58.ギルド長との面会
ギルドで転移碑について話をすると初めは信じてもらえなかった。
だが転移碑のある所までギルド職員を案内すると態度が一変した。
真実だと知りことの重要性に気が付いたのだろう。
ギルドへとんぼ返りをすると、ケントたちは詳しい話をするためにギルド長と面会をすることになった。
すでに日も暮れており、正直なところ宿へ帰って休みたかったが、ことがことだけにそういうわけにもいかないのだろう。
ギルド職員へ案内されケントたちはギルド長室へ入った。
「フロスティ様、お久しぶりでございます。
呼びつけるような形となってしまい申し訳ありません」
部屋へ入ると1人の男が頭を下げてきた。
白くなった頭は短く切りそろえられており、年相応にしわの刻まれた顔には疲労の色がにじんでいる。
ギルドの制服に身を包む体は細く、魔物を相手に日々戦う冒険者たちのトップには見えない。
魔法使いの可能性も考えたが、後で聞いたところによるとどうやら生粋の事務畑の人らしい。
確かに冒険者としての腕があるからといって、ギルドを経営できる手腕があるわけではないのだろう。
「気にする必要はない。
それより早く本題へ入ろう。
私たちもダンジョン帰りで疲れているのだ、早く帰って休みたい」
フロスティとギルド長はすでに面識があるのだろう。
伯爵令嬢という立場もあり、下手に出るギルド長に対して遠慮なくケントの心を代弁してくれるのはありがたい。
「これは失礼しました。
どうぞこちらへおかけください。
君たちもかけてくれ」
ギルド長に促され3人はギルド長室の一画にある応接用のソファーへ腰掛け、ギルド長もテーブルを挟んだ対面の席へ着いた。
フロスティへの態度とケントたちへの態度の違いに思うところはあるが、仕方あるまい。
方やこの街の領主家の伯爵令嬢、方や初対面とはいえギルド長と同じ組織の若手だ。
気を使う必要もないのだろう。
「それではお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか。
何でも転移碑というものを見つけたのだとか」
ケントたちはギルド長へ転移碑で地上へ転移するまでの経緯を話した。
フロスティが転移碑を発見したことにしたかったので、基本的にはフロスティが説明し時々ケントたちが補足をするといった感じだ。
もちろん隠し部屋の見つけ方や壁の破壊方法についてはごまかしてある。
それに念のためフロスティが持っていた魔杖はケントのアイテムボックスにしまってある。
伯爵令嬢のフロスティならば魔杖クラスの装備をを持っていても不自然ではないだろうが、万が一ギルド長に魔杖について言及されたときにそこからぼろが出るのは避けたいからだ。
数年に一度しか発見されない魔剣や魔杖レベルの装備の入手先を、ギルド長なら把握していたとしてもおかしくはない。
とくに魔杖を発見した9階層の隠し部屋は魔剣を手に入れたときの入手先として公表するつもりなのでここで教えるわけにはいかない。
「なるほど、そのようなものがダンジョンにあったとは。
明日にでも冒険者を派遣して10階層へ向かわせ、確認させていただきます。
確認ができ次第、領主様や他の冒険者ギルドへも報告をしなければなりませんな」
「父へは私から話をしておこう。
構うまい?」
「ではよろしくお願いします。
ギルドとしても今回の件は扱いきれませんので、後日領主様の元を訪れさせていただくとは思いますが」
「それはわかっている、問題ない」
「ありがとうございます。
それと1つお願いが。
この件に関しましてはギルドから正式に発表があるまではご内密にお願いいたします。
問題は無いと思いますが、予想外の混乱が起こる可能性もありますので」
「確かにその通りだな。
むやみに話をしないよう私も気を付けるとしよう。
では私たちはそろそろ失礼する」
「本日はご足労いただきありがとうございました。
フロスティ様にもまたお話を聞かせていただくこともあるかと存じますが、よろしくお願いします」
「ああ、構わん。
この街、いやこの国をより豊かにするであろう話だ。
私としても発見者として事の成り行きを把握しておきたい」
「ありがとうございます」
席を立ち部屋を出ていくフロスティを追いかけるように、ケントとミランダもギルド長室を後にした。
それにしても自分よりも二回りは年上であろう人を相手に堂々とふるまえるフロスティはすごいな。
ケントなら、がちがちになってなかなか要領のえない会話を倍の時間かけて話していたに違いない。
そのことをケントに褒められ照れるフロスティの様子は、年相応の可愛らしい少女のものだった。





