10.薬草採取
冒険者登録を終えたケントはランドンの街へ繰り出すことにした。
冒険者として活躍していくうえで必要なものを揃えるためだ。
(人前でアイテムボックスは使えないからな。
カモフラージュのためにもリュックサックは買っておきたい)
今歩いているのは商業区だ。
レリエスト王国とリリアス帝国を繋ぐ貿易都市だけあってたいへん賑わっている。
(隠れた名店みたいなのを見つけることができればかっこいいんだけど…。
初めての買い物でそんなチャレンジできないよな、普通)
ということで店先を覗きながら客の多い店に入ることにする。
繁盛しているだけあって店構えは周囲の建物より立派だった。
店内も広く、品数も十分にありそうだ。
ケントはお目当てのリュックサック売り場へ向かった。
リュックサックの大きさはもちろん素材に使われている魔物の種類によっても値段が変わるようで、安いもので4桁、高いものだと7桁もの値段のする品が置いてあった。
(ひぇ~、リュックに7桁とか。
置いてあるってことは需要があるってことなんだろうけど、高ランクの冒険者になると使うようになるのかね~。
まあ、俺は初心者だから高いもの持っているとトラブルの原因になりかねないし、そもそもカモフラージュだから一番安いやつでいいか。
短剣くらいは持っていてもいいかもだけど、まだあんまりお金ないからなぁ。
他のものは次来た時にしよう)
そう結論を出し最も価格の低いリュックサックを手に取り、追加で保存食も見繕うと会計を済ませ宿へと戻るのであった。
◇
翌朝、宿で朝食を終えたケントはさっそく依頼を受けるために冒険者ギルドへ向かった。
背中には昨日買ったリュックサックを背負っており、中には保存食が入っている。
保存食はアイテムボックスへ収納しようかと考えたが、空のリュックサックだと見た目が不自然なので量増し目的で入れていた。
朝のギルドは昨日とは違い冒険者であふれていた。
受付も空席はみられない。
ケントはクエストボードを確認しようかと思ったが、込み合っていたのでそのまま受付へと向かった。
理由は既に常設の薬草採取の依頼を受けようと決めていたためだ。
通常の依頼はクエストボードの依頼表を剥がし受付へ持っていくのだが、常設の依頼に関しては口頭で申告するだけで依頼を受けることができる。
理由は単純で通常の依頼は冒険者のダブルブッキングを避ける必要があるが、常設の薬草採取は何人の冒険者が受けても構わないからだ。
常設依頼の薬草はポーションの材料らしく、いくらあっても問題ないそうである。
ケントは昨日登録をしてもらったオリヴィアの座る受付へ向かった。
(おぉ~、今日も美しい。
あの慎ましやかなお胸に飛び込みたい!)
「おはようございます、オリヴィアさん」
「おはようございます、ケントさん」
「薬草採取の依頼お願いします」
「わかりました。
こちらはランドン南の森で採取することが可能です。
薬草は一株100ギルで買い取らせていただきますので、採取しましたらあちらの素材換金窓口までお持ちください」
そういって受付に向かって右手に併設されている窓口を手で示した。
朝ということもありまだ利用者はみられない。
「わかりました。
では行ってきますね」
「あの辺りはほとんど魔物の目撃がありませんが、それでも気をつけていってきてくださいね」
「もちろんです。
魔物を見つけたらすぐに逃げることにします。
逃げるのは得意ですから」
そう言ってケントは初めての依頼に向かった。
◇
ランドンから南へ10分ほど行ったところに目的の薬草の生える森が広がっている。
森は広大で浅いところではほとんど魔物を確認することはないが、奥地に行けば高ランク冒険者ですら戦闘を回避せざるを得ないような強力な魔物が生息しているといわれている。
念のためケントは隠密を発動し薬草採取を開始した。
鑑定しながら採取することで効率化を図っている。
(一株100ギルだもんな。
これだけで生活していこうとすると、宿代が3000ギルで保存食とかも買わなきゃだから最低でも50株くらいは欲しいところだけど…。
毎日そんなに採取していたら採取しつくしちゃうんじゃないかな、他の冒険者もいるし。
仕方ないから魔石でも換金するか。
オリヴィアさんには逃げるって言っちゃったけど、生活のためには仕方ないよね。
レベルアップもしておきたいし)
魔石とは魔物を形成する核のようなものだといわれている。
魔物は魔力濃度の濃い場所で発生するとされていて、魔物を倒すと肉体を形成していた魔力は霧散し魔石だけが残る。
魔力濃度の濃い場所ほど強い魔物が生まれ、強い魔物ほど大きな魔石を残す傾向がある。
魔石は人々の生活を支える魔道具の材料にもなっているので素材として買い取ってもらうことができるのである。
もくもくと鑑定と採取を繰り返し、午前中の内に50株採取することができた。
倒木を見つけたのでそこに腰掛け昼食として昨日買った保存食を取り出す。
(保存食の定番と言ったらやっぱりこれだよねー、干し肉!
小説読んでいると保存食はまずいっていう描写があるけど実際のとこはどうなんだろう)
好奇心を抑えつつ干し肉に噛り付いた。
(おぉ、なかなかうまい!
スーパーで売っていたビーフジャーキーと遜色ないぞ、これは。
それでいて圧倒的にこっちの干し肉のほうが安い。
それだけ需要があるってことなのかな)
干し肉だけだとさすがにのどが渇くので水魔法でのどを潤す。
(飲み水の調達がいらないから楽で助かるな。
水魔法貰っておいてよかった)
そう思いながら心の中で女神様に手を合わせる。
よし、それでは一狩りいきますか!
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