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二十三話 神話再現

嫌味なんだか嫌がらせなんだかわからない台詞を私に向かって吐く。


この親父……あろうことかこのタイミングでそれを言うのか……。

空気が読めないにもほどがあるだろう。


「あぁそう……物知り博士のなんでも講座ありがとうルード……物のついでなんだけどここから何とかできる方法は知らない?」


「雨乞い」


「室内だけど」


「じゃあ大洪水級の黄金……」


「それ以上言ったらぶっ飛ばす」


様は何も解決策はないということだ。


こんな無駄な時間を過ごす間にも、炎は轟轟と私の足元から忍び寄ってきており……足先からじっくりとローストされ……。


「……ん?」


ここでふと気づく。


あれだけの油をまき散らされた挙句に火を放たれたというのに、私の足元には炎が全くもって走ってくる気配がない。


教団の人間もその異常性に気が付いたのだろう。


ざわざわと何やら騒めきだす。


そこから不思議なことが起こりだした。


轟轟と燃え上る炎は私とルードを避けるようにあたりを焼きはじめ、ついでに言うと丸太をも燃やしていく。


だが、背中にやんわりと暖かい感触は走るものの、やけども何も負うことはなく、その炎はまるで親切に束縛から解き放ってくれるように、縄だけを焼いて他の物を皆焼き尽くす。


「……なんだ……一体何が……」


自由になった私も一体何が起こっているのかが分からず、きょとんとしたままとりあえず同じく解き放たれたルードと共にひょこひょこと燃え盛る炎の中を歩いていく。


歩くたびに炎は道を開け、まるで炎の主にでもなったかのような錯覚を覚えながら、司祭や狂信者たちの前に舞い降りる。


すぐに逃げなければいけないというのに、私自身も今何が起こったのかが理解できずに、呆けてしまう。


しかし。


「……あ、ああぁ……」


「イザヤの聖書第二十三章……第五節……。天に祝福されたイザヤは、襲い掛かる劫火を従えて束縛を解き、歩むイザヤに炎は道を開けたという……お前が書いたんだぞ?」


にやりと口元を緩めながらルードはいやらしく笑みを零し。


対してゲオルギウスはすでに飛び出している目が零れ落ちるのではないかと思うほどに私をものすごい形相で凝視し……。


「おぉ……」


はらはらと涙を流し始めた。


全くもって意味が分からない。


「……わたっわだっ!? 私は……かっ神は……死んでいなかったのですね!? 今ここに、今今!? 神が……おぉ! 神よ! ルーディヴァイス……あなっあなたは神を……殺したわけではなかった! おぉおおおおぉおぉお何たる日かああああ!!」


泣き出したかと思ったら叫び始めるゲオルギウス……これには私も信者たちも状況。が理解できずにぽかんとする。


「あぁ、その通りだゲオルギウス……。 今お前の目の前で起こったことがその証明だ。 こいつは予言を受けた……この街を守れとな」


「なればそれは神の試練神の祝福!!」


「そうだ……まだ力は未熟だから、俺たちで支えていかなきゃならない」


「神の鍛錬! 神の成長!」


「協力してくれるか?」


「是非に及ばず!! 神の御心のままに!」


話が全くつながっていないように聞こえるが、あの二人にはあれでつながっているらしく……ルードは口元を緩めてうんうんとうなずいている。 

なんとなくだが、ルードの反応からあの人は昔からああだったんだろうなということがなんとなくわかった。


時々いるよね、話が全然通じないやつ。


「それでだ、お前の教団に所属している人間が、予言の子……つまりこいつ、リリィ・エストリーゼを誘拐しようとした」


「神への冒涜! 神への裏切り!」


「少し落ち着け」


「少し落ち着く!」


興奮が収まらないのか、ゲオルギウスは一度大きく息を吸い込み、魚のような目をぎょろぎょろと動かした後に……大きく息を吐く。


「落ち着いたの?」


「ええ、神よ」


「よし、そんで、そいつがこの街に悪魔をばらまいている奴とつながっている可能性が高い……小太りで、ぴちぴちな黒服に、似合いもしねぇハットをかぶっている奴だ」


「その男なら覚えています……聖戦後に浮浪者だった彼を私が拾った。 名前は確か、ピグマ」


まるで豚みたいだぁ。


「ピグマか、今どこにいる」


「最近は顔を見せなくなりましたが、少し前に仕事を見つけたと言っていました。 詳しい内容までは聞いていませんが……」


「ちっ……また振りだしか」


私は少し落胆をする。


せっかく手がかりを見つけたと思ったのに……ただ火あぶりにされかけただけ。


だが。


「……あぁ、でもそういえば……まだピグマがうちに足しげく通っていたころに、一度だけズーランという男が教会を訪ねてきまして、ピグマと会う約束をしているとのことでした」


「ズーラン?」


「ええ、貴族でしょうか……身なりのいい格好をしていて、ピグマとどういう繋がりがあるのかは少し気になりましたが……ピグマにその後ズーランについて聞いたのですが……落書きとか……門がどうとか……」


「何それ、貴族のお屋敷の門に落書きでもしたの?」


「申し訳ございません神よ……私にもさっぱり」


あてにならない情報に私はやれやれとため息を漏らすが。


「確かにピグマの奴がそう言ったんだな……」


ルードは何か考える様な素振りを見せて押し黙る。


「ええ、何か心当たりが?」


「……いや」


「そうですか、お力に成れず申し訳ございません」


「かまわないさ……」


ルードはそういうと、信者が持ってきた大剣を奪うように取返し、背負いなおす。


「道中お気をつけて……我がイザヤ教団も全霊をもって神のお力になりましょう……何なりとお申し付けを」


そう言うと、その場にいた信者は祈りを捧げて首を垂れる。


「そ、だったら少し教会を綺麗にしてくれない? 神様だって綺麗な場所で祈られたい……そうは思わない?」


「総員掃除開始いいいいい!」


【おおおおおおおおおおおおおおお!】


私の一言により、信者たちは皆が皆一斉に教会へと雄たけびを上げながら戻っていく。


「やるねぇ、女神様」


隣でにやけながらそう語るルードに私はひとつ鼻を鳴らし、ドタバタと騒がしいイザヤ教団を抜けて、ピグマを探すことにするのであった。


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