十三話 ハンターズギルドと非常事態宣言
街に出ると騎士団本部が騒然とするような大事件が起こったような気配はなく、昨日見たとおりの聖王都の風景が広がっていた。
「そういえば、言い忘れてたんですけど」
昨日と同じように、大広場や居酒屋にいるハンター数人に声をかけ、見事に空振りをして次はどこのハンターに声をかけようか悩んでいた所で、トマスはそんな言葉を口にした。
「はい?」
「そのローブ、随分と高価なものですけれども、どうしたんですか?」
「えと……その、ごめんなさい。ちょっと話すタイミングがなかったって言うのと、昨日のことをどう説明すればいいのか整理がつかなくて、まだ話せてなかったんだけど」
「ええと、昨日何かあったんですか? 夜に」
「昨日、インプに襲われたの」
「インプに!?」
「気付いたら街の中に立ってて、その後街中をインプに追い回されて、やっと逃げ切れたと思ったら今度は人狼に襲われて、本当に最悪だったんだけど」
「怪我とかはしてないですか?」
「それは大丈夫……あるハンターが助けてくれたから。 ルードっていうの。私を朝までかくまってくれて、インプの呪いにまた掛からないようにって、このローブをくれたんだ……本当に良い人だった」
「へぇ、それは騎士団としてもお客人を助けていただいたので、お礼をしなければいけませんね。 どこのギルドの所属かは聞いてないのですか?」
「ギルド?」
「えぇ。聖王都でハンターをするためには、まずギルドに登録をしなければなりません」
「なんで?」
「ギルドに入れば、自然と集団行動をする機会が増え、ハンターの死亡率が下がるという点と、ハンター特権を盾に略奪をするならず者が現れるかもしれないという危惧からです。
ハンターは狩った獣の死体をギルドにもって行きます。その死体が人間ではなく狼憑きか人狼だということが判別できれば、ギルドを通して狩人に報奨金を渡す、そういう仕組みになっているんです」
「へぇ、意外と面倒くさいんだね?」
「えぇ、ですが、この制度がなければ、ならず者達は必ず一般人に牙を向いたでしょう。
今でも治安が保たれているのは、この法律が上手くバランスを保っているからなのです」
「だから悪いことがしたい、昨日の人攫いみたいな人間は夜に行動できないんだね」
「そうですね。 昼間に盗みや犯罪をして騎士団に追われるか、夜に化け物と戦うか、どちらがいいかですね……まぁでも、法律が整備される前は、無法者がハンターになって人を襲っていたという話もあります……そのせいで、まだ町の人々には、ハンターは悪いイメージが色濃く残っていることでしょう」
「ギルドはどこも同じようなものなの?」
「いいえ、一応ですが役割分担のようなものが決められています。 例えば一番有名なギルド、噛み砕くベイロスですが」
「それなら知ってる! 聖戦前からあって、人狼だけじゃなくて、ベイロスみたいな災害急のモンスターを専門にする対化け物の戦士たちだよね! あれも、ハンターなの?」
「そうです、この地域ではハンターはあまり好まれる存在ではないので、戦士と表現されることが多いのですが、古株のハンターの一つです。 これは分かりやすいですね、直接化け物を狩り、報酬を得る。これが狩人の基本ともいえるものですが、そのほかにも、死霊の浄化を専門に行う、ギルド 未練無き魂。 狼憑きや悪魔憑き……そういった人間を処理することを得意とするギルド、沼の泥さらい(マッドタイタン)など、ギルドによって活動は異なってきますね。
ルードさんという方はどんな仕事をしていたのですか? それである程度はギルドを割り出せると思うんですけど」
「ええと、インプとかに誘われたり、何も知らないで夜の街に出てきて襲われた一般人を保護する仕事だって言ってたよ」
そうルードから聞いた説明をそのままトマスに伝えると、トマスは一度目を丸くした後に考え込むような仕草をする。
「なにか問題が?」
「いえ、リリィさん。 そんな仕事をするギルド……聖王都にはないですよ」
その言葉に一瞬トマスが何を言っているのか分からなかった。
「どういうこと?」
「私達騎士団は聖王都に存在するギルドの大半の情報を有していますが、そんな仕事を受け持っているギルドは存在しません。そもそも、この聖王都で夜に出歩くなんて命知らずはそうそういませんし……そもそもギルドとしてその仕事内容だと成り立ちません」
「というと」
「リリィさんを助けていただいたというのは感謝の言葉しかないですが、どうにもそのルードという男は怪しいですね」
ふむ、とトマスは一度考えるような素振りを見せて、唇に人差し指を当て。
「リリィさん、これは提案なんですが」
そう彼の考えを口にした。
■
「で、これを俺に見せてどうしろってんだ?」
半ば呆れた表情でガラクはため息を漏らす。
目の前には死体。 牙は剥がされ、爪は全てとられているが、その所々変異をしてしまっている体と、大きく裂けた口がその人間が人狼であったことが伺える。
「彼ら……噛み砕くベイロスの最終確認地点です」
騎士団員の一人がガラクに続くようにため息を漏らしながらそう報告すると、ガラクは分かっているよと呆れながら呟く。
「ったく、誰だ、行方不明になんてなったアホは」
「Aランク狩人が3人とBランクが2人です。 チーム名はグリフォンの翼。
Aランク狩人のアルテ ベソッドがリーダーをしている実力派狩人であり、実際にアルテベソッドは聖戦で魔王軍率いるグリフォンの大群をこのチームを率いて討ち取っています」
「古株の実力派か……こんなC+ランクのウルフロード程度じゃ話しにならないってか……じゃあ何で行方不明なんだよ、余計に謎だぞ」
「知りませんよ。 今朝いきなりこのチームが依頼を受けに行ったまま帰ってこないとギルマスターから救援要請があって、このチームが受けていた人狼狩りの痕跡を辿ってきたらここにたどり着いただけです」
「どっかの店で夜通し蜂蜜酒漬けになってるんじゃないのか?」
「そんな夜までやってる店があるなら紹介してください。 そこの常連になりますから」
軽口を叩き、兵士は男の死体をもう一度確認する。
「死体の損傷が少なく、爪を剥がされたはずなのに自然に抜け落ちたかのように出血が少ない。 これは明らかに人狼状態で剥ぎ取りをされた結果です。 手際のよさと死体の損傷の少なさから、Aランクの人間が狩ったと考えるのが妥当でしょう」
「はぁ、で、ここで何物かに襲撃されたと」
ガラクは久しぶりに胃痛に悩まされる。 当然だ、夜中に徘徊する人狼が束になったところで、グリフォンになど遠く及ばない。 その大群を相手できるチームが、目だった争いの痕跡もなく、獲物を目の前に姿を消している。 つまり、そんな屈強な戦士達が戦いにもならず敗北をしたということだ。
彼等の興味をさらに引くものが現れた可能性は捨てきれないが、ギルドに顔を出さないというのはありえない。
殺されたのか操られたのかは知らないが、全員がもはや人間ではなくなっていることは確かなことだった。
「予言といいカールスタード村の悪魔といい……これは不味いぞ」
「町中に落書きをして回っている迷惑男とはわけが違いますからね」
「いよいよ落書きなんかに構ってられなくなっちまったな……平和は一時終了だ」
「分かってますよ……これは本当に異常です」
天使の加護の中に現れた悪魔の話、この事件と彼らを殺害したものが悪魔であるとすると、それは信憑性が高い。
そのような強力な力を持つ存在は悪魔でしかありえず、リリィから聞いた天使の加護の中で目撃された悪魔の情報……。
「非常事態宣言だ……騎士団総力を挙げて、下手人を割り出せ。 この事態を、ガラク・グランドの名において聖王都存続の危機であると判断する……と、ふんぞり返った王様に伝えてこい」
「はっ!」
聖王都存続危機……ガラクはその言葉を用いてこの事態を周りの騎士たちに伝える。
魔王襲来以来の非常事態に、誰もがその死体を見つめた。
不適に笑うように死んでいるその死体は、ただのきっかけでしかなかったが。
そのきっかけが、取り返しのつかない事態を生み出す予感をひしひしと肌に感じながら。




