31.デート(仮)
翌日。
宿でミランダと朝食を済ませた後、2人で商業区へ出かけた。
今日はダンジョンへ潜る予定はないのでラフな格好だ。
といっても元々たいした装備をしていないケントは普段と変わらないのだが。
ミランダは帯剣こそしているものの、革鎧は着けていない。
鎧という束縛から解放されたおもちは生き生きとして見える。
「それじゃあまずはテントを見に行きましょうか」
「テント?
ダンジョンの中でテントを張るの?」
「そうよ。
まあ、どうしても張らなければいけないわけじゃないけど、冒険者のマナーとして基本的にみんな張っているらしいわ。
安全地帯といっても他の冒険者たちはいるわけだから、他人の目を気にして休めないなんてことになっても仕方ないからね」
(特に女性冒険者は知らない男たちの前で寝ることに抵抗あるだろうな)
「私もテントは買ったことはないけど、行きつけのお店にテントも置いてあったはずだからそこでいいかしら」
「そうだね。
そこにしようか」
そう言ってやってきたのは見覚えのある建物。
(ここリュックサック買った店だよな)
『ヴァロス商店』
入口の上に掲げられている看板にそう書いてある。
(2度目の来店で初めて店名を知った。
ミランダも隠れた名店探しはしない人なのかしらん)
「ここがそのお店よ」
「この店なら来たことあるよ。
俺もこのリュックをこの店で買ったんだ」
「そうなのね。
私の装備もほとんどこのお店で揃えているわ。
何年か使ってきたけど、品もちは結構いいと思うわよ」
使用者が言うんだからそうなんだろうな。
前回来たときは目的の物だけ買ってすぐに店を出てしまったが、こうしてじっくり店内を見てみると、剣に盾、鎧に保存食など多種多様なものが置かれている。
冒険者専門店といったところだろうか。
「それじゃあテントを見に行きましょうか」
そう言ってテントコーナーへ移動する。
テントの種類も豊富であり、布製の物から何かの革でできたものまで様々だ。
「ミランダ、このテントオークの革でできているみたいなんだけど…。
魔物って魔石だけ残して革なんて残らないよね?
どういうこと?」
「それはダンジョンで宝箱からでたアイテムじゃないかしら。
ダンジョンの宝箱からは剣や盾みたいに完成品の形で見つかることもあるけど、中には素材が見つかることもあるわ。
そのテントに使われているオークの革は素材として宝箱から出てきたのでしょうね。
もしかしたらテントの状態で見つかった可能性もあるけど」
(なるほど。
宝箱って色々なものが出るんだな。
よく思い出そうとすると常識先生の知識にもあった。
…使い勝手悪いな、常識先生)
常識先生は自分の知識というより、脳内で百科事典を調べる感じなので、今回の様に知っている人がいれば聞く方が早かったりする。
「ダンジョン産の素材を使ったテントは、品質はいいけど、その分値が張るわね。
今の私たちには少し厳しいから、今回は布のテントにしましょう」
そう言って折りたたまれて陳列されているテントの1つを手に取るミランダ。
ケントもそれに倣って布製のテントを手に取る。
「ケントはそっちのテントのほうがいいの?」
「えっ、いや特にそういうわけじゃないけど」
「まあいいわ。
そっちのテントにしましょうか」
そう言ってミランダは自分の持っていたテントを棚に戻した。
「…まさか2人で同じテントを使うの?」
「そのつもりだけど、何か問題ある?」
「問題があるというかなんというか…。
その…、一応俺は男なわけですし、ミランダ的にはいいのかな~って」
「あぁ、そういうこと。
ケントは私に何かするつもりなの?」
「いやいや!
そんなつもりはないけど」
「なら別に問題ないわよね。
ダンジョン内ではパーティーメンバーが性別関係なく同じテントで寝るなんて普通のことよ」
言い終わるとミランダはケントの手からテントを取って他のコーナーへ歩いて行ってしまった。
(ダンジョンは冒険者にとって仕事場みたいなものだからなぁ~。
他の冒険者もいるだろうし、そういうことは気にしないのかな。
俺ばっかり意識しているみたいで恥ずかし~わ~。
童貞だってばれちゃう!
いや、もうばれているかもしれないけどね…)
その後2人はダンジョン内で食べる保存食や、敷布代わりにも使えるマント、水を飲むためのコップなどを買った。
他にはケントの護身用に剣を一振り購入した。
護身用といっても実際に護身に使うのではなく、護身用に持っていると思わせるためのフェイクであるが。
丸腰だとガラの悪い冒険者に絡まれるかもしれないため持つことにした。
あえて問題を招くような振る舞いをすることもないだろう。
こうしてミランダとのデート(仮)は終了した。
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