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二十話 イザヤ教団を探れ! 卵泥棒本領発揮!

「そんな……まさか悪魔がこの街で生まれ続けているなんて……」


 目を覚ましたトマスに私たちは先ほどまで話していた事実を告げると、トマスは一度信じられないといった表情で私とルードを見つめる。


当然だろう。


見習いとは言え、この街で聖騎士団として戦ってきたトマスにとって、悪魔がこの街で生まれていて、さらに自分たちはその事実にさえ気づいていなかったという事実が彼の心にどれだけのダメージを与えたかは計り知れない。


信じられない……いや、信じたくないと言っても何も不思議ではなく、私は少し不安な心のまま、トマスの青く染まった顔を見つめていると。


「……しかし……あの黒いものは剣が刺さらなかった、いえ、確かに刺したのに……傷跡一つ残らなかった……にわかには信じられませんが、信じるしかないのでしょうね」


「真面目な優等生ちゃんみたいだが、どうやら頭は柔らかいらしいな」


ルードはトマスの言葉に唇を緩ませ、同時にボロボロの椅子に座りなおす。


「口伝であれば信じられなかったでしょうが、実際にその身に触れて体験してしまえば信じるしかないでしょう」


「まぁそうか……そんなら、お前ら二人を抱えて逃げた俺の苦労も少しは報われるというものだ」


「ええ、その点に関しては感謝してもしきれません……ルードさん」


「……」


ルードの提案により、トマスには彼が七つの大罪であることを告げないでおくことにする。


トマスは現在は私の護衛としての役割を担ってくれているが、彼がガラクに課せられた任務はあくまで神殺しの捕縛である。


悪魔の居場所もつかめていない状況で、聖騎士にも追われるようになれば行動も制限されるため、不安要素はなるべく排除しようとのルードの提案である。


私はトマスに対して罪悪感を覚えながらも、ルードの言葉に従うことにし、トマスには。


現在の聖都の状況を憂いた貴族たちが、私財を投じて雇ったハンターと説明をしている。


全くもって先ほどのアルテベソットの言い分と同じものであるが、私の言葉にトマスは疑るような反応は見せなかった。


「……これからは、ルードと一緒に悪魔の調査を行うことになるんだけど」


「ええ、我々だけでは限界があります。 こちらからもお願いしたいです」


「こちらも聖騎士団様の後ろ盾があれば活動範囲も広がる。お互いにメリットのある話だ」


ルードはそう笑うと、煮詰めていた銀色の液体を型のようなものに入れたのち、ふたの様なものを上からかぶせて重しをし、こちらに向き直る。


「それで、ルード……さっき話をしようとしてたみたいだけど、何を調査するつもりだったの?」


「あぁ、それなんだが……」


ルードはそういうと、作業がひと段落着いたのかこちらに向き直って一つ咳ばらいをする。


「リリィから話は聞いたが、リリィは現在、この街に悪魔を作りだしている人間に狙われていると考えた方がいい」


薄々と気づいていた事実。


この街に来た時から、私は色々なものに狙われすぎている。


一つや二つならばまだ私の不幸で片づけられるが、悪魔の襲撃が私に確信を持たせており。


同時にルードは私と最初にあったときにそれを予期していた。


「リリィさんが?」


「あぁ……エンシェントワーウルフも、恐らくは俺じゃなくて、リリィを狙っての事だろう」


「……そんな……一体なぜ?」


当然、私も理由はわからない。


だが、ルードはそのといかけに一つうなると。


「……リリィが予言を受けた人間だから」


そう小さくつぶやいた。


「予言? 確かに村長の予言はよく当たったけど、どうしてそれだけで悪魔にも狙われるの?」


「あいつの予言は、予言であり未来の改変でもある。 現に聖戦はあいつの予言があったからこそ勝利をした……悪魔たちにとっては、あの予言こそが最大の敵になる。 だからこそ、最初にカールスタード村を……予言者を殺そうとした」


「そんな、でも私は……」


村長に託された予言は、聖都に行くことと、ルードに会えということだけ……。


予言でもなければ、明確な未来を示されたわけでもない。


「あぁ、あいつは予言を残さなかった……だが、悪魔にとってはそんなこと知るはずもない。 奴らは、お前の力が、自らの計画を打ち砕くものと危惧している」


「だから、何度も襲撃を仕掛けていると?」


「そういう事だ……先ほどお前が言っていた通り、悪魔にすっかり見初められているということだ」


「そんな、なんてはた迷惑なのよ」


わたしは冗談を零してみるが、その声が震えていることに自分でも気づく。


だが仕方ないじゃないか……悪魔に見初められたものの末路は地獄行き、それはこんな小さな子供でも知っているくらい……当然の事なんだから。



「ルードさん……それじゃあ、リリィさんがあまりにも」


「あぁ、だが、奴らが血眼になってリリィを殺そうとしているのであれば、そこが奴らの弱みだ」


「弱み?」


「リリィを殺せなければ、その行動一つ一つが手掛かりになるということだ」


「手がかり? 化け物たちは今頃お空の彼方だと思うけど? 空でも飛ぶの?」


「そうじゃない……まだ生きてるし会話もできるやつがいるだろう? お前が最初に襲われた……」


ルードのその言葉に、私は少し思案をしたのち。


「あぁ!」


すぐにそのことを思いだす。


それは、私を酒場と聖騎士団詰め所前で私を攫おうとした人さらいの集団である。


「彼らが、悪魔とのつながりがあるようには思えませんが」


「あぁ、恐らく直接あいつらに悪魔が接触している可能性は低い……だが、奴らの元締めだったら話は別だ……悪魔が接触を図る可能性は高い」


「……まさか、それなりに大きな組織が悪魔に協力をしてるということですか?」


「昨日、人狼の群れを討伐する為にガラクが聖騎士団を引き連れたみたいじゃないか」


「え、ええまぁ」


「その間、聖騎士団による聖都の警備は薄くなっていた……あんな奴らでも、簡単に人攫いをできそうなくらいにはな」


「……それも、リリィさんを排除する為に仕組まれたものであったと?」


「そう考えた方が正しいだろう……人狼の群れも、悪魔と人間が協力しているならば説明も突く……それに直近で人狼の元となる人間も……あぁいや、それはどうでもいいことだったな」


ルードは一度言葉をそこで切り、話を元に戻す。


「リリィをかくまった時、奴らの首に奇妙な刺青があるのが見えた」


「あ、翼の折れた天使の奴?」


小太りの男性の首筋に彫られていた目立つ刺青……他の人たちも、思えばうでや足首に同じものがあったし……それに。


「あの刺青について調べてみたらすぐに答えが出た。最近何かと話題になってる教団……イザヤ教団のルードボルだ」


そこで私は思い出す。


確かに……あの小太りの男の首には太りすぎで堕天した天使がおり……あの司祭の腕にも……翼をもがれ涙する天使の刺青があった。


「……まさか、そんな繋がりが……ですがイザヤ教団は神の復活を心より願うものたちで結成をされています……それが悪魔とつながっているとは……」


「だが、信者たちにやらせようとしていることは、まったくの逆だ」


神殺しを殺せ。


それはつまり、七大悪魔 七つの大罪の一柱を復活させると同義である。


それが、無知ゆえでなく全てを理解したうえでの行動だとしたら?


「……民衆を利用しつつ、悪魔に加担をしていると?」


背筋が凍る……だとしたらなんて甘美で……恐ろしい罠。


だが、確かにあの司祭ならやりかねない……あの瞳は人々のことなど全く見ておらず。


その心は憎悪にのみ満たされていたのだから。


「その可能性はあるが、だがまだこれだけでは聖騎士団は動けないだろう?」


「……はい……すべてが推測にすぎません」


「だとしたらいったん別行動だ、俺たちは証拠を集める。 その間にトマス、お前は騎士団にこの事実を伝えてくるんだ」


ルードはそう不敵に笑みを零すと、トマスに別行動を命令する。


「別行動……ですか?」


「あぁ、聖騎士団はまだ聖王都で悪魔が生まれ続けていることも知らないはずだ……手段がなくて伝えられなかったが……仮にも聖騎士団であるお前の口から悪魔のことを話せばみんなも信じるというものだ……」


「なるほど……しかし私はリリィさんの護衛なのでリリィさんと共に騎士団詰め所に行きたいのですが」


「それはだめだ」


「なぜ?」


「お前は悪魔から身を隠す方法は知らないだろう? 俺は知っている……それに、悪魔が直接お前らに接触をしてきたということは、お前の素性は悪魔に知られている……その時、お前はリリィを守れるのか?」


「…………」


答えは言うまでもなくノーであり、トマスは眉間にしわを寄せて少考える様な素振りを見せた後。


「分かりました……後ほどまたここに戻ってきますので……リリィさんをお願いします」


「トマス!」


難しい表情を崩さないまま、剣をもって下水道をあとにしようとするトマスに駆け寄り、そのマントを引く。


「リリィさん?」


「これ!」


私は、ルードに教わって作った薬をトマスに手渡す。


「これは?」


「さっき飲ませた解毒の薬……その、どうか気を付けて」


「リリィさん……ありがとうございます……では」



にこりとトマスは笑い、私は下水道を後にするトマスを見送った後、むくれてルードを見やる。


「……ルード、いくらなんでもあの言い方は……」


私はトマスの背中を見送った後、隣に座りながら何かの準備を始めるルードに対して眉をひそめて先ほどの発言をいさめるが。


「ああでもしなきゃ納得はしないだろう……それに、これからやることは、あの坊主には少しばかり刺激的すぎる」


ルードは悪びれもない様子でそう語り、同時にさび付いた剣を背負いなおす。


「……刺激?」


「あぁ、言っただろう? 証拠をそろえるって……これから俺とお前で、イザヤ教会に潜り込んで証拠を探すのさ」


「そんな……それって」


私は嫌な予感がしてルードに確認をしようと言葉を開きかけるが。


「あぁ、犯罪だ……聖騎士団の坊主に、犯罪の片棒を担がせるわけにはいかないだろう?」


口元を緩めてルードは私の言葉よりも早くあまり聞きたくなかった事実を語る。


「だとしても、なんで私が!」


「ふっふふふ……卵泥棒の本領発揮だsろう?」


「じ、自分の家の卵と人の家じゃ全然違うでしょ! だいたい……アンタのことを殺そうとしてるやつらの所に行くんだよ!? 正気じゃないよ」


「あぁ、危険は承知だ……悪魔に襲われるかもしれんし……人間に殺されるなんて最悪のパターンになるかもしれん。 だがやるしか手立てはない……そうだろう? リリィ」


「~~~~~!?」


私は色々と思うことはあったが、他に手がないと言われてしまっては何も反論することができず。


心の中の葛藤を抑え込みながら仕方なく首を縦に振るのであった。


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