90.新たな仲間
今回は短いです。
続きを書くと切りが悪そうだったので。
現在シアはランドン伯爵によって保護されている。
屋敷にいる限りマラミンス侯爵の追っ手に見つかることはないだろう。
だがいつまでもランドン伯爵のお世話になるわけにもいかない。
いつかは一人立ちをしなければならない。
若いシアが1人で生きていく上で、この世界は優しいとはいえない。
流石に再び人攫いに遭うようなことはないと思うが、それでも理不尽にさらされることはあるだろう。
そんなとき少しでも彼女の助けになれば良いなという思いから『身代わりのネックレス』を渡したのだが。
「俺の盾になる?
えっと、それは俺たちと一緒に冒険者になるってことかな?」
「はい。
戦うことはできませんが、いただいたこのネックレスがあれば皆さんのお役にたてると思います」
真っ直ぐな視線を向けてくるシア。
「シア、君はもう奴隷じゃあないんだ。
君を助けたのは偶然だし、それに恩を感じて俺たちに尽くす必要はないんだよ。
これからは自分の好きなように生きれば良いんだ。
そのネックレスは知り合った記念くらいに思ってくれれば良いから」
「……私はこれまでの人生のほとんどを奴隷として生きてきました。
ですから好きなようにと言われても、いったい何をしたら良いのか。
もちろん、皆さんには感謝しています。
冷たく辛い人生を変えて下さったわけですから。
その恩を返したいという気持ちに嘘はありません。
ですが、私は奴隷として以外の生き方なんてほとんど知りません。
何を思い、何をして生きれば良いのかわからないんです。
わがままであることは十分に承知しています。
助けていただいた上に、このようなお願いをすることが虫の良い話であることもわかっています。
それでもせめて私の生き方が見つかるまで、お側に置いていただけませんか。
……やはり、ご迷惑でしょうか?」
先程までの力強い視線から一転、不安げに見つめてくるシア。
同行することを断られると思っているのだろう。
結果的にシアは奴隷から解放されたことを喜んでくれたが、過程だけを見ればケントが偽善的に助けたに過ぎない。
シアの人生に勝手に干渉したのだから、せめて自立できるまでは面倒を見るのが筋なのかもしれない。
ケントとしてもシアのことは嫌いではないので、仲間になることに否はない。
だがそれではシアのスキル目当てで助けたように思われるのではないか。
シアの超回復を利用して鞭を打っていた盗賊と同じなのではないか。
「私はシアが仲間になることに賛成よ。
新しいパーティーメンバーを探そうって話をしていたんだし、ちょうど良いんじゃないかしら」
なかなか返事をしないケントを見かねて、ミランダが自分の意見を出してくれた。
ミランダの言う通り、パーティーの幅を広げるために新たな仲間を探そうと思っていたのは事実なので、その通りかもしれない。
ペンダントを使用したシアの守りは鉄壁であり、攻撃力がないことを差し引いても戦力としては申し分ないだろう。
結局のところケントが自分を誤魔化せるだけの理由を見つけられないだけであり、答えは出ている。
「シア、俺たちの仲間になってくれないか?」
ケントの言葉を聞いたシアは喜びをその顔に浮かべると、「はい!」と答えた。





