20.ホント、たまたま、偶然
ケントとミランダの2人はランドンの南にある森へ薬草採取に来ていた。
この依頼を終えるとEランクになれるとわかったのでケントはいつにもまして張り切っていた。
「それにしてもすごい手際ね。
そんなに早く薬草だけを見つけて採取するなんて私にはできないわ」
感心したようにミランダは言った。
確かに2人の採取した薬草の量を比べるとケントのほうが随分と多い。
「まあ、この依頼一筋でしたからね。
それにランク昇格やパーティー結成などの嬉しいことが続きましたから少し張り切ってしまいました」
鑑定を乱用していることはまだ言わない。
このままずっと同じパーティーとして活動していくならばいずれ話そうとは思うが、さすがにまだ決断できない。
「あのさ、せっかくパーティーを組んだんだから話し方もう少しどうにかならない?
別に今の口調が駄目だとは言わないけど、少し距離を感じるわ」
少し膨れたようにミランダが抗議してきた。
(あざとい!あざといぞ、ミランダ!
そのジト目気味の表情といい、精神的に距離を詰めてくる行為といい実にあざとい!
童貞が勘違いしたらどうするんだ。
ちゃんと責任取ってくれるんだろうな)
「確かにそうですね。あっ、いや、そうだね。
もう少しフランクに話すことにするよ、ミランダさん」
「さん付けも禁止」
「えっと、ミランダ」
「よろしい」
ミランダは満足げに頷いていた。
(うぉ~~~!
同年代の女子の名前を呼び捨てなんてハードルが高すぎるよ。
苗字にさん付けがデフォルトで、同じ苗字の人がいて紛らわしいときのみ名前にさん付けが許されていたというのに、名前を呼び捨てだと!
いったいコミュ障童貞に何を求めているんだ。
社交性か、日の当たる場所に連れ出そうというのか。
あっという間に干からびるぞ!)
「どうかしたの?」
「いや、女性の名前を呼び捨てにするのが少し照れくさくて」
「ふ~ん、そういうものかしら」
(全くこれだから日向者は。
下々のことを全く分かっていない。
罰としてパフパフの刑を求刑する)
「さて、薬草はこれくらいでいいかな」
リュックサックに詰め込まれた薬草を見て満足げに呟く。
「えっ、もう終わり?
確かにこれだけあればFランクの依頼の報酬分としては十分でしょうけど。
いつもは採取の後に何しているの?」
うっ、しまった。
ついゴーレムと訓練するときの癖で切り上げてしまった。
ついさっき俺のことについてはしばらく黙っていようと考えたばかりなのに。
とはいえこれから先ミランダの目を気にしてゴーレムと特訓ができないのは嫌だしな。
ゴーレムについては教えるか。
しかし、ゴーレムを倒すためには空間魔法や隠密、それに水魔法による氷の生成を使わなければならない。
魔法によって氷を生みだすことは一般的ではないということはわかっている。
ミランダを助けたとき、男たちの足を串刺しする際に氷の魔法をミランダは見ているはずだ。
もし俺が魔法で氷を生みだすところをミランダが見たら、おそらくあの時助けたのが俺だと気が付くだろう。
ミランダが悪い奴ではないことはわかっている。
泊まっている宿の娘のためには自分を犠牲にすることも厭わないような奴だからな。
もし俺のステータスについて知っても吹聴するようなことはないだろう。
しかしだ。
(助けたのは俺だって暴露するのって、なんか恩に着させるみたいで感じ悪いじゃん。
もう少し時間が経った後なら少しはましになるかもしれないけど。
気にし過ぎかな…。
仕方ない、気まずい感じになったら拝み倒そう。
そうすればお礼としてパイタッチくらいさせてくれるかもしれない)
「実は秘密の訓練をしているんだよ」
「秘密の訓練?」
「これから見るもののことについてはできれば秘密にしてほしいんだ」
「ええ、約束するわ。
これから見るものについては他言しない」
「それとホントはもう少し折を見てミランダに話そうと思っていたんだ。
そもそもミランダとパーティーを組むことになるなんて思ってなかったし、本来はミランダに話すつもりもなかった」
「それはそうでしょうね。
言葉を交わしたのも今日が初めてのわけだし。
もし私に話したくないようなことなら無理に聞いたりしないわ。
パーティーメンバーといってもすべてをさらけ出す必要なんてないでしょうし」
「いや、ミランダなら秘密を知っても吹聴したりしないってわかっているから教えるよ。
俺も誰かに話したいって思っていたしね。
ただわかって欲しいのは、このタイミングで話すことになったのはあくまで偶然で、俺が狙ったことじゃないってことだけ」
「ええ、わかっているわ」
「ホントだからね、本当にたまたまそういう話の流れになっただけでそこに俺の意思は介在してないからね」
「ケント、くどい」
「…はい。
じゃあついてきて。
他の冒険者たちに見られたくないからもう少し森の奥に行こう」
そう言ってミランダを連れいつも訓練をする辺りへ向かった。
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