八話 神殺しを探して……
外に出ると、日はすっかりと傾き、夕方になっていた。
まだ日が落ちるまでには時間があるが、極端に街を歩く人々の数が減ったように感じる。
残っている人たちもどこか慌てている様子で、何かに追われるように家へと帰宅する。
「丁度、町の人も家に帰る頃だな」
「随分と帰るのが早いんだね」
「早寝早起きは大切だ……それに、夜は危険だからな」
「……それって、どういう?」
「あ、ほら、見ろリリィ、ハンターが夜の準備をしているぞ」
街を歩く人々が減っていくのと対照的に、街にはハンターの姿が多くなっていた。
人々はあわただしく町を駆けていき、何かに追われる様に家の中へと入っていくのに対して、ハンターはのんびりとビンに入った酒を飲んだり、鼻歌交じりに背中に背負ったのこぎりを磨く狩人もいる。
まるで、これからが自分達の時間だと言う様に……どこに隠れていたのか、続々とハンター達が現れる。
色とりどりの服や、種族入り混じった大都市が、段々と薄汚れたローブと赤い塊がこびりついたのこぎりを背負い、杖を突きながら歩く老人のような人たちで埋め尽くされていく。
それだけでも既に恐怖を感じてしまう。
「……あいつらに聞いて見るか」
「えっ!?」
しかし、ガラクさんはもはや見慣れた光景だといわんばかりに、気軽にハンターの一段に近づき、声をかける。
「ごきげんよう皆さん、調子はどうだい?」
のこぎりを研磨坊で丁寧に磨きながら、ランタンに油を注いでいるハンターの集団は、腰掛けた空ダルから少し体勢を変えてガラクさんを見やると、けだるそうにため息を吐く。
「誰かと思えば騎士団長様が俺たちに何のようだ? 」
「アンタも獣狩りしたくなったのか?」
からからと茶化すようにハンター達は冗談を言うが、ガラクさんはそれを特に気にすることなく苦笑を漏らしてかわして要件を伝える。
「人狼なら今朝心行くまで狩ってきたから必要はないな。 その代わり、今日は別のものを探しているんだ」
「俺たちに聞くってなると、夜の物か……」
「まぁな、実は今王国騎士団は神殺しを探している、全力でな」
「……神殺しを? なんでいまさら……」
「少し事情が変わってな、神殺しを捕縛することになった……噂では昔みたいにハンターをやっているとか、何か心当たりはないか?もちろんただとは言わねえ、酒でも金貨でも望むままだ、あぁ、女はやれねえけど、こちとら一応騎士だからな」
ハンター達はその言葉に一瞬眼を輝かせるが、少しして首を横にする。
「残念だが、しらねえなぁ。 そもそも、あいつが姿をくらませたのは五年も前だ……
姿かたちも変わってるだろう……隣で悪魔憑きと戦ってたとしても気づけねぇよ」
「そうか、そりゃ残念だ。 邪魔して悪かったな」
「力に慣れなくて悪いな、騎士団長」
「いやいや、ありがとうな。 怪我するなよ」
ガラクさんは残念そうな表情を作り、礼を言って立ち去る。
「確かに、あの人たちの言うことも確かだよ。 元部下だったなら、何か特長とかないの?」
「特徴……かぁ。あることはあるが、何せハンターはみんなあの姿だからな」
あたりを見回すと、皆が皆同じようなボロボロのコートを羽織り、口元を隠して顔は髭や酷いとマスクなどで隠れてしまっている。
これでは特徴を捉えて探すのはほぼ不可能だ……。 まぁだからこそハンターとして過ごしているのかもしれないが。
「まぁしかし、とりあえずは虱潰しだ」
ガラクはそういうと、さらに近くで武器の手入れをしているハンターへと続けて声をかけた。
■
「やや、もうこんな時間か」
道行くハンターに声をかけていくこと20人ほど、帰ってくる答えはどれも似たようなものばかりで、収穫0というものを私は身をもって体験する。
「……空もすっかり暗くなってきちゃったね」
「今日はここまでにして、また明日だな」
ガラクさんの提案に、私は少し焦りを覚える。
「わ、私はまだ頑張れるよ! 夜のほうがハンターは多いんでしょ? だったら」
「それは騎士として認めるわけにはいかない、リリィ」
しかし、ガラクは少し強めに私の提案を否定した。
「子供は寝る時間だ、そして夜はとっても危険だ。 予言も大事だが、リリィの身の安全が第一。 急いだ所で予言の結末はそう大きくは変わらねえ、ならば、安全な道を行こう、 長生きしようぜ?」
「……でも」
私はそれでも納得ができずにさらに口ごもるが。
「団長~! こちらに、いたのですか~」
大通りに戻ると、白銀の鎧を身にまとった聖騎士団の人間が、慌てた様子でこちらに走ってくる。
「あの人は?」
「うちの副団長をやってるゲルトだな……フワフワしてる」
「副団長さんがどうしてこんなところに?」
「それは聞いてみないとわからねえな」
そう言うと、複数の騎士団員と共に走り寄ってくるゲルトに笑いかける。
「おー、どうしたよ……問題ごとか?」
「ええ~、そうなんですよぉ~! 聖騎士団詰め所に王城の大臣様が来られたみたいなんですよ~!」
「大臣が? 本当に何しに来たんだ?」
なにやら騎士にしてはフワフワとしゃべる副団長。
そのせいで、慌てているのだろうがいまいちどれぐらい大きな問題が起こっているのかが把握しづらい。
しかしゲルトの言葉に、ガラクは苦虫をかみつぶしたような表情をし、しょうがねーなと悪態をつくようにつぶやき頭を掻く。
「悪いな、俺もこうやってお迎えが来ちまった……人狼の件もまだ片付いてねえからな……悪いが急いで向かわなきゃならねえ、俺も忙しい身でな」
「……わかったよ……うん、わがまま言ってごめんなさい」
「素直でよろしい……ありがとうな、大人の都合に突き合せちまって」
「団長、こちらの見目麗しいお嬢さんは~?」
「カールスタード村の生き残り、リリィだ。 悪いがゲルト、俺は先に騎士団詰め所に戻るから、リリィを宿泊施設までエスコートしてやってくれ……もうじき夜だ」
「かしこまりました~、ではでは~リリィ様……こちらにぃ~」
そう言うとゲルト副団長は私の手を取り、エスコートをしてくれる……。
近くでみると優しそうな笑顔にほんわかした雰囲気……そしてどことなくうっすらとお花の香りが漂ってくる……絵本で見た王子様にそっくりだ。
「頼んだぞ……」
そうガラクは手を振ると、その巨体からは想像もできないほど身軽に、風のように人込みの中に消えてしまった。
「……本当に、すごい人だよね、ガラクって」
「ええ、そうですとも~!我々の誇りですよ~……なので、その誇りに傷をつけるわけにもいきませんので~……リリィ様、申し訳ありませんが寄り道せずに宿までお送りいたします~」
「うん……わかった~」
フワフワしたしゃべり方をするゲルトに、つい私もフワフワした口調で返してしまう。
なんとも不思議な人だ。
「素直でいい子ですね~……おやおや~? ちょっと失礼」
「わっ!? なに!?」
宿に向かって歩き出そうとした瞬間、ゲルトは私の首筋に急に触れてくる。
急であったことと、ひんやりとした籠手の感触に驚いて私は思わず飛び上がってしまった。
「……あ、ごめんなさいー……虫がついていたのでー」
「だ、だったらそういってよね!? ほら見て! 鳥肌!」
「……あわわ!? す、すみません!? 私としたことが……」
慌てた様子で謝るゲルトさん、なんだかんだマイペースな人のようだ。
「もう……虫ぐらい自分で取れるよ!」
「なんと! すごいんですねぇリリィさん! 私なんて、無視なんて無理無理無理~でして……今だって勇気を振り絞ってですねえ」
「……もう……」
悪気は無さそうに、ゲルトはそうにこにこと笑い、私はそんなマイペースなゲルトに一つ嘆息をしたのち、二人でゆっくりと宿へと戻っていく。
◇
「おやおや、もうついてしまいましたね」
到着した頃には夕日も残り僅かとなってしまっており、道にハンター以外の人間は一人としていなくなっていた。
「ではでは~……確かに送り届けましたので~……夜中にふらふらと出歩いたりせぬよう、よろしくお願いいたします~……」
「出歩かないよ……じゃあね」
「えぇ、では良い夜を~」
私はフワフワ副団長――命名私――ゲルトを手を振って見送り、一人部屋へと戻る。
受付に立っていたお姉さんの姿は既になく、明かりも控えめの魔法による薄暗い明かりのみとなっていた。
少し早すぎる消灯だなと私は疑問に思うが、それでもロビーには誰もおらず、エントランスももぬけの殻。
どうやら早寝早起きが習慣付けられているというのは本当らしく、仕方なく部屋へと一直線に戻っていく。
特段何も変わったことはなく部屋へ戻ると、いろいろなことを学んだせいか、それとも旅の疲労感か……私の体は猛烈に昼寝の続きを渇望し、ベッドに倒れこむと同時にそのまま意識が遠のいていく。
「エルディヴァイス様……一体どこに……むにゃ」
一体予言は何を指し示しているのか、どうして私がこんな大役を任されたのか。
もはや思考能力が極限まで低下した頭では、到底答えが思い浮かぶはずもなく、私はそのまま深い闇の中へと落ちていった。




