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第十話 いろいろなことが判明して、それでも異世界で生きていこうと決意する回

「ふぅむ、これか……それではさっそく、『鑑定』」


 俺がとった出汁をケムリと呼ばれた男性が真顔で見つめている。

 その顔がだんだんと赤くなる、息してないのかな? オジーちゃん大丈夫?


「な、な、な、な、な、な……っ!  なんじゃこりゃーーーーーーーー!!!」


「うおっびっくりした!」


「どうですかケムリ様!?」


「は、初めて見た……ラストネクタル……神が作りし幻の霊薬……

 死以外のすべての災いを取り除き、ありとあらゆる傷を癒す、失われた腕さえも元に戻すという……

 伝説の薬じゃ!」


 鰹節と昆布でとった合わせ出汁です。


「効能は確かにネクタルなんじゃが、名前はアワセダシ、ふむ東国の霊薬なのか……

 凄まじいものを見ることが出来た……

 ん……? まだ続きがあるじゃと……?」


 ケムリさんは目を見開いて出汁をじっと見つめている。

 そしてプルプルと震えだした……


「な、なんじゃと……この秘薬はネクタルさえも超える霊薬、いや、神薬じゃ!」


 勢いよく立ち上がり出汁入りガラス瓶を高々と掲げるケムリさん。

 元気だなこのおじーちゃん。


「ケムリ様、一体どうされました?」


「この神薬にはネクタルにもない効果がついておる!

 魔力効果上昇、魔力抵抗上昇、魔力成長向上、運動能力向上、運動能力成長向上、状態異常耐性上昇、自然回復力上昇!

 現存する支援魔法のほぼすべての効果が、しかも最高級の効果!

 これを神薬と言わずしてなんと呼ぶ!!」


 顔真っ赤で興奮して、血管が切れないか心配してしまう。


「このような貴重なものがこの世に存在するなんて!

 信じられん、神の奇跡じゃ!」


 あっちの大鍋にまだ残ってますよー。


「やはり、それほどの品でしたか……ツユマル様、どうしましょう?」


「い、いやー、どうしましょうと言われましても……どうしましょう?」


「何を言っておるんじゃサーナ殿! この奇跡の神薬はすぐにでも王へと報告せねば!

 なにか不都合があるのか?」


「その神薬が、渡り人の奇跡によって作られたものだとしたら、どうなりますか?」


「おお、そのような神業をもつ渡り人が現れたのか!?

 それは天恵、我が王国、いや、世界にその奇跡がもたらされ……

 作られたもの? ……この神薬が?」


 ケムリさんのテンションがだんだん落ち着いてくる。


「えーっと、これ?」


 俺はおずおずと鍋をケムリさんに見せる。

 ケムリさんはボソリと鑑定とつぶやくと、そのまま卒倒してしまった。

 それからは倒れてしまったケムリさんを解放したりてんやわんやの大騒ぎになった。

 ケムリさんのような鑑定師は非常に希少で例外なく地位が高い。

 今回もサーナさんがお願いしたのでギルドから派遣してもらえたが、普通ならお目にかかるのも難しいらしい。


 俺たちはケムリさんを寝かせてから今後の方針を話し合うことになった。

 

「やはりツユマル様のお力は、凄まじいものでしたね……」


「想像はしていましたが、その想像の遥か上に……神々の飲み物、ネクタルを無限に作れるお力……」


「どう考えても利用される未来しか浮かばないんですが……」


「そうならないようにお力添えしたいのですが、いかんせん、あまりにも強大なお力過ぎて……」


「ツユマル様の意に沿わなければ作らなければいいのですよ!

 そうすればツユマル様は守られます!」


「ライト、害意のあるものがツユマル様に危害を加えるかもしれません……」


「そ、それは……し、しかしサーナ様、ツユマル様を害することが出来ましょうか?

 私はどんな武器を持ってしてもツユマル様を害することができるとは思えません」


「……確かに……」


「え? 私戦えませんよ?」


「え?」


「え?」


「な、何を仰るのですかツユマル様! 

 まばたきをする間に魔物の群れを切り裂いた貴方が戦えないのでしたら、私など児戯にも等しい……」


「ツユマル様、こちらのライトはこの国でも屈指の騎士、そのライトが相手にならない貴方様が戦えないはずがありません……」


「たしかに少し剣の指導を受けましたけど、あれはギリギリになるとライトさんが手を緩めてくれるから……」


「恐れながら、私は寸止めはするつもりでやっておりますが、手を緩めるつもりはありませんでした。

 もう少しで剣が当たる。そう思った瞬間にツユマル様のお姿は目の前から消え去って逆にこちらが一本取られているのです」


「え?」


「ご自覚ないのですか?」


「ええ、今はじめて知りました……そう言われればなんか、ゆっくりになっていた気も……

 すみませんこちらも経験がなく必死だったもので……」


「それに、あのすべてを絶つ剣、あれを防げるものなど伝説のオリハルコンでも難しいのでは?」


「オリハルコンとかがあるんですね! さすがファンタジー!」


 思わぬファンタジー単語に空気を読まないツッコミをしてしまった。


「なんにせよ、ツユマル様にひっそりと過ごしてもらうことは難しくなりそうです……」


 申し訳なさそうに頭を下げるサーナさん。


「いやいや、サーナさんにはいろいろとおせわになりましたし。

 こんな能力を持つのもなにかこの世界のためにしろというお天道さまの思し召しでしょうから。

 協力できることは協力しますよ!

 鰹節と昆布ならいくらでも出せますから、まずは魔力ポーションと体力ポーションを冒険者が気軽く使えるようにして、合わせ出汁であるネクタル? もできる範囲で作っていきましょう!

 特殊効果がついてないものだったら、誰でも作れるのですから」


「ツユマル様は聖人であらせられる……」


「私もできる限りご協力いたします。

 それでは、ケムリ様が目覚め次第冒険者ギルドへと参りましょう。

 ギルド長に先触れを出しておきます」


「ご足労をおかけします」


 ばっちゃ……俺、この世界の人々のために、できる限り頑張ってみるよ!


 こうして俺の異世界での生活が、ほんとうの意味で始まるのであった。

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