7.冒険者ギルド
宿のおかみさんに教えてもらった通りに中央に向かって大通りを歩いていると、すぐに冒険者ギルドを見つけることができた。
3階建ての木造建築で、周囲の建物より一回り大きい。
1階の屋根のあたりに大きな看板があり、剣と盾のエンブレムが描かれている。
正面には西部劇で見たことあるようなスイングドアが付いていた。
(これが冒険者ギルドか。いざ目の前にするとなかなか心が躍るな)
ネット小説で描かれていた冒険者ギルドが今目の前にあると思うと感慨深い。
(冒険者ギルドといえば新人いびりだよな。冒険者ギルドに入ってきた主人公にガラの悪い冒険者がちょっかいを出して返り討ちに遭うっていう)
今まで何度も読んできたお約束を体験してみたい気持ちはある。
あるのだが……、
(うん、俺には無理だな。だって怖いし。今なら魔法で返り討ちにするとか考えられるけど、いざ絡まれたら竦んじゃって頭真っ白になる未来が鮮明に想像できるし。お約束を体験するには強靭なメンタルが必要なのか…。俺は主人公にはなれそうにないな)
というわけで隠密を全力展開!
まだ効果をちゃんと確認できてないけど、馬車の陰から魔法を使ってもばれなかったから少なからず効果は出ているのだろう。
音を立てないようにスイングドアを開けて中に入った。
ギルドの中の人影はまばらだった。
依頼を受けた人が帰ってくるにはまだ早いし、これから依頼を受けると日が暮れてしまうためだろう。
ギルドは入った正面に受付があり、左手の壁に依頼を貼りだしたボード、右手には酒場が併設されていた。
(ギルドから受け取った報酬をギルドに落とさせるのか。なかなか理にかなったシステムだな)
そんなどうでもいいことを考えながら受付に向かう。
受付を利用する人が少ない時間帯のためか、受付には1人しかおらず、空席が目立った。
(これまた定番だね。美人な受付嬢!)
受付には1人の女性が座っていた。
若草色のストレートの髪を腰まで伸ばし、少し吊目な目のせいか、かわいいというよりは美しいという表現が似合う。
そして髪の間から覗く尖った耳が特徴的だった。
(エルフってやつかな。スレンダーな体つきが凛々しい表情と相まって扇情的でエロい!大きなお胸も好きだけど、慎ましやかなお胸も大好きです!)
ひとしきり目の保養をした後、受付嬢に話しかけることにした。
「あの~、すみません」
「………」
「すみませ~ん!」
「………」
試しに目の前で手を振ってみるが何の反応もない。
(無視されてる…んじゃないだろうな。初対面だから嫌われているはずもないし、そもそも受付が無視とか職務放棄だし。……えっ、ひょっとして隠密のせい!?まさか目の前で声かけたり手を振ったりしても気が付かないほど隠密しちゃってるの!?仕事しすぎだよ、隠密先生!!)
さすがに会話ができないのは困るので隠密を解除することにした。
絡まれたくないから隠密発動していたけど、あまり人もいないし絡まれることもないだろう。
「すみません」
ビクッ!
「えっ、あっはい。何でしょう」
(そっか、突然目の前に人が現れたようなもんだもんな。そりゃ驚くか。次からは注意しよう。
それにしてもクールなお姉さんがビクッ!って。驚いて一瞬目を見開いていたし。普段は見せない一面を覗き見た気がする。まあ、普段なんて知らないけど。はぁ、かわいい…)
「冒険者登録をしたいのですが」
「わかりました。それではまずこちらの鑑定石に手を置いてください。ギルドカードを作成する際に不正ができないようステータスを拝見させていただきます。もちろんステータス情報はギルドの重要機密とし、外部には漏らさないのでご安心ください」
(確かに不正できないようにすることはいいことだと思うけど…。鑑定石か~。さっきの隠密の効果を見るに隠蔽もかなり強力だとは思うけど、鑑定石相手に通用するかな~。まあここで渋っていたら怪しいから鑑定石に手をのせるしかないんだけど。ステータスの情報は機密にしてくれるらしいし、その言葉を信じよう。もし情報が洩れて面倒なことになったら最悪隠密で逃げれば捕まらないだろう。ふぉ~美しい)
「わかりました」
内心びくびくしながらケントは鑑定石の上に手を置いた。
すると鑑定石の上に見覚えのある半透明の板が浮き出てきた。
「ケントイツミさん、17歳、男性。村人でレベルは1ですか。魔力はなかなか高いみたいですね。回復魔法に水魔法、隠密のスキルも持っているのですね。これならレベルが低い点が少々ネックかもしれませんが、どこかのパーティーには入れてもらえるでしょう」
勝った~!鑑定石に隠蔽先生が勝ちました!
でもなぜにパーティーに入る流れになっているのだろうか。
「パーティーですか。いずれはパーティーも組んでみたいと思っているのですが、初めのうちは1人で頑張ってみようと思っているのですが」
「しかし、ケントさんのステータスでは魔物や盗賊に遭遇した際に攻撃手段がありませんので。パーティーを組んで守ってもらいながらサポートに徹するのが最も安全な手段だと思います」
「攻撃手段なら一応水魔法があるのですが」
「……、レベル1ですしあまり魔法を使ったことがないのかもしれませんが、水魔法は完全にサポート専用の魔法です。旅の道中での水の確保は重要な問題ですが水の魔法使いがいればその心配もないですし。水魔法で攻撃しようにも一瞬くらいはひるませることができるかもしれませんが、ダメージを与えることはできませんし」
……なんということだ、水魔法は攻撃できないらしい。
薄々わかっていたけど、スキルレベルのⅩってとんでもないものらしいな。
水魔法便利だと思っていたけど、まさか攻撃力がない魔法だと認知されていたとは。
攻撃力がないと思われているということは、まさか凍らせたりすることができることも知られていない?
氷を打ち出せば十分攻撃になるし。
馬車を助けるときに盗賊を凍らせたのはまずかったかな~。
不審がられたかもしれない。
まあ、あの馬車の関係者に会うことはないだろうから問題ないけど、今度からは凍らせるときは周りに注意しよう。
しかし、どうしようか。
パーティーを組むのは楽しそうではあるけれど、こっちは秘密を抱えすぎていて、いつぼろが出るかびくびくしながらの生活になりそうだしな~。
いつか信用できる人たちが仲間になったら打ち明けてもいいかなとは思うけど、いきなり組んだパーティーの人が信用できるとは限らないし。
とりあえずは1人で活動したいな。
さて、どう説得するか。