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69.王女との対話

 部屋へと招いてくれたメイドは王女に近づき耳元で何事かを伝えた後、お茶の用意を始めた。


 メイドの言葉を聞いた瞬間、王女がケントに向ける視線が鋭くなったのも勘違いに違いない。


 きっと視力が低くて目を細めないとよく見えないのだろう、うん。


「いらっしゃい、フロスティ。

 転移碑の発見だなんてすごいわ!

 本来なら爵位を賜ってもおかしくないほどの功績よ。

 私が賊に襲われさえしなければ、どこかの領地で領主として過ごす未来もあったかもしれないのに。

 本当にごめんなさい」


「頭を上げてくれ、マルティーナ。

 お前が襲われたのは我が領の失態であって、お前のせいではない。

 それに爵位を賜る機会が人生で1度きりだと決まっているわけでもないだろう?

 次の機会まで気長に待つさ」


 いくら伯爵令嬢といえど、一介の貴族の娘に過ぎないフロスティが王女に頭を下げさせ、呼び捨てどころかお前呼びだなんて大丈夫なのだろうかと戦々恐々としていたケントであったが、周囲からフロスティを咎めるような意見は出なかった。


 少なくともこの面々の前では2人のやり取りはいつものことであり、気にするほどのことでもないのだろう。


 それはつまり、フロスティとこの場にいる人たちは知己の仲であり、フロスティにとっては王女と無遠慮に接する姿を見せても構わないほど、信用に足る人物たちであるということなのだろう。


「ありがとう、フロスティ。

 さあ、お茶にしましょう。

 そちらの方たちもどうぞお座りになって」


 マルティーナに進められるがままに対面のソファーへと腰掛ける3人。


 フロスティを中心にして右にミランダ、左にケントが腰掛けた。


 するとタイミングよくメイドが各人の前にお茶を用意してくれた。


 給仕する姿は洗練されており、流石は王家に仕えるメイドといったところだろう。


「昨日連絡を取った際に伝えたから知っているとは思うが、この2人が私と共にダンジョンへと潜ったケントとミランダだ」


 がちがちになりながら頭を下げるケントとミランダ。


「初めまして。

 レリエスト王国第三王女マルティーナ・レリエストです。

 この度はフロスティがお世話になりました」


「い、いえ、そんなことは!」


「冒険者として依頼をこなしただけです!」


 テンパる頭で何とか返事をするケントたち。


「依頼とは冷たい言い方をするじゃないか。

 体を隅々まで洗い合った仲であろう、ケント。

 ん?私が一方的に洗われただけだったかな、はっはっは」


 何でお前はこういうタイミングでそういうことを言うんだよ!


 伯爵の時といい確信犯なのか!


 社会的にケントのことを葬りたい願望でもあるのか!


 王女様たちの視線が勘違いじゃ済まされないほど冷たいんだけど。


「違います、違います!

 フロスティの冗談ですって」


「体を洗ってもらったのは本当のことであろう?」


 いや、そうだけど。


 そうなんだけど、そういうことじゃないだろう!


 王女なんて敵に回したらもうこの国じゃ生きていけないんですよ、おい!


 ミランダ、頼むからその売られていく家畜を見るような目でこっちを見ていないで助けて。


「フロスティ、少し黙っていて!」


 本当に、頼むから。


 これ以上誤解されて、貴族に手を出した平民だと認識されたらこの場で打ち首にされてもおかしくない。


「呼び捨てとは、ずいぶんとフロスティと仲がよろしいんですね」


 冷ややかな言葉がマルティーナから放たれる。


 口元は笑っているのに、目が怖い。


 このタイミングで王族の威厳出さなくていいから、怖いから。


 しかし抜かった。


 ついいつもの癖で呼び捨てにしちゃったけど、フロスティも立派な貴族だ。


 個人的にならともかく、他者の目があるところでは控えるべきだった。


「え、えっと、それはですね……」


「私とケントの仲だからな、気にするほどのことではあるまい」


 何であなたはさっきから二人の仲を強調するんだ。


 そんな意味深な言い方するなよ、どんな仲なんだよ、俺の方が知りたいよ!


 ……ふう、終わった。


 こんなに冷たい視線を送ってくる人を納得させられるような話術などケントは持っていない。


 どこの国に行こうかな、ミランダはついてきてくれるかなと亡命について検討し始めたところでふっとマルティーナの視線が和らいだ。


「ふふっ、すみませんケントさん。

 フロスティが楽しそうだったのでつい」


 さっきまでの雰囲気が嘘のようになくなり、いたずらが成功した子供の様に微笑むマルティーナの姿はある種の神聖なものであるかのように美しかった。


 さっきまでのやり取りを忘れて見惚れそうになったほどだ。


「それでフロスティ、ケントさんが例の?」


「ああ、そうだ。

 盗賊からマルティーナを救った氷の魔法使いだ」


 唐突なカミングアウト。


 まあ、元々そういう予定だったのだから構わないが。


 フロスティが信用する人たちなら大丈夫だろう。


「確かに悪い人ではないと思いますが……」


 そう言いながらメイドの方へと視線を送るマルティーナ。


 主の視線を受けて一つ頷くとメイドが言葉を継いだ。


「失礼ながらお2人のステータスを確認させていただきました。

 ミランダ様は年齢に見合わない高い実力を持っているご様子。

 フロスティ様と知り合いであることも含めて、個人的にですが是非とも近衛騎士へと推薦したい逸材です。

 それに比べてケント様は……、失礼ですがあまり能力が高いとはいえません。

 ダンジョンでも低層での後方支援がやっとといったところでしょう。

 とても盗賊を相手にできるとは思えません」


 いきなりの物言いにぎょっとするケントとミランダ。


 いや、ミランダはべた褒めされていたけど。


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