二十二話 初めての火あぶり
「で、人生初の火あぶりの刑に処されることになりましたが」
「まぁ、何事も経験がものをいう時代だからな……滅多にないぞ、その年で火あぶりを経験するなんて」
「そう、本当に最高の体験だね……もうこんなすごいこと、二度と体験でき無さそう」
十字架に見立てた丸太に私とルードは背中合わせに縛られ、足元に積み上げられる小枝や薪を見ながら自分の迎える末路を想像して私はため息を漏らす。
縛られ連れてこられたのは教会の地下室であり、石造りの広い空間は恐らくどれだけ叫んでも誰も来てくれないだろうという事実を私たちに刻み込む。
もっと泣きわめいたり命乞い等々をできたらまだよかったのかもしれないが。
悪魔や人狼から逃げ延びた大冒険の末に待っている最後が、こんな間抜けた終わり方だなんて……考えれば考えるほど私は恐怖よりも呆れることしかできない。
いや、十分怖いのであるが。
「……後悔と苦しみの末に死になさい! 我々から神を奪った罪は! 何よりも重く、何よりも度し難い大罪なのです! 七つの大罪もろとも、正義の炎に燃えつくされ! そして消えるのです!」
教団の人間はそれぞれ手にたいまつを持ち、木々に油をしみこませていく。
どうやら本当に逃げ場はありそうになく、私はあきれと絶望を抱えながらふと思う。
「っていうか、ねぇ、なんで私まで縛られてるのゲオルギウス!」
思えば、神を殺したのはルードであり、私はとくには関係がない。
なんだか流れで受け入れてしまっていたが、私が火あぶりの刑に処されるのはあまりにも不合理だ。
確かに卵泥棒はしたが、火あぶりにかけられるほどの罪ではないだろう。
「いいえ! 神殺しと行動を共にし、あなたは更なる不徳を行おうとした! なれば神の代行者と私はその罪を聖なる炎によって浄化するのも役目なのです!」
要するに邪魔者はこぞって排除ということですねわかります。
「はっ! よく言うよ、この街で悪魔を作りだしているくせに! 卑怯者!」
「悪魔を?」
その言葉に、司祭は首をかしげて疑問符を浮かべる。
「おいリリィ」
「ルードは黙ってて! しらばっくれても駄目だからね! 街で私を攫おうとした奴らも、アンタと同じ刺青をしてた、私が予言の子だから……アンタらの計画の邪魔になるからこうやって殺そうとするんでしょ! 私はねアンタに絶対復讐する! 悪魔を使って村の人たちを皆殺しにしたアンタを、絶対に許さない! どんな手を使っても、アンタを追い詰める!」
「くっくっく……何を言い出すかと思えば」
心底おかしいというようにゲオルギウスはくすくすと笑い、周りの信者たちも全員が肩を震わせて笑いをこらえる……何がおかしいというのか。
「ちょっと! 何がおかしいのさ!」
「おかしいにもほどがありますよ……私が悪魔を生み出している? そんなわけないでしょう」
「しらじらしい! アンタが……」
私がさらに言葉を付け加えようとすると……司祭はひとつ目をつぶり。
同時に私は言葉を失うほど驚愕をする。
なぜなら。
目を見開いたゲオルギウスの背中からは、薄汚れてはいたが間違いなく天使の羽が生えたからだ。
「あー、リリィ……もっと早く言うべきだったんだろうが……奴は天使なんだ」
片翼のみの、すっかりと灰色に染まってしまった羽……。
しかしその姿は紛れもなく、おとぎ話で見た天使の姿と合致しており……。
その羽をはためかせながら、天使ゲオルギウスは私へと向き直る。
「あ、あ、あ……貴方が、天使? 嘘だよ、どう見たって顔とか魚介類だよ!?」
もっと天使は美しいものだと思っていた……いや、多分他の誰が彼を見てもそう思うだろう。
「ぎょっぎょかっ!?火を放ちなさい!!!」
「子供相手に大人げないな……ゲオルギウス」
「うるさいうるさいうるさい!! もはや火刑は確定なのです! 遅いも早いもないでしょうに!?」
私の最後の訴えも見事なフルスイングで空振りをしたところで。
教団の信者たちは持っていたたいまつを薪にそっと翳す。
いよいよもって絶体絶命。
燃え上る炎は私を包みこみ、舞い上がる煙が目に染みる。
「ゲオルギウス! 天使であるお前がなぜ信者をだますような真似をする!」
「騙す? 何のことですか」
「俺を殺せば神が復活するって話だ! そんなことはありえないことぐらい、お前だって知っているだろう?」
「どこの誰に吹き込まれたかは知りませんが! それが真実ならば私この手で何度でもあなたを殺していることでしょう! ですが現実は非情なのです! 戻ってこないからこそ! どんな事をしたとしても神は戻ってこないからこそ! 私はあなたを恨み、憎しみ! このような狂気を振りまいているのです!! 今はなき神に誓ってもいい! 私は人をだますことなど一切しないと! 神が、復活するなどという妄言を……私は! 一切口にはしないのです!」
「え? でも……街の人たちは……」
私はそんな疑問を感じつつも、横目でルードを見やると、何かを悟ったような表情を零し。
「利用されたか……」
そう漏らす。
「ちょっと、どういう事よルード!」
「さぁな……どうせ俺たちはもう火にあぶられて死ぬだけだ……考えたってしょうがないだろう」
「ちょっと! 何一人で諦めてるのルード! 何とかしなさいよねぇ!」
私はバタバタともがきながら、深々とため息を漏らすルードに怒鳴るが。
けだるげにルードはこちらを見やると。
「……ちなみに、火あぶりの嫌な所は、皮膚が焼けて痛いのに加えて、痛みで歯を食いしばるから歯茎に歯が突き刺さる痛みも加算される。 ついでに言うと熱気を吸い込んで肺もやけどで使えなくなるから、窒息で苦しみも加算される……要はものすごく痛くてものすごく苦しい」




