16.童貞の葛藤
しばらく路地を進むと通路が布でカーテンのように覆われていた。
金髪たちはその布の向こうへ赤髪と宿屋の娘を連れ込んだ。
ケントは布の端を少しめくり、向こう側の様子を窺った。
そこは城壁と周囲の建物によって狭い広場のようになっており、広場の上も布で覆われていて雨をしのげるようになっていたため大きな天幕のように見えた。
ただでさえ暗い路地を布で覆っていたためそのままでは暗くて不便だと思われたが、魔道具の明かりが持ち込まれており視界に不自由はしなかった。
天幕の中には先に入っていった5人のほかにも10人ほどの男たちがいた。
(秘密基地みたいだな。
いいよな~、こういうの。
小さいころ秘密基地にあこがれてやぶの中にそれらしい空間は作ったんだけど、天井にするような板や布なんて手に入らなかったもんな。
いい年した大人たちがこんなところに秘密基地だなんてなんてうらやましい!)
連れてこられた少女たちの気も知らず、ケントは秘密基地に思いをはせていた。
「兄貴、ただいま戻りました」
「おっ!
今回もなかなかいい女じゃねぇ~か。
相変わらずお前は女引っ掛けるのうまいな。
ん?
そっちのちっこいのは何だ。
そっちも使うのか?」
「こいつはただの餌ですよ。
でも兄貴たちが使いたいならそれでもかまいませんよ」
「ちょっと!
私がパーティーに入ったらその子には手を出さない約束でしょ」
「おうおう、元気がいいなぁねぇちゃん。
名前はなんていうんだ」
「うるさいわね!
そんなのこいつらに聞けばいいでしょ」
「まだ自分の立場が分かっていないみたいだね。
兄貴が聞いているんだから素直に答えればいいんだよ。
君があまりにお転婆だとそのぶんこの子に頑張ってもらわなきゃいけなくなるよ」
苛立ちを抑えるように金髪が言った。
「…ミランダよ」
あきらめたように赤髪の少女は呟いた。
「そうか。
じゃあミランダ、とりあえずそこで脱げ」
「はぁっ!
何でそんなことしなきゃならないのよ。
こいつらのパーティーに入るんだからそれでいいでしょ」
「お前はなかなか元気がいいみたいだからな、少し教育をしてやろうと思ってな。
そうだな、じゃあこうするか。
ミランダ、お前は俺の命令を拒否しても構わない。
ただし、お前が拒否した命令はそっちの小さいのにやってもらおう。
どうだ」
兄貴と呼ばれた男はニタッといやらしい笑みを浮かべながらミランダのことを眺めた。
「本当に最低ね!
こんなことしてなんとも思わないの」
「思わないな。
それよりどうするんだ。
脱ぐのか、脱がないのか」
「…脱ぐわよ。脱げばいいんでしょ。
でも私が命令に従う限りその子には手を出さないと約束して」
「もちろん約束するぜ。
俺は正直者だからな。
さぁ、早く脱ぎな」
男たちの卑しい視線がミランダに突き刺さる。
ミランダはその視線に気おされながらも一度宿屋の娘のほうを見て、自分の不幸を呪いながらも震える手で革鎧に手をかけた。
(ああああああ!このまま見ていたい!
このまま大人しくしていればミランダの裸体を拝むことができるのに~!
同年代の女性の裸なんて童貞の俺は見たことないのに~!
…はぁ、でもそろそろ助けないと罪悪感であの宿に泊まっていられなくなるしな。
あぁもったいない。
俺にこんな思いをさせたこいつらにはお仕置きしてやらなくては!)
理不尽な思いを胸にケントは隠密状態で天幕へ入り込んだ。
そして地を這うように水を出し、男たちの足元から無数の氷の針を出した。
氷を攻撃に使うのは目立つかと思ったが、どうせケントがやったとばれることはないと思い遠慮なく使うことにした。
突然の攻撃に男たちは悲鳴を上げた。
軽く足を裂くだけで済んだものもいたが、足の甲を貫通し地面に縫い付けられてしまったものはたまったものではない。
男たちが突然悶えだしたことに驚き、ミランダと宿屋の娘は戸惑いを隠せないでいる。
ケントは宿屋の娘に近づき、氷で生み出したナイフで手の縄を切断し、猿轡をほどいた。
そして今度はミランダの背後に立つと一瞬隠密を解除し、耳元で
「あの子を連れて逃げろ」
と囁くとすぐさま隠密を発動。
突然の声にミランダは後ろを振り向くがケントの姿を捉えることはできない。
しかし、声の指示に従うことにした。
「エミリア、逃げるわよ!」
そう言って未だ混乱する宿屋の娘に駆け寄って手を引き、天幕から出ていった。
(あの子エミリアっていうのか)
今更知った宿屋の娘の名前を反芻しつつ、ケントは痛みに悶える男たちを見ていた。
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