41.オークの群れ
泊りがけでダンジョンに潜った次の日ということで、今日のダンジョン探索はお休み。
何事もメリハリをつけることが大切だ。
油断するといつの間にかメリハリがメリメリになっていることがあるが、気のせいだろう。
せっかくの休みだが、とくにこれといって、やりたいことがあるわけではない。
あえて挙げるとすれば、食料の買い出しくらいだろうか。
娯楽の少ない世界だ、スマホを片手に過ごしていた身としては暇をつぶす方法がない。
やることがないので、森まで行ってゴーレムと訓練でもしよう。
〈魔剣ルーインブリンガー〉の扱いにももう少し慣れておきたい。
力加減を見極めておかないと、味方に被害を出しかねないからな。
森に行くとミランダに伝えると、ミランダも一緒に行くことになった。
ミランダもゴーレムで特訓したいらしい。
ゴーレムは劣化版ケントともいうべきステータスをしている。
そのため使えるスキルはケントに依存してしまうが、スキルレベルについては魔石の大きさや、ゴーレムを創る際の魔法の種類である程度コントロールできるので、訓練の相手として申し分あるまい。
とくに空間魔法を使う相手などそうはいないと思うので、貴重な経験になるのではないだろうか。
そんなわけで、2人で森へ向かうことになったが、その前にギルドに寄ることにした。
森に行くついでに薬草採取の依頼も受けてしまおうと思ったからだ。
それほど早い時間ではないこともあり、冒険者の多くは既に依頼を受けに行っているらしく、ギルドの人影はまばらだ。
おかげで待ち時間もなく、受付に座るオリヴィアに声をかけることができた。
「おはよう、オリヴィア」
「おはようございます」
「おはようございますケントさん、ミランダさん。
本日もダンジョンへ行かれるのですか?」
「いや、今日のダンジョン探索はお休みにして、森に薬草採取にでも行こうと思って」
「そういうことですか。
森は浅いところなら、ほとんど魔物も見かけませんし、ダンジョンに潜っているお2人なら問題ないと思いますが、気を付けてくださいね。
特にケントさんは冒険者になって日が浅いですし、少し慣れてきた頃が一番命を落としやすいですから」
「そうだね、慢心しないように気を付けるよ」
車の運転も免許取り立てよりも、少ししてからの方が事故を起こしやすいっていうからな。
自分の命だけでなくミランダの命にもかかわってくるかもしれない、薬草採取とはいえ気を引き締めよう。
◇
オリヴィアに挨拶を済ませ、森へ向かう。
ランドンから森までは徒歩10分ほどで、1km程度の距離がある。
ミランダと2人、森へ向かって歩いていると、森の方からこちらに向かって走ってくる人影が見えた。
すぐに距離は縮まり、どうやら男のようで顔が見えるようになったが、血相を変えて走っている。
どうやらなにかがあったようだ。
「何かあったんですか」
「オークだ!
森の浅いところにオークの群れが出たんだ!
今はガレンさんたちが押さえているが、勝てるかわからないからギルドに応援を呼びに行くところだ。
あんた冒険者になったばかりの新人だろ、今日は森に近づかない方がいい」
早口でそれだけ言うと、男はランドンの方へ走り去っていった。
「ミランダ、ガレンていう人知ってる?」
「ええ、前に5階層前の安全地帯で絡んできた茶髪の男よ」
あいつか~。
高圧的な態度で突っかかってきたし、あまり関わりたくない奴だな。
「ガレンたちはCランクパーティーを組んでいて、実力もあるほうだけれど、オークの群れ相手だとさっきの彼が言っていた通り、少し厳しいかもしれないわね」
「オークの群れってそんなに強いの?」
「依頼の難易度としてはオーク単体ならCランク、群れならBランクパーティー推奨ってところね。
CランクパーティーでもBランクに迫る実力があれば討伐できるでしょうけど」
なるほど、ガレンたちの実力はわからないが、オークの群れは格上の相手ということか。
ガレンについては嫌な印象しかないし、どうなろうと知ったことではないが、もし後になって死んだと知らせられれば、きっと後悔をするだろう。
名前も知らない赤の他人が知らないところでどうなろうと、同情くらいはすると思うがそれだけだ。
だが、嫌な相手とはいえ知り合った相手が、助けられたかもしれないところで死なれると寝覚めが悪い。
「ミランダ、少し様子を見に行きたいんだけど…」
「ケントならそう言うと思ったわ。
早く行きましょ、嫌な奴だけど死んでほしいほど恨んでいるわけじゃないしね」
苦笑しながら答えるミランダ。
Bランクパーティー推奨ということは、ランクだけ見ればケントたちにとっても格上ということだ。
それにもかかわらず、ガレンを助けに行きたいというケントの願いを聞き入れてくれた。
ミランダにはわがままばかり聞いてもらっている気がするな。
いつかちゃんとお礼をしよう。
そう思いながら森へ向かって駆けだした。





