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四話 人攫いと運命の出会い

「なんでこうなるのよぉぉお!」


 初めてきた聖王都、幸先の良いスタートを切ったと思った私はその直後に訪れた不幸を嘆く。


  酒場を出て、とりあえずはガラク様の使者を待つために宿泊施設に向かうことにした私は、ほんのちょっぴり近道をするためにレンガ造りの日が差し込まない裏路地を通ることにしたのだが、それが間違いであった。


 人通りが消え、完全に私が道行く人の視界から消えたころ、どこに隠れていたのか、よれよれのコートを身にまとった集団が現れる。。


「えと……何かようですか?」


 当然聖王都に知り合いはいない。 そしてその身なりからして騎士団の使者には到底見えない。


 手を見やると、そこには麻袋が握られている。


「最悪……」


 それだけで分かる。 人攫いであると。路地裏の入り口と出口をふさがれ、じりじりと前方と後方からにじり寄られる。



 体は私の倍近くあり、その腕は浮浪者ではなく丸太のように太い。 恐らくある程度の組織を作って人攫いをしている集団であろう。


真ん中に立つ男は、似合わないハットをかぶり、口元をにやつかせながら私を品定めするように顎のぜい肉をさすっている。


その首には何やら刺青の様なもの……。


小太りの男の首を少し目を凝らしてみてみると描かれていたのは翼が折れた天使……瞳から零れ落ちる涙から、神殺しにより天へと帰れなくなった悲しみを訴えているのかもしれないが……どう見ても堕天の原因は太りすぎである。


「悪いがお嬢さん、使命とやらはそこまでで、俺たちの晩飯になってもらうぜ」


「私なんかを売り飛ばさなくても、餌ならそこらへんに落ちてるじゃん。 ほら、そこに生えた雑草とか、あんた達にはご馳走でしょ?」


「この餓鬼……まずはひん剥いてぶっ飛ばす所から初めねえとなぁ!」


絶体絶命のピンチではあるが、私は人攫いたちが私を子供だと思って油断していることに感謝をする。


 安い挑発にのった豚は、下卑た言葉を使いながら人攫いは私に向かって麻袋を広げて襲い掛かってくる。


大振りな一撃、抱きついてそのまま連れ去ろうという魂胆が丸見えなその巨漢に、私は正面から挑むことは出来ないが。


「なにっ」


足元をすり抜けてそのまま股下を潜り抜け、バッグに入れていた護身用のハンマーで抜けざまに股間を叩く。


「ひあああああああああああ!?」


悲痛な叫びと共に巨漢は崩れ落ち、私は他の仲間達が困惑している脇をすり抜けて聖王都の街道へと走り出す。 路地裏を抜けて、一直線意騎士団の息が掛かった宿泊施設へと向かえればよかったのだが、あいにくそこまでの道順を走りながら思い出すことは出来ず、私はがむしゃらに人の波を掻き分けて聖王都を駆け抜ける。


「ま、待ちやがれ糞餓鬼いぃ!」


 誤算だったのは、この裏路地を抜ければ追ってこないだろうという甘い考えと、思ったよりも人攫いの集団が執念深かったという点。

  気が付けば私は正門から離れた随分と離れた場所まで走ってきており、人目の付かない裏路地へと逃げてきてしまっている。


 背後からはまだ人攫いたちの声が響いており、私は恐怖と焦りから疲労も忘れてひたすら王都を逃げ回る。


 と。


「あいた!?」


 背後にばかり気を取られていたせいか、何かにぶつかる感触と同時に尻餅をつく。

痛みに耐えながら眼を開くと、そこにはボロボロの外套を身にまとい、背中に大剣を抱えた白髪の老人のような人間が立っていた。


 見た目から私は気が付く、この人はハンターであると。

 

 脳裏にジェットが忠告してくれた関わるなという言葉がひしめき、背後から迫る人攫いのこととハンターのことが頭の容量を埋め尽くし、この場をどう切り抜けるかで頭が過負荷により稼動停止しそうになる。



しかし、老人は私をしばらく見つめた後、何をするのかと思ったら、そっと手を差し伸べてくれた。


「へ?……あ……ありがとう」


 ならず者だと聞いていたが、思っていたよりも優しい人も多いのかもしれない。私はそう心の中で思いながら、その差し出された手を取る。 と。


「わっわ!?」


 不意に、とても強い力で引き寄せられ、抱きしめられる。


「ななっ何するん!?」


「静かにしろ」


 暴れる私を押さえつけたハンターは、静かにするようにと、頭をそっと撫でてくる。


 ぞわりと背筋に寒気を覚えたが、それと同時に頭のほうも冷静さを少し取り戻したらしく、私は変質者に抱きしめられ性的欲求のはけ口にされているわけではなく、ボロボロの外套の中にかくまわれているのだということを理解する。


 「助けてくれるの?」


 「……」


 小声で問いかけてみるも、男は語ることはせずに気が付けば段々と人攫いたちの声が大きくなり、間もなくすぐそばまで到着する。


「……っち、ハンターか。おいじじい、ここにこんくらいの餓鬼が来ただろ、どっちへ行った?」


老人は何も言わないまま、外套のこすれる音だけが、彼の体を通じて聞こえてくる。

恐怖からか、緊張からか、その音はとても大きく、そしてハンターの一つの動作がとても長く感じる。


「……そうか、おいてめえら、こっちだ!」


 ハンターはあさっての方向を指差したのだろう。 人攫いたちはそう仲間を集めると、段々と遠くへ離れて行き、最初は足音、次に彼らの怒号という順番に、彼等の気配は消え去って行った。


 もう大丈夫……とハンターは判断したのだろう、私を抱きしめていた腕を放し、私はようやく外套から解放される。


「……た、助けてくれてありがとう。あいつらいきなり私を攫おうとしてきて……」


「ここらで組織的に犯罪を繰り返している集団だな……この街は、特に路地裏は危険だ、子どもが親元を離れるのは利口とはいえない」


 先ほどまで何もしゃべらなかったハンターは、急に私に向かい話をはじめる。


「聖王都は治安が良いって聞いてたんだけど」


「五年前まではな、今は夜中に働いていた犯罪者も昼間に働くようになった……」


「それはやっぱり、悪魔の所為?」


 私は軽口ついでにそう言葉を漏らすが、ハンターの叔父さんは少し押し黙り。



 「いいや、俺のせいだ」


 そう、悲しそうに言い放った。


「それってどういう……」


「ハンターが、夜の仕事を奪ってしまった、という意味だ。さぁ、あんまり長話をしていると、奴らが戻ってくるぞ。 早く行くべき所に行くんだ」


「う……うん。 ありがとう叔父さん」


「気をつけるんだぞ……特に夜はな」


 最後の言葉は色々と引っかかったが、特にそのときは気にすることはなく、私は叔父さんと別れ、ようやっとまともに地図を開く。逃げるときに落とさなかったのは幸いだった。 私は今度は赤い神の啓示の通り、寄り道も近道もすることなく、真っ直ぐと宿泊施設へと向かうのであった。



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