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二十八話 裏切者

「はぁ……はぁ……はぁ」


息を切らし、そして疲労と全身の痛みを押さえながら、トマスは地下牢を抜け出し、一階へとたどり着く。


 普段であれば聖騎士団の人間が管理をし、仲間が誰かしら存在するこの地下牢入り口……。


しかし、現在そこには誰もおらず、もぬけの殻となっていた。


「おかしい……一体何が」


外を見ると日は傾きかけており、そろそろ夜が訪れようとしているが。


だが、たとえ夜であってもここの見張りがいなくなることはないはず。


トマスは首をかしげて状況をあたりを見回す……と。


「おや、生きていたんだ……あのズーランを退けるなんて……やるじゃないですか」


拍手をする音が響き、同時にゆっくりとこちらに歩いてくる人影が見える。


「……貴方は」


そこにいたのは、聖騎士団副団長ゲルトであった。


驚愕をする……なぜなら、その男からズーランという名前が出ることなど……トマスは想像だにしていなかったから……そして、その男がズーランの名前を出すということは……。


この一連の事件は、聖騎士団が関与していたということに他ならないからだ。


「なんで」


「なんで? やだなぁトマスは……魔王様を復活させるために決まってるじゃないですか」


「……魔王?」


「そう、魔王」


丸腰、そして足元もおぼつかないほど疲弊をしたトマスは、ゆっくりと近づいてくるゲルトに対し構えをとることもできずに、その状況を見つめている。


「……神殺しに予言の少女……完全なる復活にはまだまだ時間はかかりそうですが……仕方ありません、この街をすべて焦土に変えたのちに……ゆっくりと肉付けはすればいい……いかに憤怒の悪魔といえど……神も天使もいない状態で、聖戦は乗り切れないでしょうしね」


どきどきと心臓が跳ねる……。


この男が言っていることを理解できてしまう。


この男が何をしているのかを理解できてしまう。


「ゲルト……貴方は一体何を」


だけど信じたくなかった、憧れの騎士……誰よりも礼節を重んじ、優しく、民に愛されたこの騎士が……魔王の復活の為に人々を生贄に毎晩捧げ続け、街を蝕んでいたという事実を。


だからこそ、トマスは一度問いただす。


嘘であると、いつものように優しく、冗談であると笑ってくれるという希望に縋って。


だが。


「ふふふ、理解していることを聞きなおすのはあなたの悪い癖ですねぇ、トマス・モア? 言ったでしょう? 私はこの街に魔王様を召喚するのですよ……貴方はそうですね……そのための生贄の一人にでもなってもらいましょうか、なんだか毒が効いていないみたいですし」


「魔王の復活、正気ですか」


「いいえ、正気を保ってこんなことができませんよ……ですが考えてもみてください。 この世界にはもはや神はいない。 偉大なる力にひれ伏しその恩恵にあずかり生きながらえるのが人というものであり、後ろ盾を無くした今、新たに後ろ盾を求めるのは自然な流れかと思われるのですが?」


「……だからって、なんで魔王を」


「神は死に、魔王は敗北はせど死にはしなかった! 知略と謀略で、結果として魔王は神に勝利したのです! なればこそ! より優れたものの傘下につくのは当然の帰結かと」


そう語るゲルトをにらみつけ、トマスはため息を漏らす。


「ろくでなしめ」


にやりと口元を釣り上げるゲルト。


「本当は、神殺しの方がよかったんですけれどもね……あの魂には恐ろしいまでの魔力が内包されている……民衆を使って奴を引きずり出そうとも考えましたが、さすがは元ネズミ……隠れるのがうまい。 ですがあなたもその内に内包する力は計り知れませんからねぇ、今宵はこれで我慢するとしますか……えぇ、今まで集めてきた悪魔をすべて捧げれば、未熟でも、受肉には十分でしょうから」


「……っ!?」


ゲルトはそういい、先ほどズーランが持っていた種子の様なものをそっと近づけてくる。


逃げようとトマスは動こうとするが。


「うっ!?」


気が付けば足元には何か魔法陣の様なものが描かれており、全身を鎖でつながれたかのように動くことができなくなってしまっている。


「貴方は……一体いつから」


「最初から……とでも言っておきましょうか。 ガラクが聖騎士団を再編成すると言った時……この男なら御しやすいと感じました……。 思惑通り、いいように踊ってくれましたよ……カールスタード村に悪魔を放てば当然私を向かわせました、生き残りはいないと報告をすれば鵜呑みにしました……生き残りをすべて人狼にして、人狼の群れが出たと報告をすれば馬鹿みたいに騎士団全員を引き連れて聖王都の守りを薄くしてくれました……実に滑稽」


「貴方を信じていたからだ」


「だからこそ間抜けなのです! 挙句の果てには私が用意したハンター二人を捜索して悪魔に殺される! 呪うならあの愚かさを呪いなさい! あいつがあとほんの少し博識であれば、こんな事態にはなりえなかったのですからねぇ!」


興奮気味に語りながら、ゲルトは無防備なトマスへと手を伸ばし……その種子を飲ませようとする……。


が。


「そうかい……だったらその汚名は、ここで返上させてもらおう」


「なっ!? 貴様どうやっ!?」


振り返り、迎撃をするよりも早く。


拳がゲルトの顔面を穿つ。


「がっ……そん……な」


吹き飛ばされるゲルト……その陰から現れたのは。


「な~に、悪魔なんぞに絡まれてんだおめーは」


額から血を流しながら息を切らす……ガラクの姿であった。


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