンというお約束なダンジョン飯を作る。

 その場で生み出した鰹節と昆布をたっぷりと加えた特製スープを飲めば、皆の身体能力や自然回復力なども強化される。万全を期して挑んでいきたい。

 緊張で詰まる喉に頑張って食事を流し込む……


「それじゃぁ、慎重に進んでいこう……」


「わかりました。それにストーンブリッジの皆さんもいつも通り立ち回ってください。

 俺もきちんと動けるはずなので……」


「すみません、余裕がなかったら、自分の身は……」


「自分で守ります」


 俺も鰹節ソードを作り上げる。

 頭上の光球がゆらゆらと目の前の扉を照らしている。


「大丈夫扉自体には罠は張られていない……いい?」


 言葉での返事の代わりに全員がうなづく、そーっとシフさんが扉を開けると、目の前に通路と壁が左右に伸びている。


「最初は定石通り右から……」


「ちょっと待ってください。調べてみます」


 俺は左手を暗闇へとつながる通路に突き出して、昆布を大量放出する。

 実はこの昆布、俺の手につながっていると、周囲の情報を俺に送ってくれるのである。

 さらに粘液は魔物にとって嫌な感じがするらしく、人間みたいに皮膚が綺麗になったりはしない。

 食べても死んだりはしないが、だるくなるらしい……味はどうやら美味しく感じるのか、食いつきは悪くないんだけど、たくさん食べると動きが鈍くなったりする。

 通路に昆布を走らせていく、分かれ道で枝分かれさせてどんどんマッピングしていく。


「扉以外の通路はこんな感じになっています」


 俺は昆布で得た情報をもとにマップを記していく。


「これ……未踏破箇所っぽいですね」


「ああ、報告でも見たことが無い……」


 ギルドには冒険者が探索したダンジョンの情報が集められる。

 もちろん冒険者には未踏破部分のダンジョンの情報に対しては報酬が与えられる。

 ライオネンは筋肉だが、ただの脳筋ではなく、驚くほど頭が回る。

 過去に報告があったダンジョンのマップは全て頭に入っているほどだった。


「魔物の位置はこんな感じですが、すみません、どんな魔物かまではわからないのです……」


「いやいやいや、こんな有難すぎるって!

 私の仕事ほとんど残ってないよ! ツユマルは凄い!」


 同じように反対側の通路も含めて昆布調査を行う。

 どうやらどちらの方向に言っても、最終的に大きな部屋につながる通路へと繋がっており、この階の最深部はその部屋だろうという結論で落ち着いた。


「よし、皆気を引き締めて進むぞ!」


 俺たちは最初の部屋を出て右手に進むことにした。

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