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二十一話 司祭 狂顔のゲオルギウス

「うっわ……ルードの家みたい」


「俺のは隠れ家だからなリリィ……隠れ家」


イザヤ教団の本拠地に到着した私は、真っ先にそんな感想を漏らし。


ルードはその言葉に冷ややかな目を向けながらそう私の言葉に突っ込みを入れるが。


私は気にせずあたりの様子を見回す。


イザヤ教団本部があるのは、この街の東側に位置する下層民街であり、そこに昔存在したイザヤ教会という場所を不法占拠して、イザヤ教団は活動をしているらしい。


お布施も、信者もある程度の数はそろっているはずのこの教団であるが、やはり見た目や状況はお世辞にも良いとは言えず……教会敷地を囲う鉄柵はさび付きあちこちが折れており、扉は片方しか存在していない。


「信者がこれなんだもん、きっと神様って片付けが苦手だったのね」


「無駄口を叩いていないでさっさと祈れ……磔にされて丸焼きにされたいっていうならば止めはしないが……」


私のジョークにルードは苦笑をもらしながら教団の門まで両手で祈りを捧げながら歩いていく。


門の近くには同じくボロボロの衣服をまとった人々が数人ちらほらと教会に入っていくのが見え、門番の人間も特に来るものを詮索するような行動は見受けられず。


似たような格好の私たちも特に問題なく教会の門をくぐりぬけることができた。


「随分とあっさり」


「そりゃ教会だからな……来るものは拒まないだろう……敵対さえしなければな」


「それもそっか」


私はルードの言葉に一つ納得をして、とりあえずは人の流れに沿って大聖堂の前へとやってくる。


翼の折れた天使の像が立つ大聖堂。


壊れていないものを探す方が大変なボロボロのベンチ……。


天井は所々に穴があき、足元には埃と砂と虫の死骸が転がっている。


「さて、ここからどうやって中に侵入するかだけど」


「お前に姿隠しの魔法をかける」


「姿隠し?」


「簡易魔法の一つだ……周りの認識を阻害して、一時的にお前の姿を誰にも視認できなくなる」


「魔法なんて……いやまぁ、トマスも使ってたけど。ハンターも使えるんだ」


「まぁな。 死霊や精霊みたいに実態のないやつらを相手取るときは必須だからな……ただ、専門でない分本物の魔法使いのそれよりは数段劣るが……」


「ふぅん……まぁいいや。 始めちゃって」


私とルードは、変わらず祈りをささげるポーズをとったままそうルードに計画の開始を促すと。


ルードは小さく頷いてぼそぼそと何かを唱えだす……。


聞いたことのない言語に、私はすぐにそれが魔法の詠唱であるのだと気づき、ただじっとルードの合図があるのを待っている。


と。


「皆様、お集まりいただき誠にありがとうございます!」


「!?」


教会内に響き渡る、一度聞いたことのあるおぞけが走るような声。


その言葉にルードも私も詠唱をやめて顔を上げる……。


「イザヤ様の加護は未だに健在であり、イザヤ様は祈りによって祝福を我らにまた給うでしょう! こんな時代だからこそ、信仰を失わずに! 希望を失わずに我々は歩むことが必要なのです!」


そこには朝に出会った司祭がおり……天使の像の前に立ち手を振っている。


「……一体何をしに」


私は小さくつぶやき、急に現れた狂気に対して舌打ちを漏らす。


朝と全く変わらない憎悪と狂気にまみれた表情をふりまきながら……まるで自らの騎士団が如くズラリと刺す股や剣を持った男たちに囲まれながら司祭は笑っていない目で教会を訪れている人々に手を振る。


「皆さまようこそお集まりいただきましてありがとうございます……イザヤ教団代表……ゲオルギウスでございます!」


一瞬私は私たちがここにくるのがばれてしまったのかと肝を冷やしたが。


司祭は私たちに対して何かを行動を起こす素振りはなく、淡々と神の愛や神殺しへの憎悪の言葉を信者たちに振りまいていく。


信者たちは特に反応をすることなく祈りを続けていることから、神父が今日ここに来るのは元々予定されていたものであったことを察する。


突然の司祭の登場には驚きであるが、むしろここにいてくれた方が、中を探索するのが楽になる


それに、万が一私たちのことがばれて多くの人間の兵士に囲まれたところで悪魔をあんなにあっさりと倒せるルードが付いている状態で捕まることもないはずだ……。


私はそう考え、ルードの方をみるが……。


「………馬鹿な」


私の考えとは裏腹に、ルードは詠唱などすっかりと忘れて驚愕の表情を浮かべて司祭の方を凝視していた。


「……ねぇルード……あの司祭……なにか知ってるの?」


私の質問に、ルードは魔法を中断して何か考える様な素振りを見せた後、脱出経路を考えるかのように出口の方を振り返って確認する。


その姿からは、もはや潜入という考えは捨てているようだった。


「……少しまずいことになったな」


「まずいこと?」


「あぁ、奴は顔見知りだ」


「え?」


ルードの絞り出すようなその声が聞こえたのかは定かではないが。


ルードがつぶやいた瞬間……。


「おや……おやおやおやおやおや? そこにいるのはもしやぁ……」


司祭はルードの姿を見やり……口元をいびつなまでに大きく歪めた。


それは笑みでありながら、読み取れる感情は憎悪であり……。


その笑顔に私は動くこともできずに、ただただその姿を見つめている。


それは、言葉などなくとも標的を認識した悪鬼の類が見せる笑いであることは、私にも容易に確認することができた。


「……久しぶりだな、ゲオルギウス」


頬に汗を伝わせながらも、ルードはフードを下ろし……其の銀髪をたなびかせながら立ち上がり、司祭に言葉を送る。


「……ルーディヴァイス……探しましたよぉ……神殺し」


瞬間、会場がざわめき、信者たちはいっせいにルードから離れ、同時に司祭の周りに控えていた兵士たちが壇上からかけだし、私たちに槍を向け、私たちは両手を上げる。


ぼろぼろの衣服を身にまとってはいたが、その動きには無駄がない。


「あぁ……槍を向けられるのはこれで二度目……ルード、ちょっと潜入する前から見つかってるんだけど」


「あぁ、これは完全なる俺の誤算だな……まさか司祭が顔見知りだとは」


「顔が広いのも考え物だね、こうなったら実力行使しかないと思うんだけど……」


「あー確かにそうなんだが」


ルードはなぜか申し訳なさそうに声を詰まらせる。


「どうしたのルード? またバーッと炎を巻き上げて……」


逃げないと……そう私は言葉をつづけようとするが、ルードは困ったようにため息を一つ付いた後


「それなんだが、本当に申し訳ないことにだな……俺の炎は、悪魔にしか使えない……もともと人を守るための力だからな……見ての通り人間相手にはただのハンターでしかないんだよ」


一瞬、私はその言葉が理解できずに目を瞬かせたあと。


「え、じゃあこれどうするの?」


そんな間抜けな質問をルードに投げかけるが。


「まぁ、今こうしている通り、お手上げだ」


「言ってる場合か!?」



「随分と余裕ですねぇ、ルーディヴァイス……よくもまぁのこのこと私の……いえ人の前に姿を現せたものです……あぁ、まさか今更懺悔をしようとでも?」


「懺悔で済むならいくらでもするさ……それに、俺の命ひとつでイザヤが戻るなら……俺は魂ごと切り裂かれても文句はない。 だが、それはありえない」


「……なるほど、そこまで言うならば」


ルードの言葉一つ一つが侮蔑に聞こえるのか、ゲオルギウスは震えながらゆっくりと手を上げ。


「火あぶりだ」


同時に槍を構えていない兵士たちがルードと私にとびかかり拘束する。


「あぁ、やっぱこうなるか……」


「ちょっ!? 火あぶりってうそでしょ!? 嘘だよね! ねぇ!」


 無理やりに拘束されるというショックよりも、火あぶりという言葉に私は動転し、司祭にそう問いかけてみるが。


「……」


返ってくるのはどう考えても否定の意にしか見えない……微笑みだけであった。



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