47.2人への客
ダンジョンから戻る途中、2階層でオーベルたちと出会った。
「おう、ケント。
今帰りか?」
「そうだよ。
オーベルたちはこれから潜るのかな。
8階層?」
「いや、今回はここまでのつもりだ」
「ここまで?
ああ、隠し部屋探しか」
「そうなの!
ケントから隠し部屋の話を聞いてから、時間のある時は探しているの」
オーベルの後ろからひょっこり顔を出すヴィオラ。
二つ結びの薄い菫色の髪がヴィオラに合わせて跳ねていて、活発な印象を周囲に与えている。
「ケントさんたちは、探したりしないんですか?」
そうメヌエットが尋ねてくる。
姉と同じ色の髪を伸ばす小柄な少女。
今日もおもちがすばらしい。
それにしても隠し部屋か。
ケントが脳内マップによって偶然見つけた空間。
ダンジョンの壁を壊した先にあったその部屋には宝箱があり、中には今ケントの腰に吊ってある魔剣が入っていた。
その情報をギルドが公表してからというもの、隠し部屋探しをする冒険者が増えた。
中には早くも隠し部屋の話を聞きつけ、ランドンの外からくる冒険者もいるくらいだ。
隠し部屋探しは主に上層で盛んに行われている。
理由としては、単純に出現する魔物が弱いため効率よく探すことができるからだ。
とはいえダンジョン内の壁を片っ端から調べて回るのは容易なことではない。
何年もかけてようやく10階層までしかマッピングが終わっていないように、ダンジョンはとても広大なのだ。
そして申し訳ないことに、おそらく隠し部屋へつながる壁があったとしても、そうとは気が付かずスルーしてしまう可能性が高い。
隠し部屋へつながる壁は、他の壁と比較してもこれといった違いはないため、壁の向こうの空間を感知できるような手段がない限り、発見できないだろう。
仮に壁を見分けられたとしても、上層を狩場としている冒険者のレベルではおそらく壊すことはできない。
上級の冒険者なら可能かもしれないが、それだけの力があるのならすでに見つかっている他の魔剣の様に下層を探した方が、効率がいいだろう。
ちなみにケントにはしばらくは隠し部屋探しをするつもりはない。
ケントにだってレアなアイテムを集めてみたいというコレクター的な気持ちはある。
だが他の冒険者が誰も見つけることができないのに、同じ冒険者が何度も隠し部屋を見つけるのは、羨望だけならともかく、いらないしがらみも増えるだろう。
見つけても黙っていればいいのかもしれないが、元来小心者のケントはレアなアイテムをずるして手に入れて独占しているのは、いらない罪悪感をおぼえて落ち着かないだろう。
隠し部屋の情報を公開したのも、女神様に貰った強力なスキルを利用して魔剣を手に入れたことに対する罪悪感の裏返しのような側面もあるのかもしれない。
「俺たちはしばらく探すつもりはないよ。
こいつを手に入れるのに運を全部使っちゃった気がするしね」
「なるほどね。
ケントたちが探さないってことは、強力なライバルが減って私たちが見つける可能性も増えるってことね!」
「姉さん!」
「うそ、うそ。
じょーだんよ、冗談」
微笑ましいやり取りをしている姉妹を見ていると、当てのない宝探しをさせてしまって申し訳ない気分になる。
今度、ご飯でも奢ってあげよう。
「それじゃあ、そろそろ俺たちは行くよ」
「ああ、また飯でも食べに行こう」
ぶんぶんと手を振るヴィオラと、頭を下げるメヌエットにも軽く会釈し3人と別れた。
帰り道、魔石を換金するために2人はギルドに寄った。
今回はオリヴィアに新しい仲間について相談するつもりだったので、丁度いい。
ギルドに入りまずは換金窓口に行こうとしたとき、受付からすごい勢いで出てきたオリヴィアに捕まってしまった。
「ケントさん、ミランダさん。
お客様が来ています」
それだけ言うと返事を返す暇も与えないまま、オリヴィアはケントとミランダを引っ張って、受付の脇を通り過ぎ奥の応接間へ連れてきた。
元冒険者というだけあってなかなか力が強い。
「中でお客様がお待ちです」
そう言って応接室の扉を開くオリヴィア。
すると中には銀髪の美女がソファーに腰掛けていた。





