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二十五話 ピグマを探せ

スラム街

 

夕方のスラム街は、街とは異なりにぎわっており、人々は家に帰る様子もなく皆が皆酒瓶を片手にふらついた足取りで道を闊歩する。


「夜が怖くないの? ここの人たちは?」


私はそう、隣を歩くルードに問いかけると。


「まぁ、ここらで暴れてるのは殆どならず者……ハンターも兼ねている奴もいるからな……。 当然腕に覚えのないやつはとっくに家の中だろう。だがその分、気難しい人間も多い……気をつけろ」


 そう私に教えてくれる。


「なるほどね」


 要するにあまり関わり合いにならない方が良い……とのことであり、私はその忠告に従いかぶっていたフードを更に深くかぶり、顔を隠す。


「……それでいい。 一応あてはあるからな……そこで情報収集をするぞ」


「あてって?」


「そこだ」


ルードはそういうと、ボロボロの建物を指さす。


屋根も家も傾き、一見廃墟のように見えるその建物だが、よくよく見ると建物入り口に設置してあるランプには火がともっており、すっかりと塗料が剥げてしまった看板には。


【悪魔の休憩所】


と書かれていた。 


昔がどうだったのかはわからないが、正直笑えない名前だ。


「見るからにそうね……あー、反吐が出るほど楽しそう」


「言ってやるな。 このスラム街で唯一酒が飲めるところだ」


「なるほど、悪党はみんなそこに集まるということね」


「そういうことだ……蛇の道は蛇」


「悪人の道は悪人から」


私はルードの言葉に納得して頷き、フードを深くかぶって中へと入る。


 扉は立て付けが悪く、開くと同時に壊れたのではないかと思うほど大きな音をたて、中を歩くたびにぎしぎしと嫌な音が店に響き渡る。


「いらっしゃい」


 がやがやと騒がしい店内。


 鼻を突く異様な香りは麻薬かたばこか……。

 

 机は汚れたジョッキに入った麦酒に、机の上には皆が一様にカードゲームが散らばっており。 店の奥では男の人二人が殴り合いをしている。

 

「大男に銀貨5!!」

 

「ちびっこに銀貨6だ!」


やいのやいのと騒ぎ立てる様子から、どうやらかけ試合のようで、私はため息を一つ付いてルードの服の裾を掴む。


「こっちだ」


 そんな私にルードはそういうと、机の方には目もくれずに歩いていき、グラスを磨く剃髪の店主の前に座る。


「みねぇ顔だな? 子連れのハンターだなんて」


「最近越してきたものでな……ここは仕事が多いと聞いてな……蒸留酒を貰おうか」

 

 ルードの言葉を店主はため息交じりに鼻で笑い、棚から薄汚れた酒瓶を取り出す。


「はっ……とんだ命知らずだなお前さん……確かに仕事は多いが、子連れにゃちと荷が重いだろうよ……それにその年じゃ……」


「いいんだ、俺は人探しが専門でな」


「なんだ、死体漁りの類か……わりいがそれなら他を当たれ、ここは死体安置所じゃねえし、人の体も取り扱っちゃいねえよ……そいつをやってた酒場は糞っ垂れな聖騎士団長様にみーんなしょっ引かれちまった」


 なんか、悲劇のように語ってるけど自業自得じゃん。


「あぁ、それは気の毒に……だが、今回はここで正解だ、今回は生きている人間を探している」


「何?」


ルードはそう一つ為を作ると、手渡された蒸留酒を一気に飲み干し。


「ピグマという男を探している。 名前の通り小太りで、首元にイザヤ教団の刺青がある」


「……」


その言葉に、一瞬にしてその場の空気が凍る。


当然だ、見知らぬ顔のよそ者が、自分たちの仲間を探しているのだ。


たいていの場合、招かれざる客が持ってくるものは問題ごとであり。


店の人間は得体のしれないを警戒するように、耳をそばだてて私たちの会話に集中をする。


暴力的な威圧感はないが、どこか張り詰めた糸のような緊張が、その空間を支配する。


だが。


「聖騎士団ガラクからの頼みでな……」


ルードはそんなことを言い放つ。


先ほどガラクに恨みを持っているというニュアンスの言葉を聞いたというのに……。


 当然のごとく店の中の緊張した空気は、怒気をはらんだ殺気へと変わる。


 だが。


「はぁ、聖騎士団の名前を出されて、俺たちを脅そうってのか……」


 店主は眉間にしわを寄せながらも、呆れる様なため息を漏らす。


「まぁな、変に探りを入れて簀巻きにされるのはマッピラだからな……早めに安全は確保しておくべきだ」


「口が回りやがる……手が出せねえと分かって余裕ぶちかましやがって」


 私はその言葉に一瞬首を傾げた後に、なるほどと思いいたる。

 

 聖騎士団の使いの者に危害を加えれば彼らは最後の酒場を失うことになるし、下手をすれば自分たちの身が危ないことを十分に分かっている……。


 見ず知らずの人間が、仲間に探りを入れている……その時点で私たちはこのスラム街にとっての異分子であり危険人物として狙われる可能性がある……。


 それならば、恨まれたとしても後ろ盾の存在をちらつかせておいた方が、安全になるのだ。


 そして、その後ろ盾が聖騎士団ならば……その効果は語るまでもないだろう。


 現に彼らは……殺気を放ちはすれど直接手を出すことができないのだ。


「……ピグマもここに出入りはしているんだろう?」


「さぁな……」


「ガラクに来てもらった方が早いか?」


 ルードは片眉を上げて、少し語調を強くして店主にそう問うが。


 店主は開き直ったかのようにルードのグラスに蒸留酒を投げやりに注ぎ。


「……確かに俺たちはお前に手を出すこたできねえ……聖騎士団を敵に回すっつーことは……この国を敵に回すということだからな……だけどな」


店主はグラスに蒸留酒を注ぎ終えると、カウンターに瓶を叩きつけるように置き。


「俺たちは仲間は売らねぇ……」


 そう……ルードに対して啖呵を切る。


 私は周りを見回してみるが、皆が皆一斉に私たちの方を見つめており、その瞳は異口同音に店主と同意見であることを告げてくる。


 なんだろう……少しかっこいい。


「随分と……たくましくなったんだな、この街も」


 ルードはそんな状況に怯むわけでも呆れるわけでもなく……どこか嬉しそうにつぶやき。


「あん? お前何言って」


「いや、こっちの話だ。 いいだろう、あんた達から話を聞くのは諦める……俺も誇りを踏みにじるやり方は好きじゃないしな」


「そうかい、だったらただの客でいてくれ……そうすりゃこの場はあんたも俺もみんなハッピー、めでたしめでたしだ」


肩をすくめて店主は安堵のため息と軽口をたたき、店の緊張の糸も和らぐ……。


それに合わせるように、ルードも肩をすくめてグラスを持つと……不意に鼻をひくつかせる。


「どした? まだなんかあんのか?」

「あーいや、アンタらの言い分通りそうさせてもらう……だけどな」


「?」


「どこにでもいるんだよなぁ……間の悪いやつってのは」

 

苦笑を漏らし、ルードは蒸留酒をのどに流し込むと。


「ああああああああああああああああああ!! てめえは!」


大声と同時に、どこかで聞いたような声が響く。


振り返るとそこには見間違えるはずもない小太りの人攫い、ピグマがいた。


店の客は、一斉に呆れるよな支援をピグマに向けた。


「てめぇクソガキ!? てめえのせいで俺たちはとんでもない目に!? というかそこのハンター!? てめえやっぱりそのガキとグルだっぶほへあぁっ!?」


 状況を理解できず、拳を振り上げてこちらへ殴り掛かるポーズととったピグマに、投げられたグラスが飛び、見事に額に命中してピグマはスッ転び悶絶をする。


「グラス代だ……あぁ後、お前らはこいつを知らないんだったよな」


「あぁ、やれやれ……そんな間抜けは知らねぇな」


一斉にため息が漏れる酒場の中……。


私は少しばかりこの人攫いに同情をしたまま、ルードについていくと。


ルードは悶絶をするピグマの首根っこを掴み、尋問を開始する。


「久しぶりだな……会いたかったよピグマ」


「ひっ!? て、てめえ! なな、なんだよコノヤロー!」


「あぁ、落ち着け……実は訳あってお前を探していたんだ」


「わけ?」


「あぁ、ここにいるリリィを狙ったわけだ……人身売買は厳しく聖騎士団に取り締まられているはずだ……なのになぜリリィを攫おうなんて考えた?」


「ひっ……い、いわねえぞ俺は! こう見えても俺は口が堅いことで有名なんだ! 騎士団の所にしょっ引かれたってかまいやしねえや! 何をされても、絶対に口は割らねえからな!」


そう啖呵を切るピグマ……どうやら意思は固いらしく。


私とルードは一度顔を見合わせた後。


「本当に? 絶対に口を割らないの?」


と、再度念のため確認をしてあげる。


だが。


「当たり前だ! 馬鹿にすんじゃねえ! 俺は絶対に! 口は! 割らねえ!」


そうピグマは声を酒場に響かせ。


私とルードはもう一度顔を見合わせてうなずいた。


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