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78.ディグアント討伐

「ミランダ、ディグアントだ!」


 ケントの言葉を聞き、ミランダは瞬時に表情を引き締めた。


 こういうときすぐに切り替えることができるのは、ミランダの美点の1つだと思う。


「まだ少し距離はあるけど、少しずつ地上に向かって移動しているみたい。

 ルート的に街道上に出てきそうだから、通りがかりの商人が襲われる前に先回りしよう」


「わかったわ。

 それにしても地中からの奇襲が厄介なディグアントも、ケントの前では形無しね」


 ミランダは苦笑ぎみに答えた。


 確かにディグアントからしてみれば、獲物を仕留めるための重要な手段である地中からの奇襲をこうも容易く察知されてはたまったものではないだろう。


 脳内マップ様々である。


 2人はディグアントの出現予測地点に向かって駆け出した。


 ◇


「あと少しで終わりそうだから頑張って」


 ケントは愛刀である魔剣、ルーインブリンガーで地上に出てこようと頭を出したディグアントをまるでバターでもスライスするかのように、滑らかに一太刀で切り伏せながら言った。


 ケントの回りには、いくつものディグアントの魔石が転がっている。


 初めのうちは数を数えていたのだが、途中で分からなくなって数えるのをやめた。


 それでも3桁以上を屠ったのは確実であり、もしかしたら4桁に届くかもしれない。


「わかったわ。

 それにしてもすごい数ね。

 ケントの()()を最初に見たときはやりすぎだと思ったけど、()()無しでこの数の相手をしていた場合を考えると、いくら弱いディグアントとはいってもゾッとするわ」


 ミランダもケントと同じように、一刀一殺のペースでディグアントを葬りながらディグアントが出てくる穴を見た。


 ミランダの回りに転がる魔石も相当な数だ。


 何百、何千ものディグアントをわずか2人で討伐したと言う話を聞けば多くの者は己の耳を疑うに違いない。


 おそらく、ケントはともかくミランダ1人では倒しきれずに退却を余儀なくされるか、さもなくばやられていただろう。


 だが実際にはミランダは余裕をもってディグアントの大群をさばくことができていた。


 理由はディグアントが目の前の穴からしか出てこないからである。


 傍から見ると、ディグアントたちが自らの首を差し出しているようにしか見えず、かなり異様な光景だろう。


 だがこれにはもちろん種がある。


 脳内マップによってディグアントの出現位置を把握したケントは、先回りをして地下に巨大な逆漏斗状の氷造物を築き上げたのだ。


 ディグアント程度の力ではケントの氷を壊すことなどできないので、地上を目指すディグアントたちは地上へと続く漏斗の出口の部分に集められることになる。


 漏斗の出口は二股にし、それぞれディグアント一体が通れる程度の径にする。


 後は地上へと繋がる2つの漏斗の出口の前にケントとミランダがそれぞれ立ち、姿を現したディグアントを倒すだけだ。


 要するにもぐら叩きである。


 それも穴2つに対してペアで挑むのだから、一太刀でディグアントを倒せる2人にはこんなに簡単なものはない。


 こうして安全かつ容易にディグアントの群れを討伐できているわけだが、この方法ではまとめて倒すことができないため、如何せん時間がかかる。


 次々と顔を出すディグアントを2人で休みなく屠り続けたが、全て倒すのに一時間近くの時間を要してしまった。


 地中でまとめて凍らせれば一網打尽にできるだろうが、そうすると魔石が地中に残されてしまい回収が面倒なことになる。


 いざとなればそれもやむなしだが、今回のように余裕のあるときはもぐら叩き戦法で十分だろう。


 最後の1体を切り伏せたケントはふぅ、と一息着いてから剣を下ろし、ミランダへと声をかけた。


「お疲れ様。

 半分作業と化していたとはいえ、あの数はなかなか大変だったね」


「まったくだわ。

 こんな依頼を普通のDランクパーティーが受けていたら確実に壊滅していたでしょうね。

 帰ったらギルドに報告しないと」


「報告は必要だろうけど、どうするの?

 2人で何千体ものディグアントを討伐したって報告するわけにはいかないでしょ」


「確かにそうね。

 魔石を見せれば信じてはもらえるでしょうけど、手段を聞かれるのは間違いないわ。

 でもだからといってあの規模の魔物の群れが王都近郊に出現したことを報告しないわけにもいかないでしょう?」


「そうだよね。

 とりあえずギルドには百体くらい倒して、他にもいそうだったから注意するよう報告かな。

 後はフロスティに相談して、場合によっては姫様に本当のことを伝えてもらおう。

 姫様はフロスティのことを信頼しているようだったから、フロスティからの報告なら無下にはしないだろうし。

 姫様が軍事的にどれだけの発言権を持っているかは知らないけど、国の中枢にいる人が事実を知っているだけでもいざというときに全然違うだろうからね。

 まあ、俺の索敵範囲にはもうディグアントはいないから、即座に問題が起こることはないだろうし、それで十分じゃないかな」


「百体でもかなり多いと思うけど、それくらいが妥当なのかもしれないわね」


 王都近郊の街道に何千体ものディグアントが出現するというのは、間違いなく国が軍を動かす程の事態だろう。


 今回はたまたまケントたちが依頼を受けていたから良かったものの、そうでなかったとしたら街道を通る商人だけではなく、王都にも被害が出ていた可能性だってある。


 それほどのことを正直にギルドへ報告しないことには少しばかり罪悪感を覚えるが、国の中枢にいる王女に伝えるのだから問題ないだろう。


 ケントとしては冒険者として魔物を倒すくらいならともかく、王都を完璧に守る守護神になるつもりも気概もない。


 後のことは上の人たちが頑張ってくれたらいいなと思う。


 そんなことを考えながら散らばったディグアントの魔石を拾い集めると、ケントは少し前からこちらの様子を伺っていた人に声をかけた。



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