75.王都での依頼
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翌日、朝早くからケントとミランダは冒険者ギルドへと足を運んでいた。
依頼を受けるためだ。
ランドンへはフロスティと一緒に戻ると言う話になっている。
そのフロスティが、あと数日は王都に滞在すると言っていた。
昨日も誰かと会っていたみたいだし、久しぶりの王都なので、挨拶しておきたい人も多いのだろう。
今日も予定があるようだし。
というわけで、ケントとミランダもそれまでは王都にいる予定だ。
王都にいる間何をするかという話になり、せっかく冒険者ギルドへ行って依頼の様子を確認したのだから、何か依頼を受けようということになった。
出かけた先でまで仕事をするのかと思うかもしれないが、この世界には娯楽が少ない。
街から街への移動も馬車か徒歩しか移動手段がなく、道中盗賊や魔物に襲われる危険性だってある。
これだけ賑わっている王都でさえ、訪れるのは貴族や商人、冒険者がほとんどで、観光目的で訪れる人はほとんどいない。
そのため観光客向けの娯楽施設何てものも存在しない。
珍しいものや王都ならではのものを探して買い物をする手もあるが、どうせならフロスティと一緒に回りたいので、彼女の予定が合う日までは保留だ。
そんな感じでとくにやりたいことがあるわけでもなく、かといって伯爵邸で一日中だらだらするのも気が引けるので、それならば依頼を受けようということで落ち着いた。
現在、ケントたちはDランクパーティーであるわけだが、Dランクパーティーというのは、初心者を抜け出して、中級者に片足を突っ込んだくらいのランクだ。
ということはつまり、ここ王都では依頼が少ない。
とはいえ全くないわけではないので、確実に依頼を受けることができるよう、こうして早朝からギルドを訪れているというわけだ。
かなり早めに来たつもりだったが、ギルドなのなかにはちらほらと冒険者の姿が確認できた。
皆、仕事熱心で何よりだ。
一番乗りでないことを少し残念に思いつつ、依頼の貼ってある掲示板を眺める。
「やっぱり受けるなら魔物討伐系の依頼かしら?」
「そうだね。
護衛依頼とか受けてみたいけど、何日も王都を離れる訳にも行かないから」
「そうね~、これなんてどうかしら」
そう言ってミランダが1つの依頼を指差した。
「街道に出没するディグアントの討伐か」
ディグアントは確か、ヒトの子供ほどもある大型のアリの魔物だったはずだ。
普段は地中に潜み、地上を移動する獲物の音や振動を察知して、地面から襲いかかる魔物である。
戦闘能力自体はさほど高くないディグアントであるが、なぜDランク相当の依頼として貼り出されているのか。
ディグアントは地中に潜んでおり探知しにくい魔物であるため、攻撃を回避しにくいということもあるが、最たる理由はその数にある。
「1体見つけたら30体はいると思え」と言われるほど、ディグアントは数が多い。
1体1体は、ある程度戦えるFランク冒険者なら討伐することができるが、地中からの奇襲に警戒しつつ、集団戦をするとなると、やはりある程度の実力が必要となる。
また、ディグアントが掘ったトンネルが崩落して、地面が陥没することがある。
陥没が街道などで起こると流通に大きく影響してしまうため、ディグアント討伐は非常に重要な依頼であるという認識を持たれている。
被害の大きさによっては領地を越え、国家問題として扱われるほどだ。
「確かにディグアントは、俺たちに相性がいい相手だね」
「ケントの索敵で奇襲さえ防げれば、いくら数がいるとは言ってもさすがに後れを取ることはないでしょうし」
ということで、他の冒険者にとられる前に依頼書を掲示板から剥がし、受付へと持って行く。
ランドンではいつもオリヴィアに依頼の処理をしてもらっていたため、他の受付嬢に依頼の処理をしてもらうのは少し新鮮だ。
完成された営業スマイルで流れるように作業する様子は、流石王都の受付嬢といったところである。
手続きを終え、ケントたちはギルドから出ようと出入口へ向かった。
そのとき、反対にギルドへと入ってくる一団がいた。
あれは『黄金の剣』か。
昨日、依頼達成の報告をしに来ていたはずだが、今日も依頼を受けるのだろうか。
なんとなく視線で追いかけていると、『黄金の剣』のメンバーの1人と目があった。
「あ、魔剣の人」
その言葉を聞き、一瞬体が硬直した。
サッと周囲を確認するが、近くに他の冒険者の姿はない。
つまり、今の言葉はケントに対してで間違いないだろう。
魔剣を所持していること自体は、とくに隠してはいない。
隠し部屋で魔剣を見つけたことはギルドに報告し、普段から持ち歩いているので、ランドンにいる冒険者ならば知っている者もいるだろう。
ただその話が王都まで伝わっているかは疑問だ。
移動に馬車を使用していることから、情報を遠方に伝える手段は乏しいと思われるし、あったとしても一冒険者の情報を伝達するためには用いられないだろう。
写真なんてものもないから、ケントの顔など知るはずもない。
とすれば可能性は1つ。
「鑑定か」
鑑定はそれなりに珍しいスキルという話だったはずだが、こうも頻繁に会うものなのだろうか。
「シスル?」
「昨日のちぐはぐな人がいた」
「魔剣を持っている人だっけ?」
「ん」
「ふ~ん。
ああ、ごめんごめん。
うちの子が魔剣を持っている知らない冒険者を見かけたっていう話をしていただけなの」
突然のことに歩みを止め、突っ立って視線を送るケントに気が付いた『黄金の剣』のメンバーの一人が声をかけてきた。
「いえ、大丈夫です。
まさかAランクパーティーの冒険者に声を掛けられるとは思ってもいなかったので、少し驚いてしまいました」
「ならよかったわ。
私はアイリス。
で、このちびっこがシスル」
そういいながら、シスルの頭をポンポンとたたくアイリス。
「ケントです。
こっちが同じパーティーのミランダです」
ケントに紹介され、ミランダは軽く会釈をした。
「ケントにミランダね、よろしく。
2人は王都で見かけたことがないけど、どこから来たの?」
「ランドンです。
王都に少し用事があって数日滞在することになったのですが、帰る予定の日までまだ余裕があるので王都の依頼でも受けてみようと思いまして」
「2人はランドンの冒険者なのね。
……ところでケント、その話し方どうにかならない?
別に私たちは冒険者としてここにいるわけだから、言葉遣いなんて気にしなくていいわよ。
少しランクは高いけど、冒険者であることには変わりないわけだし」
「わかったよ」
冒険者としてここにいる彼女たちの正体は考えないようにしよう。





