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64.王都ベルセレム

 のどかだ。


 ケントは馬車の窓から流れる雲を眺めていた。


 まったくといっていいほど揺れのしない馬車にクッションの効いた座席、足を伸ばしてもぶつからない広い車内。


 流石は伯爵家の馬車といったところで馬車の素材はもちろんのこと、揺れを抑える魔道具などを惜しげもなく使った最高級の出来となっている。


 ケントたちは冒険者ではあるが、今回は護衛をする側ではなくされる側なので、仮に道中魔物や盗賊が現れても余程のことが無い限り戦う必要はない。


 それに王都へは馬車へ5日ほどかかるのだが、その間野宿は1度しかなく、後は道中にある小さな街の宿屋へ宿泊している。


 ケントたちに先んじて王都へと向かった伯爵家の騎士の一部が、伯爵令嬢御一行が宿泊できるよう事前に宿の予約をしてあったらしく満室で宿に泊まれないというようなこともなかった。


 唯一野宿したときでさえ、ケントの水魔法で体の清潔さは保つことができたし、料理に関しても簡単なものではあるがメイドさんが温かいものを作ってくれたので、とくに文句はない。


 ちなみに野宿での寝床についてだが、女性陣は馬車の中、男性陣はテントを張ってその中で寝た。


 夜の見張りも騎士たちがやってくれたので、ケントたちは十分な睡眠をとることができた。


 ダンジョン内でテントを使って寝るときはいつもミランダと一緒だったため、1人で寝るのは少し落ち着かなかったが、テントで寝ること自体は既にダンジョンで慣れているので、ケントにとって野宿もとくに苦ではなかった。


 そんな感じで王都への旅は快適そのものだった。


 そして5日後、これといった問題もなくケントたちは無事に王都ベルセレムへとたどり着いた。


 ◇


 王都ベルセレム。


 オストワルド大陸の中央に位置する大国、レリエスト王国の王都にして、レリエスト王国最大の都市。


 緩やかな丘陵地に位置するベルセレムは、都市中央に聳え立つ王城を中心にして同心円状に貴族区、平民区が存在する。


 王城と貴族区、貴族区と平民区の間は堅牢な城壁によって仕切られており、外から王城へは2つの関門で厳重なチェックを受けなければならない


 平民区の周囲には簡易的な柵しかないが、周囲の見晴らしはよく、さらに警備兵が巡回、監視を行っているため魔物などの襲撃があれば素早く察知することができる。


 ケントたちは貴族区にあるランドン伯爵家の所有する屋敷へと向かっていた。


 フロスティ曰く、王城へ使いを出して王都へ到着した旨を伝え、明日には謁見になるだろうとのこと。


 そして王都に滞在中のケントとミランダの寝床は、伯爵家の客室を使わせてくれるらしい。


 ミランダは恐縮していたが、ケントとしては未だに身分差についての感覚がこの世界の人ほどはっきりしていないため、宿代が浮いてラッキーくらいにしか考えておらず、遠慮なく使わせてもらうことにした。


 馬車は平民区を通り、貴族区へと向かう。


 街道から平民区へと入る通りには一応関門が設けられてはいるが、往来の激しい王都の入口で一人一人細かい検査をしていてはいつまでたっても終わらないということもあり、よほど不審でもない限り素通りできる。


 伯爵家御一行ならばなおさらだ。


 馬車から眺める王都はたいへん賑わっていた。


 ランドンはリリアス帝国との貿易の中継点ということもあり、街中には王国だけではなく帝国の文化の影響もあちこちに見受けられた。


 だが王都の風景はそれ以上に雑多なものであふれていた。


 流石は王都といったところだろうか、帝国だけではなく周辺諸国との貿易による特産品や文化が一か所に集められて、一種の混沌を生みだしているようにも見える。


 だがそれでも混沌は王国の色を損なうことなく、見事に調和している。


 行きかう人々の顔は明るく、元気な声が聞こえてくる。


 良い国に転移させてもらったな、とケントは心の中で女神アエロラに感謝を述べた。


「ケントは王都に来るのは初めて?」


「そうだね。

 ランドンも活気があるけど、王都もすごい賑わいだね」


「そうだな。

 帝国と戦争をしていたころには考えられない繁栄だと、父上から聞いたことがある。

 若き先王がリリアス帝国との停戦条約を結んでから早数十年、大きな戦争や国を脅かすような不作もなかったおかげでこの国はここまで発展することができたのだろう」


 聞いた話では現王は先王の教えを引き継ぎ、力に溺れ圧政を敷くようなこともなく、何か大きな功績を残したわけではないが、それでも国民からは良き王として認識されているらしい。


 封建社会において君主の悪政の被害を最も受けるのは、力なき平民である。


 少なくとも今までケントが出会ってきた人たちから国に対する不満を聞いたことは無い。


 先王や現王の評判を聞く限り、レリエスト王国は良き王族に恵まれているようだ。


「そういえばフロスティ、王女様に会うのはいつになりそう?」


「そうだな、連絡を取ってからでないと詳しくはわからんが、おそらく明日の謁見の後に場を設けることになると思う。

 私が言えたことではないが、できるだけ殿下本人以外にはケントのことを話さないつもりだ。

 殿下は王族としても1人の人間としても信義に厚い素晴らしいお方だ、むやみに他人へ言いふらしたりすることは無いだろう。

 だが、どうしても殿下だけにというわけにはいかないと思う。

 すまないが、許してくれ」


 申し訳なさそうにフロスティが言う。


 フロスティとしても契約記録紙を使用してまで行った契約を破り、ケントについて話すことに思うところがあるらしい。


 正確にはケントが会うことに了承しているので契約違反ではないが。


 契約違反になるかもしれないにもかかわらず王女様へケントのことを伝えようとする辺り、よっぽどフロスティは王女様のことが好きなのだろう。


 ケントとしても何が何でも隠し通そうとしているわけではないし、王女様にお礼をしたいと言われて悪い気もしない。


 むしろ恩を売っておいていざというときに後ろ盾になってくれるような関係を築けるのならば、ケントとしても悪い話ではない。


 大国であるレリエスト王国の王族の後ろ盾などこれ以上ないほど強力なものだろう。


「王女様に平民が会おうっていうんだから、護衛とかも必要だろうしね、仕方ないよ」


 王に謁見するとか気の小さいケントには憂鬱で仕方のないイベントだが、フロスティが敬愛する王女様に会うのはひそかに楽しみにしている部分もある。


 美人だといいな、とろくでもないことを考えながら伯爵家の王都邸へと向かうのだった。



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