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十一話 謎の狩人・ルードと悪魔の影

「そうら!」


 「ぎゃあああぁ!」


振るわれた大鉈が、毛深い首に食い込み赤い血を噴出させる。

金切り声を上げながら、人狼はその場に倒れ変化を解いていくが、まだ戦意はあるらしくその場で止めを刺すため、銃を取り出し、銀弾をその体へと撃ち込む。


「ぐ……ぐぎぎ」


 銀の弾は吸血鬼や人狼にとっては毒になる。


 弱った体には耐えられないといったように人狼は銀弾を受けた胸を押さえながらその場をぐるぐるとのた打ち回り始める。

 

 勝負あった。


 長年の経験から、狩人は自らの勝利を悟り、背後でバックアップをしていた仲間に合図を送る。

 

 人狼の牙や爪は道具の加工や装備に重宝されるため高値で取引される。


 しかし、人狼は死ぬと人間に戻ってしまうため、銀弾で弱らせた所を爪や牙を回収した後に止めをさすのがハンター達のセオリーとなっている。


 今晩の敵はひときわサイズも大きく、そして最近人狼になったのだろう、爪も牙も白く輝いており美しい。


 ハンター達は大物の狩猟に喜びながらもがく人狼を抑え、牙と爪を手際よく抜いていく。


 「よし、こんなもんだろう」


 人狼と戦っていたハンターがそういうと、仲間達はうなずいて銀の短剣を引き抜き、虫の息の人狼の心臓部に突き立てる。


 もはや断末魔を上げる余力もなかったのだろう。人狼は人間の姿に戻り、ただの歯と爪のない死体となった。


「よーし、こいつは大量だ。 今日はこの死体だけ役所に運んで、上がるぞ」


【うーす】


 一対一で人狼と戦っていたことと、手際のよさから分かるとおり、彼らは他の浮浪者同然のハンター達とは一線を画す存在である。


 もとより、ハンターという職業は聖騎士を雇えない人間達の為に、化け物狩りを請け負っていた集団であり、人々に忌み嫌われるような存在ではない。


 自警団特権の所為で街の荒くれ者や浮浪者がこぞってハンターになってしまったために、聖王都では負の象徴とされがちであるが、元々は彼らのような人間の為に作られた特権である。


 だからこそ、男はそのハンター達に目をつけた。


「お見事お見事……」


 拍手をしながら現れたのは、奇怪な鳥のくちばしのようなマスクをつけた医者のような男。


「誰だてめえ」


 狩人以外の人間が、夜の聖王都を歩き回ることはありえない。もしいるとしたら人狼か悪魔憑きのどちらかでしかなく、ましてや話しかけるほどの知性を持つ類は、大抵ろくでもない奴であることを、彼らは知っている。

 

 ゆえに、間合いに入られる前に手で静止をかけ、男にハンター達はそう問う。


「ふふ、私名前をズーランと申します。 今のお見事な狩り姿、拝見させていただきました」

 

 一歩、間合いに男が近づく。


 敵意はないが、その男のいでたちや雰囲気は、到底人間とは思えない。

 狩人たちはそれを肌で感じ、武器を抜く。後一歩踏み込めば、恐らく全員同時にこのズーランと名乗る男の首をはねるだろう。


「それでですね、その腕と力を見込んで、是非依頼したいことがあるのです」


 あたりは殺気で満たされ、並みの人間ならば腰が抜けて立てなくなるほどの威圧を放ち、刃の唾を鳴らして警告をする。


 しかし男はそれを知ってか知らずか嘲笑するように、間合いにさらに一歩踏み込んだ。


 瞬間、男達の体が跳ねる。


 この瞬間に、その男は彼らにとって獲物となった。 警告を無視し、いともたやすく間合いに踏み込んできた異常な男……。


幾度となく化け物と戦ってきた彼らにとっては、それだけでこの男が危険であるという判断を下すのには十分であった。


  が。


「仕事内容ですか? ええ、そうですね」


男は回避することはなく、


男はその刃を全てその身に受け入れる。

 

 あまりのあっけなさに、狩人たちはもしかして本当にただの人間だったのではないかという不安に一瞬だけ狩られるが。


「貴方達には、悪魔になっていただきます」


 体を貫かれた状態でマスクの上からでも分かるほど醜悪な笑みを浮かべたズーランの姿を見て、狩人は己の運命を悟った。


       その日、一つの狩人のパーティーが、消失した。



                  ■

 「ん」


眼を覚ますと、最初にやってきたのは鼻を突く嫌なにおい。そしてその次にやってきたのが目前で焚き火の始末をしているハンターの姿であった。


「眼が覚めたか」


「今何時!?」


 あたりが暗くて時間が分からないが、今日はトマスが私を迎えに来る。 もしいないとなったら大騒ぎになってしまう。


「ふむ……まだ日が昇ったばかり、四時だな」


 私は安堵のため息をついて、その場にもう一度腰をかけて昨日の記憶を引っ張り出す。


 ああそうだ、私は昨日インプに襲われて、彼に助けてもらったのだ。


そんな悪夢であればよかった昨日の出来事と、現実の光景にため息を一つ漏らし、最悪と口癖を漏らす。


「あぁ、確かに昨日は最悪だったな……だがもう大丈夫だ」


「どういうこと?」


「ほら、これを着ろ……お前の気にしていたみすぼらしさも、少しはましになるだろう」


 渡されたのは赤いローブであり、大人の女性のものなのか、少しだけ私のサイズよりも大きかった。


「これは」


「俺が持っていてもしょうがないからな、お前にやる。 魔よけの術式と、火竜の鱗……そんで持ってグリフォンの鬣を編んで作った特別製だ」


「ドラゴンとグリフォンって……そんな御伽噺信じると思ってるの?」


「子どもなのに夢がないな……まぁいい。とりあえずはそれぐらい頑丈で、火葬場の火力ぐらいなら防げるってことだ。 小悪魔に魅入られたなら今夜また同じことを繰り返すことになる……だがこれを着ていればその程度の魔法は跳ね返す」


「跳ね返すとどうなるの?」


「昼間にふらつく間抜けな小悪魔の出来上がりだ」


「あははっ、それはいいね!見つけたら顔面ぶん殴ってやる」


 当然、小悪魔は太陽の光に触れると吸血鬼と同じく消滅してしまうため、そんな間抜けな姿を見ることはかなわないのだが。


「その意気だ……恐れない心が、聖なる魔法を増幅させる。それが天使の名残であったとしてもな」


 ハンターは私に微笑み、頭を撫でてくれる。


今気付いたが、この人は他のハンターのような獣の血のような異臭がしない。


「……その……ちゃんとお礼言えてなかったね……えと、色々とありがとう……えと」


「ルードだ」


「そか、ルード。私はリリィ……リリィ・エストリーゼ」


「良い名前だ。 センスを感じる」


「本当? そういってもらえると嬉しいな」


 私は少し嬉しくなって、立ち上がる。


「もう行くのか?」


「うん、今日もルード様を探すので迎えが来るの……いないってなったら大騒ぎになっちゃう」


「そうか、間抜けなインプがいるかもしれん、宿まで送ろう」


「いいよ、悪いし……」


「起きたら散歩をするのが趣味なんだ、そのついでさ」


「……そう……だったらお願い、ルード」


「お安い御ようだ、リリィ」


                  ■

 私はそのまま、ルードにおくられて天使の羽休めへと戻ってくる。


意外と距離はなく、下らない言葉を二三交わす程度で到着をしてしまった。


 朝日が出て、街にはインプや人狼の姿はなくなったが、あちこちに血痕や壁が抉られた跡のようなものが見える。


 あと一時間もすれば、これらの片づけをする役人がやってくる……。

そうルードは教えてくれた。


 こうして聖王都の一日は回っていくということも。


「……じゃあ、俺はまた元の場所に戻るとするよ……朝は眠いんだ」


「うん、ありがとうルード……」


「礼はいらない……これも仕事だ」


肩をすくめて口元を緩ませるルード……私はその姿に少しだけ考え事をして。


「そう……ねえ、また会える?」


そんな質問を零す。


「なぜ? デートのお誘いならもう少し大人になったらな……じゃないと俺が捕まる」


「違うよ……デートとかじゃなくて……ただ、その……何度も助けてもらったし……お礼とかもしたいし」


なんとなく自分で言っていても気恥ずかしいセリフに、私は口ごもりながらもそういうと。


「ふむ……まぁそういう事なら断る理由もない……だが、夜はやめてくれよ?」


ルードは冗談を交えながらまた会えると約束をしてくれた。


「分かってるよ……」


「そうか、ではさようならではないな」


「うん……またね」


「あぁ……また」


手を振りながら、まだ人々が眠る朝霧のかかった街の中に、ルードはゆっくりと溶けていく。


その姿はさみしくて泣いているようにも見えて、私はその姿が完全に見えなくなるまで、ルードの背中を見送り。


「……さて、戻らないと……眠いし」


ルードの姿が見えなくなると同時に、振り返って自分の部屋に戻ることにしたのであった。


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