73.Aランクパーティー
ご無沙汰しております。
更新が遅くなってしまい、すみません(>_<)
年明けから生活環境が変わり執筆の時間が取れませんでした(言い訳)
できるだけ週一ペースに戻していきたいと思います。
王都の冒険者ギルドはランドンのものと比較しても遜色ない、むしろ大きいくらいの建物だった。
ランドンにはダンジョンが存在するため、必然的に冒険者の数も増え、それに伴いギルドの建物自体も他の街と比較して大きなものとなる。
そのランドンのギルドと同等以上の大きさを誇る建物を構えているとはさすがは王都である。
スイングドアを通り抜け中へと入った。
仕事を終えるにはまだ早い時間だからだろう、ギルドの中の人影はまばらだった。
とくに依頼を受けたりするつもりはなかったが、自然と掲示板の方へと足が向かうのは少しずつ冒険者に染まってきたということだろう。
ミランダによると、王都のギルドには各地のギルドでは対処できないような高難易度の依頼が集まってくるらしい。
そのため高ランクの冒険者は王都を拠点として活動することが多い。
それに王都近郊といえども現代のように片っ端から人の手が入っているという訳でもないため、発生しやすい下級の魔物は出現するし、薬草だって生えている。
なので新人冒険者にとっても全く仕事がないという訳ではないようだ。
ただ、中級冒険者に相応な依頼はあまり貼り出されないため、新人を抜けた冒険者たちは王都を出て他の街へと行くことが多い。
掲示板には薬草採取などの常設依頼を除き、ほとんど依頼は残っていなかった。
残っている依頼はどれもAランクやBランク指定のものばかりであり、Dランクパーティーのケントたちでは受けられそうもなかった。
まあ、こんな時間に来てもおいしい依頼という奴は残っていないことはわかっていたが。
「ワイバーン討伐にエリクサーの材料調達、か。
依頼の詳細を聞かなくても難易度が高いことがわかるわね」
「だね。
俺たちもランクが上がったらそのうち受けるようになるのかな」
正直、たとえAランクの依頼であっても今のケントたちなら達成できるものもあるだろう。
だが、いくら女神様に貰ったレベルⅩのスキルがあるとはいえ、ケント1人ではすべての依頼に対応できるだけのスキルも経験も足りていない。
それにダンジョンのように安全地帯の存在する場所ならともかく、見張りが必須の依頼を受けるためにも仲間を増やしたい。
また、現在のパーティーはケントが索敵、回復、遠距離攻撃を担っている。
もし依頼の途中でケントに何かあった場合、ミランダ1人では撤退もままならないなんて状況に陥ってしまう可能性もある。
仲間を増やして役割を分担できれば、もしケントに何かあっても対応ができるだろう。
「ミランダ、ランドンへ戻ったらパーティーメンバーを募集してみようか。
上を目指すなら2人じゃ対応できないことに直面することもあるだろうし」
フロスティがパーティーメンバーに入ってくれたら心強いが、そういうわけにもいかないだろう。
「そうね。
フロスティが入ってくれたら良かったんだけど」
どうやらミランダも同じことを考えていたらしい。
そんな時だった。
入口のスイングドアを通り抜けてギルドへと入ってくる集団が目に入った。
鑑定を使うまでもなく上等だとわかる装備に身を包んでいる彼らは相応に高位の冒険者なのだろう。
王都を拠点にしているB、あるいはAランクパーティーなのかもしれない。
まあ、鑑定なしで相手の実力を見抜けるだけの観察眼はケントにはないので、いい装備を金の力で用意しただけのボンボンの可能性を否定しきれないが。
彼らは掲示板には目もくれず、まっすぐ受付へと向かった。
依頼達成の報告に来たのだろう。
「お帰りなさい、『黄金の剣』の皆さん」
「ただいま。
はいこれ、依頼のグリフォンの魔石」
「では確認させていただきますね。
……はい、確認できました。
これでグリフォン討伐の依頼を達成とさせていただきます。
こちらが報酬となります。
流石ですね、Aランク指定の魔物を討伐してしまうとは。
Sランクになる日も近いかもしれませんね」
「ありがとう。
Sランクへの道のりは厳しいと思うけど、いつかその高みに立てるよう頑張るよ」
どうやら金持ちのボンボンではなく、Aランクパーティーの冒険者のようだ。
自分の観察眼も捨てたものではないらしい。
ちなみに冒険者が身近なこの世界の住人にとって、高ランク冒険者と素人を見分けることはそれほど難しくないという事実があることをケントは知らない。
「ミランダ、1つ聞きたいんだけど、『黄金の剣』っていうのはパーティー名か何か?」
「パーティー名というよりは、通り名といった方が正しいかしら。
高ランクの冒険者ともなるとそれなりに顔も知られるようになるし、他の冒険者では達成できないような偉業の一つくらいあるものよ。
活躍するうちにその姿や成した偉業で呼ばれるようになって、それが広まり定着することで皆が知っている通り名となるわけ。
通り名のある冒険者ともなると、貴族から指名依頼が入ることもあるし、自他ともに認める一流の冒険者といったところね。
彼らの場合はリーダーが持っている魔剣が由来だったはずよ。
黄金の刀身から放たれる斬撃はワイバーンすら一太刀で切り伏せるらしいわ。
私も本人たちを見るのは初めてだけれど、『黄金の剣』という名前は聞いたことがあるわ」
通り名か。
確かにAランクパーティーともなれば、通り名も付くのだろう。
以前オリヴィアに聞いた話ではSランク冒険者は3人だったはずだ。
Sランクパーティーがあるかは知らないが、あってもそれほど多くは無いだろう。
つまり、今目の前にいる彼らは実質冒険者のトップといっても過言ではない。
そう考えると彼らの実力を見てみたいところだが、鑑定を使うのはポリシーに反するし、彼らのような有名人と関わってもろくなことがないだろう。
反対にケントの秘密について知られてしまうかもしれない。
まあ、Eランクに過ぎないケントがAランクパーティーと交友を持つことは無いと思うが、近寄らないに越したことは無いだろう。
「ミランダ、そろそろ行こうか」
「そうね」
そう言って2人は冒険者ギルドを後にした。
その後ろ姿を『黄金の剣』のパーティーの1人が眺めていたことに2人が気づくことは無かった。
◇
「シスル、どうかしたの?」
「ん、なんかちぐはぐな人がいた」
「ちぐはぐ?」
「ん、魔剣を持っているのに全然強くなかった。
それどころか、剣術スキルすら持っていなかった」
「魔剣所持者なのに剣術スキルすら持っていない?
ん~、金持ちの道楽で冒険者をやっているとか」
「わからない。
一緒にいた人なら持っていてもおかしくないと思うけど」
「へぇ、そんなに強かったの?」
「ん、でも見たことない」
「まあ、あたしたちはパーティー結成から今までずっと王都を拠点にしていたからね。
依頼で他の街に行くことはあっても、依頼が完了すればすぐに帰ってきていたし。
王都で見かけたことないってことは、他の街から来た冒険者なんじゃない?
それなら知らないこともあるだろうし」
「どうかした、2人とも?」
「シスルが魔剣持ちの冒険者を見かけたんだって。
それで、報酬は貰った?」
「ああ、流石にAランク指定の依頼は報酬がいいね。
グリフォンを苦労して倒した甲斐があったよ」
「そんなにあるなら今日はこのまま飲み明かすわよ!」
「ん、飲んでも酔わないアイリスがお酒を飲むのはお金の無駄」
「私に文句があるなら、酒の一杯も飲めるようになってからにしなさいな」
「む」
「おいお前ら、置いて行くぞ」
「ちょっと待ってってば、シスル行くわよ」
「ん」





