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59.爆撃の鬼

 翌日、ケントたちはフロスティからの依頼完遂に向けて魔剣を探しにダンジョンへ潜ることにした。


 当初の予定では2泊3日のダンジョン探索を繰り返していく予定だったが、転移碑によって日帰りでの探索のめどが立ったため、毎日潜ることとなった。


 ダンジョン入り口の反対側にある転移碑へと向かうと見張りのギルド職員がいた。


 使わせてもらえるか心配だったが、ケントたちが転移碑の発見者だということは周知されているようで、使用したい旨を伝えるとすんなり通してもらうことができた。


 ケントたちは1人ずつ転移碑に魔力を注ぎ、10階層へと転移した。


 その際、見張りのギルド職員の興奮したような眼差しが気になったが、まさか転移する様子を見たいがために独断でケントたちを通したわけではあるまいな。


 ……流石にそれは無いか。


 まあ、ケントからすれば転移碑を使用できるならどうでもいいことではあるが。


 視界が切り替わり、ダンジョン特有の光る鉱石により発光する壁が目に入る。


 無事に転移できたようだ。


「昨日既に転移は体験しているが、未だにここが10階層だとは信じられないな。

 今までなら1日中最短ルートで移動してどうにかたどり着けるかどうかだったというのに、一瞬で移動できてしまうとは」


「確かにね。

 でもギルドの確認が終わって正式に転移碑が使用できるようになれば、もう歩いてここまで来ようだなんて思わなくなると思うよ。

 それどころか転移碑のある場所まで移動するのが面倒くさく感じるようになったりしたりして」


「これほどまでの興奮を忘れてしまう日が来るのか。

 人という生き物は何ともまあ強欲なものだな」


 そんな感じでフロスティやミランダと雑談しながら、11階層へ降りて隠し部屋の捜索を始めた。


 毎日使っているおかげか脳内マップの感知範囲も初めのころに比べるとずいぶんと広くなっている。


 だがそれでもダンジョンの階層全域をカバーするにはほど遠く、感知範囲に隠し部屋が入るまで歩き回らなければならない。


 道中魔物との戦闘が幾度もあったが、魔杖を装備したフロスティが嬉々として魔法を放って討伐してくれるので今のところケントやミランダに出番はない。


 そんな魔物の中でフロスティのお気に入りの魔物がマッドラットという魔物だ。


 マッドラットは全身泥で構成された中型犬サイズの鼠である。


 この魔物、10階層のボスですら2発で沈めたフロスティのファイヤーボールを1発ではあるが耐えたのである。


 鑑定してみたところマッドラットは火耐性スキルを持っていた。


 スキルレベルはⅠであったが、それでもフロスティの一撃を耐えるとなると耐性スキルは侮れないかもしれない。


 魔杖を手に入れてからボス以外はすべて一撃で沈めてきたフロスティにとって、マッドラットは初めて敵と認識しうる魔物だったのである。


 どうやら一撃で仕留められないことが悔しいらしく、マッドラットを見つけ次第案内するようケントにお願いしてきた。


 魔剣探しは良いのかよとも思うが、依頼主のちょっとしたわがままくらい聞いてあげるべきなのだろう。


 フロスティの一撃を耐えるとはいえ、2発目をくらえば魔石になるし、それにケントやミランダが十全の状態で控えているのだ。


 魔物を積極的に狙っていったところで、そうそう危険な状況に陥ることはあるまい。


 それにあれだけばんばん魔法を使っていれば、フロスティのMPが切れるのも時間の問題だろう。


 そんなことを考えながらマッドラットにファイヤーボールを打ち込むフロスティを眺める。


 一撃で沈めようと頑張ってはいるが、マッドラットも鼠だけあってそこそこ動きが速いためファイヤーボールを回避することもあり、一撃どころか3発、4発かかるようなこともある。


 その事実がフロスティを余計に刺激し、爆撃の鬼へと変えてしまっている。


「ふはははははっ!」


 口の端をぴくぴくさせ笑いながら魔物を屠る姿は、とても伯爵令嬢には見えない。


 正直、ちょっと怖い。


 領主家は武を重んじる家だと言っていたが、その家訓がきれいな令嬢をこんな戦闘狂にしてしまったのだろうか。


 昨日ケントに褒められ照れていた可愛らしいフロスティの面影はすでに消えてしまっていた。


 ファイヤーボールを放ち、目の前にいた最後の1体を魔石へと変える。


 その時だった。


 フロスティの体が突然傾き始めた。


 慌ててフロスティの体を支え、顔を覗くと真っ青だ。


「フロスティ!大丈夫か、何があった!?」


 体に力が入らないようで、あれだけ楽しそうに振り回していた魔杖も手から離れ地面に転がっている。


「……れた」


 かすれた声でフロスティが囁く。


「どうした!?」


「M…Pが…切…れた…」


「はあっ!?」


 何か持病でも発症したのではないかと慌ててしまったが、ただのMP切れらしい。


 どうやらMPが切れると動けなくなってしまうようだ。


 そのことを知ることができたのは良かったが、フロスティの様子を見てMP切れだと気が付いていたらしいミランダは、ケントの慌てっぷりがツボだったらしく、顔を背けて肩を震わせていた。


 解せぬ。


 ケントの回復魔法なら他人のMPを回復できそうな気はしたが、心配をかけられた仕返しにそのことはフロスティには黙っておいた。


 探索を続けられる状況ではないので、少し早いが今日は切り上げることにした。


 動けないフロスティはケントが背負って連れていくことになった。


 装備のせいで、背中に当たっているであろうおもちの感触は正直よくわからなかったが、代わりに太ももを支える手のひらで堪能できたので良しとしよう。


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