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二十四話 父親みたいな悪魔

「で、ルード……さっきの事なんだけど」


唐突に大掃除が開始されたイザヤ教団の教会を後にした私は、しばらく歩いたところでルードを問い詰める。


街は夕暮れが近づいてきており、人々は足早に仕事を終えて、夜が訪れる前に家に戻るところだ。


天使や悪魔の話をするならば、こういう騒がしい所の方がいいだろう。


「……さっきって? あぁ、天使がなぜあんなところにいるのかか? それはだな」


「それもすっごい気になるけど……どうして私が神だなんて嘘をついたのよ」


「……嘘? 何の話だ女神様」


「茶化さないで……火あぶりにされても大丈夫だったのは、このコートのおかげでしょ?」


私はルードに渡されたコートをひるがえしてみせる。



「なんだ、ばれてたのか」


ルードはつまらんと苦笑を漏らすと、ポケットから煙草を取り出し、自分の指で火をつける。


「自分が神様だって信じられるほどの奇跡はまだ起こしてないからね」


「可愛げがないな……それで?」


「助かるために私も否定はしなかったけど……ゲオルギウスさんはあのままでいいの? このままだと、きっと気づかないよ嘘だって」


「あぁ、天使は悪魔に騙されるのが仕事だ。 それに、あいつも復讐に生きるよりも、騙されたままの方が幸せだろう」


「それもそうかもしれないけど……あぁ、神様ごめんなさい」


私はルードの言い分にため息をもらすと、人差し指と中指で十字を作り、神に謝罪の言葉を呟いて、その謝罪を天へと送る。


「なんだそれ?」


「村長に教えてもらったの。 嘘をついたらこうやって神様に謝りなさいって」


「もう神はいないのにか?」


「この地上にはね……だからお空に打ち上げたんだよ」


「なるほど……まだまだ子供の様だ」


「ちょっと、どういう事よ!」


「何でもない」


「もう……まぁその話はもういいよ……それで、どうするつもり? 神殺しの次は、今度は豚一匹をこの聖王都を走り回って探すっていうの?」


「まぁな、だが夜まで時間があまりない……。 ならず者だ、ある程度居場所は絞れるとはいえ、人手が足りない……」


「だったら」


「何のためにトマスを騎士団詰め所に向かわせたと思ってる」


「あっ、聖騎士団の力を借りるんだね!?」


「そういう事だ……悪魔がこの街に潜り込んでるとあれば、聖騎士団も動かざるを得ないだろう? そうなれば後は話が早い……この街で、聖騎士団を敵にまわして逃げ延びることは難しいからな……」


「ましてや小太りの豚ならなおさらね……目立つし」


「そういう事だ」


ルードはそう笑うと、私は納得をしてルードと並んで、人々の流れとは反対の方向へと歩いていく。


と。


「……?」


そっと、ルードが私に対して手を差し伸べてくる。

 

「なにこれ? 子供から物乞い?」


その手の意味を、私は分かっていたが、からかうようにそうわざと問いかけると。


「馬鹿を言え……人通りが多いからな……はぐれないようにだ」


ぶっきらぼうにルードはそう語り、私はどこか嬉しくてその手をすぐに取る。


その手はごつごつしていて……勝手に冷たいと思っていたその手は……とても、暖かかった。


「……意外……なんだかお父さんみたい」


「あー。そうか、それは光栄だ」


ルードはその時、少しだけつらそうな表情をした気がした。


「……どうしたのルード?」


「何がだ?」


「なんだか、辛そうだったから」


「気にするな……それよりも、騎士団詰め所が見えてきたぞ? 愛しのトマスが待っている」


「ちょっ!? 愛しのって何よ! 愛しのって!」


不意な質問に、私は気が動転してしまう。


「……なんだ、嫌いなのか? 可哀想に、トマスはお前の事を……いや、嫌いなら言わない方が幸せか……」


「ちょっと! 嫌いだなんて言ってないよ! 普通だよ普通! っていうかトマスが何! トマスが私の事どう思ってるって!? べ、べつに好きとかじゃないけど一応気になるんだけどルード!」


「秘密だ秘密……」


「何よぉ! 教えてよルード!」


口元をにやけさせて私をからかうルードにいいように思春期の純情を持てさ傍れながら、私は騎士団詰め所に続く道をルードと並んで歩いていくと。


「……おや、リリィさんではないですか」


「ゲルトさん?」


背後を振り返ると、そこには相も変わらずふわっふわした表情をして、大きな麻袋を手に持ったゲルトさんが立っており、どうもぉ~なんて可愛らしい声であいさつをしてくれる。


「随分と大きな袋、ほろほろ芋でも収穫しに行くの?」


「美味しいよねぇ、ほろほろ芋ぉ……煮っ転がしがお勧めだよぉ~」


天然なのか、ジョークに対してゲルトさんはほんわかとした空気でそう語り私もつられてほんわかとした気持ちになる。


「おい……なんだこの、ふわっふわしたやつは」


そんなゲルトに対して、ルードは苦虫をかみつぶしたような表情をし、私に問いかける。


「おやおや、これまた随分大きな……あ、申し遅れましたぁ。 わたくし、聖騎士団副団長をやらせていただいております~。 ゲルトと申します~」


相変わらず覇気がない話し方。


フワフワした羊のような白い髪に、にこにことした表情はまるで小動物のようで、私は自己紹介をしているだけだというのにその胸に飛び込みたくなるような衝動に駆られてしまう。


「副……団長……? いや……しかし、まぁ……リーナよりは……確かに」


「? あのぉ、もしー?」


「あぁ、気にしないで、彼はルード。 ハンターをやってて……」


「ハンターさんでしたかぁ。 これはどうも」


「あぁ……よろしく」


にこにこと笑顔のまま、ゲルトはそう笑い、ルードはそれに苦笑いで返す。


どうやらルードはこのゲルトという人間が苦手のようだ。


いつもは眉間にしわが寄るほど眉毛が吊り上がっているというのに、すっかりとハの字になってしまっている眉毛がその証拠である。


「それで、これからおふたりはどちらに行かれる予定なのですか?」


「聖騎士団詰め所です……もしかして、聞いてないんですか?」


「今日は朝からガラク団長もトマスさんを連れてどこかに行っていますので、私は代わりに街のパトロールをしていたのですよ」


「呑気なものだ」


ぼそりとルードがつぶやいたのに対し、私はそのわき腹を肘でどついて黙らせる。


「それで、何があったんです?」


 ゲルトの言葉に、私とルードは顔を見合わせて、先ほどあった話をゲルトに説明をする。


始めはにこやかな笑顔を見せていたゲルトであったが、その細い目はだんだんと見開かれて行き、最後には真っ青に染まる。


「そんな……この街に、悪魔が……」


カタカタと唇を震わせながら、現状を理解するゲルト……しかし。


「ですが、もしその話が本当ならば、一向に減ることのない人狼や悪魔憑きにも説明が……」


あまりにも突拍子もなく絶望的な現実であるにも関わらず、決して取り乱すことなく早くも冷静に状況の分析を開始する姿は、やはり彼が聖騎士団副団長……ブレインの役割を与えられていることを物語る。


「どうやら見かけによらず頭は良いらしい」


「偉そうに」


「先輩だからな」


「ボロボロのおじさんと聖騎士団様、ダブルスコアで勝負は見えてるよ?」


「男は見た目じゃあない」


「あーあ、記憶力もぼろ負けみたい」


私の皮肉にルードはばつが悪そうに咳ばらいをし。


「あーゲルト」


「あ、す、すみません! 私、考え事をするとついつい夢中になっちゃって……」


「あぁ、構わないよゲルト……一つ頼みがあるんだがいいか?」


「なんでしょう?」J


「その悪魔たちの手がかりでな、俺たちは今ピグマという男を探している」


その言葉に、ゲルトは一瞬眉を顰める。


「ピグマですか?」


「なんだ、知っているような反応だな」


ルードの目の色が変わり、問いただすような瞳がゲルトを刺すが。


「ええ、この辺りではそこそこ有名なスラム街のごろつきの一人ですよ……昼間の治安は我々の管轄なのは重々承知なのですが……最近はおとなしくしていたということと、悪魔や人狼の対策・警備等に追われて……面目ないですぅ」


ゲルトさんは物怖じわけでもなく、申し訳なさそうに頭を垂れる。


「そうか……」


「ですが、悪魔を生み出す儀式に彼が関与をしているというのならば……我々も指をくわえてみているわけにはいきません……聖騎士団の誇りにかけて、ピグマという男を捕縛して見せましょう!」


ゲルトさんはそう力強く誓いを立てると。


「それでは!」


一礼をして小走りでかけていく。


「見た目通りの人じゃないみたいだね」


立ち去ったゲルトさんを見送りながら、私は渋い表情をしているルードにそう語りかけるが。


「なに、ああいう奴ほど腹黒かったり、何か悪いことを企てていたりだな……」


「どうやら、勝ってるのは身長だけみたいだね、ルード」


負け惜しみを言うルードに対し、私は容赦することなくバッサリととどめを刺し……騎士団に先んじてピグマ捜索に向かうことにするのであった。


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