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62.昇格

 

 フロスティの依頼を終えた後、ケントとミランダはDランクパーティーへと昇格した。


 元々パーティーランクがEランクであったのは、2人とも初めてパーティーを組むということで様子見の部分もあったのだろう。


 それでもわずか数ヶ月で昇格するのはすごいことだ、とオリヴィアが褒めてくれた。


 それから、ケントとミランダの2人はダンジョンの15階層を重点的に探索する日々を過ごしている。


 15階層を探索する理由は、日帰りで探索できる範囲で最も効率よくお金と経験値を稼げるからだ。


 20階層を目指してもよかったが、フロスティのいない現状Dランクになったからといって15階層を探索していることだけでも異例なのに2人で20階層突破は目立ちすぎる。


 一応転移碑はフロスティが発見したことになってはいるが、それでもケントたちが同伴していたことを知っている人は知っている。


 魔杖のあった2つ目の隠し部屋と転移碑の発見に貢献した新米パーティー。


 新米パーティーの功績としてはあまりにも破格だ。


 ギルドへ寄るときはそれとなく隠密で気配を消しているが、それでもオリヴィアと話しているときなどは視線を感じることが増えた気がする。


 というわけでしばらくは目立たないよう、大人しくダンジョン探索に勤しむことにした。


 ちなみに20階層にあるであろう転移碑が発見されたという発表はまだされていない。


 転移碑の場所は隠し部屋と違ってボス部屋から次の階層へと続く通路の手前に固定で存在すると思うし、他の冒険者たちもそう予想しているだろう。


 それでも見つかっていないということは、おそらく転移碑へと続く壁を壊せずにいるのであろう。


 今は人目があるが、いずれほとぼりが冷めた後20階層を突破したときにでもこっそり壊そうと思う。


 ギルドへ報告するつもりはないので突然壊れた壁に疑問は持たれるだろうが、ケントに辿り着くようなことは無いだろう。


 冒険者ギルドから転移碑について発表されて以降、10階層のボスであるゴブリンジェネラルを倒せる、あるいは倒したことのある中級以上の冒険者たちはこぞって10階層の転移碑をアクティベートしていった。


 今まで1日かけて潜っていた10階層に一瞬で行けるようになったことで、日帰りでのダンジョン探索を行っていた中級以上の冒険者たちの狩場が10階層以降へとシフトしていった。


 実力さえあれば10階層以降の方がより大きな魔石を手に入れられるのだから当然だ。


 それによってこれまでよりサイズの大きい魔石が市場に多く広まることになり、魔石をエネルギー源とする魔道具を生活の基盤としている住人たちの生活は少しずつではあるが向上するようになった。


 そしてダンジョンが近くに無い街や村落へも魔石の輸出を行っているランドンは、質のいい魔石を今までより多く輸出できるようになり、ランドンの街全体も好景気なようだ。


 フロスティの実家であり、ランドンの街を治めているランドン伯爵家はウハウハであろう。


 ランドン伯爵家の家訓や試練といったものが、伯爵家にとってどれほどのものなのかケントにはわからないが、フロスティは転移碑の発見という手柄を立てたのだ。


 魔剣は入手できなかったが、転移碑の発見はそれに見合うだけの十分な功績であると思う。


 以前伯爵家の試練についてフロスティから聞いたとき彼女はおどけたようにそのことを話していたが、それでも彼女にとって試練を乗り越えることには大きな意味があるのだろう。


 正直、試練を達成したところでフロスティが貴族家の一員であることに変わりはない。


 結婚だって自由にはならないだろうし、家のために自分を犠牲にしなければいけないこともあるのだろう。


 それでも試練を達成することで少しでもフロスティの人生がより良いものになるのなら。


 ケントたちとフロスティとでは身分が違う。


 依頼を終えてからフロスティには一度も会っていない。


 まあ、平民が領主の娘にそうほいほい会えるはずもないのだが。


 次はいつ会えるのか、また会う日が来るのかそれはわからないが、1ヶ月という短い期間とはいえ同じパーティーを組んでいた仲なのだ、フロスティには幸せになって欲しいと思う。


 ……そんなことを考えていたからだろうか。


「おお、2人とも!

 待っていたぞ」


 ダンジョンの帰りに冒険者ギルドへと寄ると、フロスティが待ち構えていた。


 以前はギルドの応接室にいたフロスティだが、今回はギルドの入り口付近で待っていた。


 かなり自由奔放なフロスティだが、それでも伯爵令嬢だ。


 ギルドにいた他の冒険者たちは入り口近くにいるフロスティの存在に困惑しているのか、皆の視線がこちらを向いているし、それにいつもよりギルドが静かに感じた。


 今だからこそフロスティの性格を理解しているが、そうでない他の冒険者たちには貴族という存在はおそれ多いものなのだろう。


 何か貴族の癇に障るようなことを言って罰せられたくないという思いが、皆の口を閉じさせているのかもしれない。


 他の貴族は知らないが少なくともフロスティはその程度のことで文句を言うような奴じゃないぞと皆に教えてあげたいところだが、貴族をおそれ多い、高貴な存在だと認識させることが円滑に統治をするための一助になっている面もあると思うので、今のところケントの口からフロスティについて話すつもりはない。


 というか皆の前で大声を上げて演説とか絶対に無理だし、この視線の中フロスティと仲良く話してそれとなくアピールというのも居心地が悪すぎて耐えられない。


 フロスティがわざわざケントたちに会いに来たということは何か用事があるのだろう。


 ということで、フロスティへの挨拶も早々に受付にいたギルド職員に頼んで応接室へ通してもらった。


 職員としても何をするでもなく入口に立っている領主の娘への対応に困っていたのだろう。


 お願いするとすぐに通してくれた。


「それでフロスティ、今日はどうしたの?」


「この前転移碑を見つけたときに国から褒賞されるかもしれないという話をしただろう?」


「そういえばそんなこと言っていたね」


「今日王城から伯爵家へ転移碑の発見を称えるので参上するよう通達があったのだ。

 なので明日には王都へ向けて出立しなければいけない」


「おお、それはおめでとう!

 急な旅は大変だろうけど頑張ってきてね」


「何を他人事のように言っている。

 2人も一緒に行くに決まっているではないか!」


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