七話 聖騎士団長 ガラク・グランド
「ええと……」
通された場所は王国騎士団の応接室。 本来は団体客を想定して作られているようで、
真ん中に設置された机を取り囲むようにして椅子が何個か設置されている。
外の見た目と同じく質素なつくりではあるが、申し訳程度の騎士の甲冑と、七騎士の肖像画がかけられている。
「緊張してるのか?」
あたりを見回す私に、ガラク様は優しい笑顔でそう語りかけてくる。
「あ、すみません。 ただ、村から出たことが今までなかったから……ついものめずらしくて」
「ははは、言葉遣いなんて気にしなくてもいいぞリリィ、俺も田舎もんだからな、貴族のマナーとか綺麗な言葉ってのがどーもむず痒くて仕方ねえのさ普段どおりで構わないぜ。いやぁアンタを見てると思い出すな、ここに来てすぐは周りのものを見るだけで一日が終わっちまったよ」
「ガラク様も?」
「ガラクでいいよガラクで」
「えと、ガラクも田舎出身なの?」
「ああ、西のカストロ村出身だ。 羊毛が盛んで、ここでも一級品として扱われていたんだけどな、いかんせんどうにも退屈で、騎士になったら少しは面白くなるかなぁって思ったのが運のつきよ」
「あれ、でもカストロ村って……確か聖戦で」
「あぁ、リリィとおんなじさ」
とくんと心臓が跳ね上がるような音がする。
「カールスタード村のことは聞いてた。 悪魔に滅ぼされて使者も死んだと聞いてたからな……門番が報告に来たときは驚いたぜ……どうやってここまで来たんだ?」
ガラク様は悲しい表情をして、私にそう問いかける。
思い出される惨劇、殺されていく友達。 この一週間で何度か食べたものを吐き出し、ようやく平静を保てるようになったが、改めてフラッシュバックをすると視界が歪みめまいを覚える。
「悪魔が街を襲っている中、私だけ村長に呼ばれて……ガラク様の下へ行くようにといわれました。村が襲われてる最中に、こっそり村の裏手から逃げ出したの。それで、夜は森とかに隠れて、何とか」
やっとの思いで出来るだけ村の惨劇を思い出さないように事の顛末を語ることに成功をするが、まだ気分は晴れそうにない。
「……辛いことを聞いたな。 それで、村長にはどんな使命を?」
「……ガラク様と共に、憤怒の守護者ルード様を探せって」
「それが、予言の村 カールスタードの村長の最後の予言か?」
「うん」
「徒歩でここまでやってきたのか? 副団長をカールスタード村に派遣したはずだ……カールスタード村からここまでにも、集落がいくつかあったはずだがなぜ一人でここまで?」
「村長が……聖王都に到着するまで……誰にもあってはいけないって」
「なるほど……神殺しを探して、何をすればよいかとか、なんか言ってなかったか?」
「これだけ。何すれば良いかとかもちゃんと聞いたけど、村長は会えば分かるって」
その言葉に一度ガラクは困ったような表情をした後腕組みをして一度うなり。
「どうにも嫌―な予感がするな」
そう一言呟いた。
「嫌な予感?」
「最近この街で、神殺しを探し神に捧げれば、天使は再び現れる……と謳う教団が現れてな」
「あ、私も聞いた! 神殺しを殺せば、天使は私達を許してくれるって」
「ほんの一、二ヶ月だな、出てきたのは……だが教団の存在に、予言。どうにもタイミングが良すぎる。それに」
「それに?」
「カールスタード村が襲撃された三日後だが、近くの洞窟で人狼の群れが発見されたんだ。あぁ、当然今日全部討伐してきたがな」
ガラクは動揺しないように言葉を付け足してくれたが、私は前半部分の言葉に驚愕をする。
「群れ!?嘘だありえない、人狼が群れを作るなんて聞いたことないよ?」
「通常であればありえねえな。 あくまで自然であればだが」
「……人為的に作られた群れってこと? 誰が、何のために?」
「それはまだ分からん。 そこでだリリィ。 酷なことを聞くってのは理解してるが、あえて聞くぞ。 カールスタード村はどうやって壊滅した?」
心臓が一つ跳ね上がる。せっかくできるだけ思い出さないようにしていた記憶が今度は完全にフラッシュバックし、座っていた椅子から転げ落ちそうになるが、すんでのところで踏みとどまる。 ここで転げ落ちて泣き出せば、私だけ生き残った意味が完全になくなってしまう。
「……夜中に、村の中央広場に悪魔が突然現れたの」
「は?」
ガラク様は一瞬目を丸くする。 当然だ、カールスタード村は天使の加護に守られている村だその村に急に悪魔が現れたということは、天使の加護が消えたか、天使の加護を突破することができる悪魔が誕生したかのどちらかでしかない。
「……天使の加護を発生させるタリスマンがぶっ壊れたのか?」
「そっちのほうがありえないよ、村といえどもタリスマンは命綱だし。 大事に保管してた」
「村に何か変わった様子は?」
「行商人が取引に来ていたくらいで……それ以外はいつもと同じ」
ガラク様は腕組みをして、何かを考えるような表情をする。
そして。
「……洞窟の人狼といい、カールスタード村の悪魔といい。 異例なことが短期間で立て続けに起きている……お互いに関連性はないが、これを偶然とするにはあまりにも……不自然すぎる」
そう、ガラクは判断をする。
「もう少し情報があればよかったんだけど……余裕がなくて」
「十分だよリリィ。 お前がいなければ人狼の群れも偶然で済まされるかもしれなかった。 だが、何が起こっているかの手がかりが皆無なのは事実……今は、予言の通り神殺しのみが手がかりになる」
「ガラクは、ルード様の部下だったんだよね、何か心当たりとかはないの?」
「俺も何度か探したが、見つからなかった。 だが噂は聞いたことはある」
「噂?」
「あぁ。 神殺しは現在ハンターとして生活しているってな」
「……ハンター ですか」
私は昼に酒場でであったハンター達と、私を人攫いから助けてくれたハンターの姿を思い出す。
「まぁ見つからないのは本格的な捜索はしてないってのも大きいけどな、今までは下手に刺激をして七つの大罪が復活することを恐れて神殺しのことは捜索も捕縛もすることなくなぁなぁになってたが、決着をつけるいい機会なのかもしれんな」
ガラク様は少し寂しそうな表情をする。 エルディヴァイス フォン シュバイツァー。
神殺しになるまでは伝説になるほどの英雄であった彼に憧れて聖騎士になった人間は多い。
恐らく彼もその一人だったのだろう、声にこそ出さないがその表情からなぜ神を殺したのかと届かない質問を心の中で繰り返しているのが聞こえてくるようだった。
「ガラク」
「……リリィ。 依頼である神殺し、エルディヴァイス フォン シュバイツァーの捜索、騎士団長ガラク・グランドの名において引き受けよう。 そして、危険を承知で言うが、予言の通り、お前にも協力をお願いしたい」
「もちろんだよ ガラク。 その代わり、ちゃんとエスコートしてよね」
「ふふっ、良い眼だ、アンタ良い女になるよ」
先ほどの寂しそうな表情が嘘のように、ガラクさんは笑顔を作り。
「では、早速なのですが日が落ちるまで、街の案内がてら捜索を開始しましょう」
立ち上がる。
「え、で、でも今日はガラク人狼討伐に行ってたんじゃ」
「優秀な部下のおかげでラクができたからな、全然平気さ。 トマス……あぁそうだな、お前は落書き犯の捜査に参加してろ」
「はっ」
「何かあったら連絡をしろ……」
「了解しました」
トマスは一礼をすると、きびすを返して部屋から出て行く。
「落書き犯?」
「あぁ、ここ最近民家や商店街のいたるところに変な落書きをする馬鹿がいやがるんだ……いつ書いてんのかわからねえが、町中から苦情が来ちまってな……その犯人探しにも追われてるんだよ……ついでに掃除にもな……平和だろ?」
「うん……本当に」
私はそんな平和な事件に少し苦笑を漏らし、ガラクはにっかりと笑って私の頭を撫でた。
「さて、じゃあいっちょ行くか」
二人きりになったガラクは笑顔を作り、私はいそいそと後ろから付いていく。
トマスの時とはまた違う安心感がそこにはあり、私はお兄さんというものがいたらこんな感じなのだろうな……なんてことを心の中で考えた。
■




