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第十一話 ギルドマスターと腕試しになる回

 俺はサーナさん、ケムリさんと共にギルドマスターと面会した。

 冒険者ギルドのこの街のマスターであるライオネンさんは50歳。

 元トップランカーの冒険者だったそうで、未だにその肉体は衰えを知らず分厚い胸板に丸太のような腕、短く刈られた髪に整えられたヒゲ、まさにベテランの凄みを体現していた。


「はじめまして、当街のギルドを任されているライオネンと申します」


「こ、こちらこそはじめまして、露丸、露丸 出涸と申します。どうか露丸とお呼びください」


 すごい迫力に思わず腰が引けてしまう、おじさんはナニモもっていませんよー、とんでもチャリンとは言いませんよー……


「それではこれが報告のあった、アワセダシ……ネクタルを超える神薬だと……」


「間違いないぞ、何度鑑定しても同じ結果じゃ」


「サーナ殿が推薦する迷い人である以上、嘘ではないのでしょうが、そのような効果が本当に存在するのかは……どうしても信じることが……」


「ライオネン様、冒険者で誰か大怪我をして四肢や、その一部を失ったものはおられますか?」


「……ええ、冒険者という生き方をしていれば、幾人かはそういった状態になったものを知っております」


「もし、可能であればその者達をお呼びいただくか、もしくはその場へ我らで行きましょう。

 そうすればきっと私達のことを信じていただけると思います」


「確かに、実際に見るのが一番ですな」


 マスターはちょうどお茶を持ってきた職員に何かを話すと俺の方に向き直る。


「噂によると、ライトが手も足も出ないとお聞きしましたが、ツユマル殿?」


「い、いやぁ……たぶん、お、私の力というよりは、迷い人のスキルのおかげで……」


「ツユマル殿は謙虚ですな、ライトに打ち勝てるとすればこの地域で一番の腕前と誇れるのに……」


 なんか、マスターの筋肉が大きくなっているような……呼吸も荒くなっているような……


「そうですかぁ……ライトを負かす……あのライトを……」


 完全にハァハァ言っているよこの人……大丈夫?


「なんでしたらツユマル殿、ライオネン殿にもお相手して差し上げたらいかがですか?

 ご自身のお力もそれできっと分かると思いますよ?」


「え? な、何をサーナさん?」


「そうですか!! それなら一手ご教授願いましょうか!!」


「は、はいぃぃ!」


 ものすごい勢いに思わず肯定してしまった……

 む、無茶だよこんな大男の相手なんて……

 そんな俺の心の中は無視され、流れるようにギルドの訓練場へと連れてこられてしまった。

 俺は緊張のあまり昆布と鰹節をボリボリと食べるのだった。

 不思議と心が落ち着いてくる。

 なんといっても美味しいからね。もしここでライオネンさんに殺されても、最後に美味しい昆布の鰹節がけを食べられたことはいい冥土の土産になる……


 訓練場に入ると、ライオネンさんは自分用の巨大な木剣を振り始めた。

 本来は両手で持つことを想定している巨大な剣を片手で軽々とあつかう。

 素振りのたびに風がぶおんぶおんと舞い上がる。あ、これ死んだわ……

 俺はいつもどおり竹刀に近い長さの木剣を選ぶ。

 なんか、ライオネンさん素振りをするたびに筋肉がでっかくなっている気が……

 少なくとも応接間でみたときよりは二回りぐらい大きくなっている。人間なのか?


「さて、ツユマル殿準備はよろしいかなぁ!?」


「ひっ、は、はい。大丈夫です……」


「それでは参りますぞぉ! ウオラァァ!!」


 巨大な剣を軽々と扱って砂を巻き上げながら下段からの斬り上げ、当たったら、木剣でも命を落とす気がする……やばすぎるでしょこのマスター!


 なんて、考えていても剣は迫ってこない。

 なるほど、確かにこりゃスローモーションだ。

 サーナさんやケムリさんがやりすぎだっ! って顔で叫んでる姿とか、ギルド職員が真っ青になっている様子もゆったりと観察できる。

 俺は大剣の軌道から身をかわし、筋肉さんの死角になる位置に入り込む、同時にブワッっと風が起こる。


「やりすぎじゃ!!」


「ツユマル様!!」


 二人の悲痛な叫び声が聞こえる。筋肉だるまはその手の手応えのなさから瞬間的に振り上げた剣を横薙ぎ気味に振り下ろす。すごい、見えてないはずなのに俺の位置を狙ってきている、脳筋センサー恐るべし。それでも剣刃が俺の体に近づくと、どんどんスローモーションになっていき、容易にその一撃をくぐり抜けることができる。なるほどなるほど、これはすごい能力だ。まだ見ぬ神様ありがとう!

 流石に、明らかに殺しにかかってきている攻撃に温厚な俺もイラッと来たので、目の前にある筋肉バカの頭を木刀で軽く叩いておく。


 ドゴーーン!!


 次の瞬間、筋肉が訓練場の足場の砂に顔を突っ込んで倒れていた。


「え?」


「……勝者、ツユマル様!」


 し、死んでないよね……あ、なんかプルプル震えているから大丈夫そう……


「感動しましたぞぉーーーー!!」


「うおっ! びっくりした……」


 マスターが急に体を起こして叫びだした。うわ痛そう、すごいたんこぶが出来ている。


「サーナさん、あれをマスターに……」


「あ、はい。わかりました」


「いいのですかこのような貴重なものを!?

 この程度の怪我なら寝れば治りますが?」


「これも体験の一つとして」


 一晩であれが治るのか……筋肉怖い、でも脳出血とかでぽっくり逝かれても困ってしまうから無理にでも飲んでもらう。


「それでは失礼して……」


 ごくごくと出汁を飲む筋肉だるま、なんだか薄っすらと体が発光している気がする。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


「ひぃ……」


 き、筋肉が脈打ってキモい!


「滾る!! 滾るぞぉ!!!!!」


 変なポージングを取るマスター、もう筋肉ビクンビクンしてるし、暑苦しい……

 思わずマスターから距離をとってサーナさんの隣に移動する。


「お疲れ様でした。最初はひやりとしました……」


 ああ、サーナさんは美しい。


「はは、なんとかなりました……やっぱり、なんか戦いの時はいろいろと見えるみたいです」


「私達には何が起きたのかよくわかりませんでした……

 ライオネンさんの一撃、そして返す剣……気がつけば倒れていました」


「なるほど、周りからはそう見えるんですね……」


「ところで、あれはどうするんじゃ?」


 雄叫びを上げながら大剣を振り回してる筋肉を指さしてケムリさんがため息をつく。


「放っておきましょう、効果は一時間ほどで切れますし、それまで大人しくしていないでしょう」


 結構クールなんですねサーナさん。


「それじゃあ、応接室でお待ちしてますね」


 ギルドの職員にそう告げると微妙な笑顔で承ってくれた。

 確かにあの暑苦しい筋肉の相手はめんどくさそうだ。

 職員さんに心の中で謝りながら、訓練場を後にした。




 


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