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乙女ゲーのヒロインが太ってしまったのは私のせいなんです

作者: 矢御あやせ

わたし、広陵院(こうりょういん)江梨子(えりこ)は、国内で名を知らない人はいないほどの超有名セレブ校・桃園(とうえん)学園高等部の昇降口で人知れずため息をついていた。


私は転生者だったりする。前世はモテない残念庶民。

街コンに向かう途中、人生最高潮に浮かれまくった最中で交通事故に遭い、ハマっていた乙女ゲームの世界に転生してしまった。


この世界のもとになっているゲームは、『花を風のカンツォーネ』、通称『花カン』。

平凡な家庭に生まれたけど、悪役の策略で貧乏になった上に、学園でもいじめられてしまう主人公が、その美しい歌声に惹かれた5人男の子達に救われて、彼女は恋をしながら歌手を目指す――っていうお話。


この世界に転生したって分かった当時はそりゃあ嬉しかったわ。

前世で結婚どころか彼氏もできないまま30本近いロウソクの刺さったケーキに息を吹きかけた翌日だもの。

ぶっちゃけ、最初は「渡りにトラック」だとも思ったわ。

だけど、嬉しかったのは自分が悪役・広陵院江梨子に転生したんだって分かる前までだったわ。


まあ別にいいのよ、それは置いといて。

今の私は悩める乙女なの。


「リコちゃーん、一緒に帰ろ~」


明るい声色で、手を振りながらトテトテとこちらに走ってくるのがクラスメイトの花巻つぐみ。

彼女こそが『花カン』のヒロインその人で、私の悩みの種だったりする。


江梨子の最後はお約束通りの転落人生。

普通だったら主人公や攻略キャラを無視したりするんだろうけど――私はそうもいかない。

「ある理由」があって、主人公や攻略キャラとを無視できずに関わりまくっているのよね。


「リコちゃーん」


こちらへと走ってくるつぐみ。

ああ、あああああああ!

ああ、もうがまんできないっ!!!


「あーーーーーん、つぐみ~~~~~! 待ったわよ~」


まずは先制。つぐみの前に立ちはだかって正面からハグ!

ぷにぷにの頬に頬ずりをしまくる。

もう、抱き心地最高~~~~~~!



あ、主人公に関わるうんぬんの話だったわね。


だって―――――私、つぐみが大好きなんですもの~~~~!



確かに、自分の未来のために関わりたくないって思っていた時期はあったけど、今ではもうそんなバカな考えは捨てたわ。この子は世界一の大親友よ。

私はこの子を幸せにするためなら何でもするって決めてるの!



だったんだけど――


つぐみの体は丸々と太ってしまい、今では乙女ゲーで見たすずらんのような少女の影は見る影もない。


そう、これが今の私の悩み。


しかも、こうなってしまったのは私のせいだったりする。

一緒にパーティやら高級フレンチフルコースやらを連れ回した上に、ジャンクなお菓子の食べあるきやスイーツバイキングに通いまくっていたら気づいたらこうよ!




「ねえねえリコちゃん、今日は駅前のケーキ屋さんで新商品が出るんだよー」

「うふふ、そうね。桜のケーキかしら」

「私はいちごがいいかなー」


二人で談笑しながら並んで帰る。

あぁん、つぐみのこの弾けるような笑顔がとてもかわいい。

たまらないわ!


だけどいつからだったかしら。

いつの間にかこの時間は食べ物の事ばかり話しているのよね……。


いや、私は幸せだからいいんだけど。


「ねえリコちゃん、今度一緒に食べに行こ!」


ま、つぐみも幸せそうだからいっか☆

うふふ、ケーキ屋さんに行くのはいつにしようかしら。


ってよくなーーーーい!!!


つぐみには学園の王子・お金持ちの桐蔭聖と結ばれる、それはもう輝かしい未来が待ってるんだから!!!!


この体型じゃ桐蔭くんに振り向いて貰えるどころか、異性として認識して貰えないかもしれないのよ~~~~~!!!



ちなみに、『花カン』における他4人の攻略キャラとのシナリオはオマケみたいなもの。

主軸は学園の王子・桐蔭(とういん)(ひじり)との甘酸っぱいストーリーで、私も二人のもどかしい恋愛模様が大好きだったのよ~。

前世はあの二人のやりとりに何度もキュンキュンさせられて悶絶しまくっていたわ。


それで、その儚げで小動物的でけなげで可愛いぐつみを不幸のどん底に陥れたサイテー最悪の悪役っていうのが私・広陵院江梨子……っていう訳。





「はあ……」


つぐみとお別れして、公園のベンチに座る。ため息が自然と漏れた。



双子の弟の江介(コースケ)(実はコイツも『花カン』の攻略キャラだったりする)と毎晩つぐみの体型について話し合ってるんだけど。

もうこれはアウトよね。


そりゃあ、当然つぐみは世界一可愛いからモテまくってるけど、年々ラブレターの数は減ってるのよ。

その代わり、バレンタインデーのチョコの数は年々増えてるんだけど……。(これはこれで由々しき事態よね)


弟のコースケと桐蔭くん以外の攻略キャラを筆頭とした野蛮な男子は、つぐみに動物園のうさぎさんに餌付けするみたいにお菓子をあげようとするし。

しかも狙いすましたようにハイカロリーなヤツばっかり。つぐみがそっち系が好きなのを知ってるんだろうけど――


「いい? アンタ達、よくお聞きなさい。ドーナッツはね!!!! 小麦粉を!!!! 揚げてるのよ!!!!!!」


私は気づけば心の声を叫んでいた。

まあいいわ、どうせこんな寂れた公園を利用する変わり者なんてこの辺の高級住宅街には居ないだろうし。

居たとしたら変質者よね、うん。きっとそうだわ。


ホント、どうしたものかしらねぇ。

つぐみにダイエットなんて辛いこと、させたくなんてないんだけど――。


「お前、こんなトコで何してんだ」

「げ」


目の前に現れた輝かしいイケメンに、私は状態をのけぞらせた。

出た、桐蔭聖。

っていうか貴方様もご利用になられたんですね!

変質者よばわりして申し訳ございません!!!


「申し訳ありませんでした」


いけない! やだ、私ったら緊張で姿勢を正して敬礼しちゃってる!


「隣、いいか」


私の奇怪な行動なんてまるでなかった事のように、桐蔭くんは私の隣に腰掛けた。


「はい、喜んで!」

「普通に喋れ」


はい、と小さく答えて私はがっくりと項垂れる。


「ファンの子達はどうしたの?」


桐蔭くんに聞いてみた。

彼は学園一の人気者なので、そのファンの数も半端なく多い。

当然ストーカーのような子も多くて、四六時中沢山の女の子に囲まれて写メを取られたり握手・サインを求められたりしてるんだけど。

一人の桐蔭くんっていうのもなかなか珍しい。

女の子が居ない時は弟のコースケと一緒に行動したりしてるんだけどなぁ。


「どうにか巻いた。あれは疲れる」


むっつり顔で桐蔭くんが言う。

彼は自分の出し方がわからない不器用な俺様キャラ、という設定だったんだけど――。


私の目から見ればただの苦労人です。本当にありがとうございます。

むしろそこそこ常識がある分苦労されているようです。


「まあ確かにねぇ。大丈夫? ちょっとやつれてるよ」

「そっとしといてくれ」

「私みたいに銃火器の類に頼っちゃえばいいのに」

「できるか、そんな物騒な事」


私は日頃、つぐみに食べ物を与えようとするヤツをあの手この手で排除している。

時には手荒な手段を使ったり、元傭兵あがりのボディーガードに頼んだりもしている。

だけど、男子はゴキブリのようにしぶとくて、私の罠や攻撃をもろともせずに体をボロボロにしながらつぐみに一輪の花――ではなく、一袋(業務用)のポテトチップスを渡したりするのよ!!


「あんたらも大変みたいだな――花巻に近づこうとするヤツが」

「え、何か言った?」


その時。桐蔭くんがふ、と笑った。

いつもギュッとしかめている顔をほころばせ、眉をハの時にして。


「また、ココに居てくれないか?」

「え、いいよ。なんで?」

「お前と居ると――いや、なんでもない」


そう言って桐蔭くんはベンチから立ち上がって去っていった。

ちなみに彼は非常に素早い。

シュバッなんて効果音が似合う俊敏な動作でどこか木の上に飛び移って去っていったわ。

日がなストーキングされまくっているせいで、追手を巻く力を得たみたい。




それにしても、桐蔭くんは私に何を言おうとしたのかしら。

『お前がいると――』

この先よ、この先。

うーん、きっとこうね。

『お前がいると、自動拳銃やマシンガンはもちろん、手榴弾、などの各種武器も揃っており、水に潜む敵にも安心だ。常に身の安全が保障されている。武力による平和バンザイ! ハッハッハ!』


そうかーなるほど。いいわ、わかった!

守るものが増えるのは危険が伴うけど、つぐみの未来の旦那様だものね!




「ただいまー」

「おかえりなさいませ、お嬢様」


元気よく帰ると、大勢のメイドさん達が頭を下げる。

ホームラン打者よろしく、彼女ら一人ひとりにハイタッチしていると、コースケが仁王立ちで待っていた。


メガネの似合う色白の黒髪男子。それがコースケだ。

転生前はイケメンだと思ってたし、ぶっちゃけ転生直後は彼との禁断の恋愛を何百回も妄想して忍び笑いを浮かべていた。

けど、すぐにひっどい内弁慶具合に「コイツとは付き合いたくない!!!!!」と思った。

今はただの弟としか思ってない。

だけど、他人から見れば、それなりに兄弟仲は良いらしい。


「姉貴に話さなきゃならない事がある」


彼はそう言って、応接間に私を通す。


「俺、花巻と婚約するから」


はああああああああああああああ?!


「何いってんの、コースケ、正気? つぐみには運命の人がいるって言っ――」


言いかけた私の言葉を遮って、コースケが淡々と話す。


「聖だろ。あいつには好きな人がいるから。じゃ、そういう事で」


コースケが立ち上がって背中を向ける。


ハッ、もしかして政略結婚?

確かにつぐみのお父さんはゲームと違ってウチの会社に働いてて、重役で、それでもって主軸の不動産会社の次期社長候補にも上がってるけど!

それだってお金持ちのお嬢さんじゃないわ! 何のメリットがあるっていうのよ!

大体そんな時代錯誤な非人道的な手段は許さないわよ!


「待ちなさいコースケ! 政略結婚? 認めないわよ!!!」


コースケは頭を抱えるそぶりを見せ、すぐに背中を向けて言った。


「お前ってつくづくにぶちんだよな」

「なななななな、何よーーー!!!」



つぐみとコースケが政略結婚?!

桐蔭くんが好きな人がいるって!!!

一体全体、どうなっちゃうの?!

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― 新着の感想 ―
[一言] 只今連載版を読んでいる最中(丁度BBQしてる辺り)に、ふと気の迷い(?)からこちらの短編の方を読んでみましたが…………や、ヤバイ!? 普段から小説を読む時には脳内イメージにて似た性格の漫画の…
[一言] 連載版の前に立ち寄ってみました! …忍者系御曹子とコマンドー系御嬢様のカップリングとかw あ、新しすぎるw 面白すぎましたので、この勢いで連載版のも読ませていただきます!
[一言] はじめまして(´ω`) 何だかほのぼのしてて楽しく読ませてもらいました。 短編よりは連載したほうが…いや、連載希望します(^o^)/
2015/07/24 07:10 退会済み
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