15.路地にて
次の日。
宿で朝食を摂った後、昨日と同じように冒険者ギルドへ向かった。
早朝というわけではないが、既に街の人々が活動を始めている様子をうかがうことができる。
この世界には明かりを灯す魔道具があるため夜でも光源に困ることはない。
しかし、元の世界に比べ娯楽などが少ないため、家にいても内職などやることのあるもの以外は基本的に暇なので日が暮れるとすぐに寝てしまう。
そのため起きる時間も早く、こうして朝から街が活気づく一因にもなっている。
通りを歩いていると、ふと路地のほうから言い争う声がした。
何となく気になり、足を止め路地を覗き込んでみた。
隠密を発動したのは念のためである。
日当たりが悪く薄暗い路地に二人の人影が見えた。
2人とも冒険者だろうか、革鎧をつけて帯剣している。
1人は20歳代半ばの青年で金髪を短く刈り上げ、引き締まった体躯に整った顔立ちというなかなかの好青年にみえる。
青年と向かい合う形で立っているのは、背中まで伸ばした、燃えるような紅の髪を緩く三つ編みにし、少し釣り目で気の強そうな目を持った20歳手前くらいの美人さんである。
…この世界は顔面偏差値の高い人が多すぎではないだろうか。
顔面偏差値が並程度(はあると思いたい)俺としては生活しているだけで精神攻撃を食らう日々である。
「なぁ、いい加減俺たちのパーティーに入る決断をしてもいいんじゃないかい。
ソロでの活動もそろそろ限界だろう。
俺たちはCランクだ。
今までよりいい依頼だって受けることができるぜ」
「しつこいわね。
何回入らないって断ればわかるのよ。
だいたいパーティーに入るにしたってあんたたちのパーティーなんかに入るわけないでしょ」
(あの金髪が赤髪美人をパーティーに勧誘し続けているけど、脈無しってところか。
イケメンなのに振られるとかざまぁ、とか考えちゃう卑しい自分が情けない…)
「もういいでしょ。
いちいちくだらないことで話しかけてこないで」
そう言って無理やり話を終わらせ、歩き出そうとした赤髪美人の腕を金髪がつかんだ。
「ちょっと、放しなさいよ!」
怒気を孕んだ赤髪美人の声が路地に響く。
「ホントは自分からパーティーに入って欲しかったんだけどな。
そしたらこんなことしなくて済んだのに。
おい!」
金髪が声をかけると、路地の奥から3人が姿を現した。
3人の内2人は男性で身なりからして金髪の仲間の冒険者だろう。
そしてもう1人は10歳くらいの女の子で…ん?どこかで見たことあるような…。
あっ!宿屋の娘さんだ。
娘さんは無理やり連れてこられたのか、手は後ろで縛られ口には布を噛まされていた。
その表情は今にも泣きそうな顔をしている。
「どういうこと!
その子は関係ないでしょ!
今すぐ放しなさい!」
「関係ないことはないでしょ。
いつも仲よさそうに話しているじゃないか」
「卑怯よ、人質なんて。
あなた達にプライドはないの!」
「人質だなんてひどいな。
俺たちはただこの子に協力してもらっているだけだよ。
君が俺たちのパーティーに入るようにね。
でも君が入ってくれないならこの子に代わりをお願いするしかないよね。
まだ若いけどかわいいし、たまにはこういう子も悪くない」
「何言ってるのよ!
その子に手を出したらただじゃおかないからね」
「それは君次第だよ。
君が素直に頷いてくれればそれで済むんだけどね」
「っ…。わかったわよ、あなたたちのパーティーに入るわ。
だから早くその子を解放して」
「まあまあそう慌てないで。
もう少しあっちで話そうか、ついてきてくれるよね」
「…わかったわ」
再び怒鳴りそうになった赤髪は、あきらめたように呟いた。
そして5人は路地の奥のほうへ歩き出した。
(あ~あ、なんて現場を目撃しちゃったんだろ。
あの雰囲気だとこの後あの赤髪ちゃんはあられもないことになるんだろうな~。
二次元でそういうジャンルはかなり好きだったからこのまま見ていたい!見ていたいんだけど…。
宿屋の娘さんもいるしな~、助けないとだよな~。
でもこんな展開滅多にないだろうしな~、見たいな~。
…よし。
ぎりぎりまで様子見で赤髪ちゃんがあられもない目に合う前に助けよう。
うん、そうしよう!)
人助けより自らの欲望を優先するケントであった。
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