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29.和解

 5階層へ続く坂を下る。


 茶髪に怒鳴られただけで萎縮してしまった自分が情けなかった。


 そしてそんな状況が嫌でミランダのことを庇うでもなく、あの場から逃げ出してしまったケントのことをミランダはどう思っているのだろうか。


 元々ミランダのような美しくて心優しい女性が、自分のような臆病で凡庸な奴とパーティーを組んだこと自体間違いだったのではないだろうか。


 茶髪の言う通り、パーティーを解散したほうがミランダのためになるのではないか。


 ミランダも助けられたからお返しにパーティーを組んでくれているだけで、本当は他の人とパーティーを組みたいんじゃないか。


 悪い方へ悪い方へと考えるのは良くないと知識としてはわかっているが、それでも考えずにはいられない。


 2人の間に流れる空気が重いのも自分のせいであるとわかっているが、後ろを歩くミランダの方を見るのが怖かった。


「ケント…、さっきはごめんなさい」


「えっ?」


 ミランダからの突然の謝罪に思わず振り返ってしまう。


「その…、私がいたせいでケントがあの人たちからいわれのない侮辱を受けたから。

 ケントが怒るのも当然だと思う。

 だからごめんなさい」


 呆気に取られているケントに向かって頭を下げるミランダ。


 どうやらミランダはケントがミランダの方を見ようとしないのは怒っているせいだと思ったらしい。


「違う!違う!

 怒ってなんかないから頭を上げてよ」


「えっ、でも…」


 さっきまでの態度は何だったのか。


 ミランダはそう思っているのだろう。


「…俺の方こそごめんね。

 さっきミランダのことを庇おうともせずに逃げることを選んじゃって。

 ミランダに呆れられたんじゃないかと思ったらミランダの顔をみづらくて」


「そんなことはないわ!

 あの場で言い争っても何も解決しないし、それにケントは力を隠しておきたいのよね。

 私もこんなことのためにケントの手の内をさらすべきじゃないと思うし。

 ならあの場から立ち去るのが最善の手段だったと思うわ」


(あぁ…、ミランダはいい奴だなぁ。

 俺なんて自分のことばっか考えているのに、ミランダは俺のフォローまでしてくれる。

 情けないなぁ)


「ありがとうね、ミランダ。

 ミランダのパーティーメンバーとして馬鹿にされないように頑張るよ」


「ケントを馬鹿にするような奴なんて放っておけばいいのよ。

 それでもいつか、すごいパーティーになって馬鹿にしてきた奴らを見返してやりましょ」


 微笑むミランダを見てケントはよりいっそう頑張ることを心に決めた。


 ◇


 ランドンのダンジョン第5層。


 5層といっても1層と目立った違いはない。


 光る鉱石によって照らされた洞窟が続いている。


 目隠しをされて連れてこられたらここが5層かどうかわからないのではないだろうか。


 それほどまでに見た目に変化がない。


 しかし、それ以外の変化はあった。


 魔物が1層よりも強くなっている。


 それだけ魔力濃度が高くなっているということだろう。


 ~ステータス~


【名前】なし  【年齢】0  【性別】男

【種族】コボルト(影)

【称号】引きこもり

【レベル】5

【HP】25/25

【MP】8/8

【力】E

【耐久】F

【器用】F

【敏捷】F

【魔力】F

【スキル】

 剛腕Ⅰ


 青い肌で醜い犬のような顔を持つ、幼児程度の大きさの魔物だ。


 1層のゴブリンに続き会話を試みたが、失敗に終わった。


 1層の魔物に比べれば強くなっているが、森で会ったゴブリンたちと比べると少し弱い気がする。


 種族が違うせいかもしれないが、同じ5レベルのニートゴブリンよりいくつかの項目で劣っているし、せいぜい2~3レベルだった狩人ゴブリンと同じくらいのステータスだろう。


 やはりダンジョン内と外の魔物では生体が違うのだろうか。


 まあ、それは後で考えるとして、こいつを倒すか。


 今回は譲ってもらいケントが倒すことになった。


 手には氷でできた一振りの剣を握っている。


 剣での戦闘を繰り返していれば、いずれ剣術を使うためのスキルを手に入れられるのではないかと思ったからだ。


 やはり、人前で使える戦闘手段がないのは不便である。


 ミランダと上位ランクのパーティーを目指すにしても俺が戦えるところを見せた方が効率はいいだろう。


 というわけで剣を構えてコボルトに近づく。


 隠密は発動していない。


 発動すると一方的な闘いになってしまうからだ。


 コボルトが両手の爪を振り上げながら飛びかかってきた。


 ケントはそれを脇に避けてかわし、隙だらけの背中に一太刀あびせる。


 切断することはできなかったが、それでも十分に致命傷だった。


 地面に伏したコボルトは一瞬の後霧散して、魔石だけが残った。


「ケントはあれだけ魔法を使えるのに近接戦もできるようになりたいの?」


「まあね。

 俺の場合、攻撃手段が人に見せたくないものばかりだからね。

 こうやって剣を使って魔物を倒していれば、そのうち新しいスキルを覚えるかと思って」


「その向上心はすごいと思うけど…。

 新たにスキルを身につけるのってものすごく難しいでしょ。

 それこそ何年もかけるくらいに。

 身についたころには冒険者を引退しているかもしれないわよ」


 …なんだと。


読んでいただきありがとうございます。

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