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93話 帰還

「サエ様、ご無事でしたか」

「サエ様!」


 セアとヤムが敵を片付けて俺の下へ来た。


「セア、ヤム……うん、俺は平気。ラズは?」


「もうすぐそこに来てますよ」


「呼んだ?」


 ラズは少し離れた場所で最後の一体を倒すと、そのまま俺のすぐ近くまであっという間に距離を詰めた。


「皆にお願いなんだけど、先にここから脱出してくれないかな?剣のメンバー達も連れて」


「え?なんで?」


「ちょっとこの場所を跡形もなく壊すんだけど、皆を巻き込んで怪我させたくないからね」


 ラズは俺の言葉を聞いて、俺の目を見る。

 嘘は言ってない。

 皆を巻き込みたくない。


「……分かったわ、サエの言う通りにしてあげる」


「ありがとう、じゃあ出口でちょっと待ってて。すぐに“終わらせる”から」


「どういたしまして、じゃあ待ってるわよ。無理はしないでね」


 ──少し時間が経って、セア達がこの場所から完全に去ったことをマップで確認する。

 さて、始めるか。

 ただの八つ当たりを──


 俺はマップにあった反応に向かった。

 やがて部屋の奥の壁までたどり着いた。

 反応は壁の向こうからしている。

 壁、邪魔だ。

 俺は壁を『黒丸』で消滅させた。

 そして、壁の向こうは──


 ──やっぱり、隠し部屋か。



 先に皆を出口に向かわせていて良かった。

 こんな場所を見るのは、俺1人で十分だ。


 その部屋は実験室みたいな場所だった。

 実験の成れの果てがそこら中で呻いている。

 もうこの場所は見ていたくない、速く消そう。


「『黒風雪』」


 黒い雪は生者も死者も全てを等しく消滅させていく。


「この場所の全てを喰らえ『黒丸』」


 俺は出口に向かいながら、この場所を消滅させる為の魔法を使う。



 やがて出口に到着すると、皆に迎えられた。


「中からすごく大きな破壊音が聞こえたがお前がやったのか?」


「ああ、そしてこれで最後……『黒丸』」


 ドコオン!!


 俺が放った魔法で洞穴の入口は完璧に塞がれた。

 ……これで終了と。


「お疲れ様、サエ」


 魔王から労いの言葉をかけられる。

 本当に今回は疲れた。


「ところで、ソイツは?」


 俺は視線でロンに担がれて意識を失っている男を指す。

 確か、戦斧のリーダーでセンと闘っていたんじゃなかったか?


 その男は怪我をしていたが、すでに処置が施されていた。

 男を助ける理由がまったくわからない。


「あ……ああ、とりあえずこいつは剣で身柄を預かる」


 センがそう答える。

 いや、理由を聞きたかったんだが……

 そう思ってセンを見ていると話し始めた。


「少し、話しを聞きたいんだあの人の……」


「そう……か、でも途中で目覚めたら暴れるんじゃないのか?」


「平気だ。眠り薬を使ったから2日は眠ったままだ。移動も剣が行うから迷惑はかけない」


 男のことは剣が責任をもってどうにかするようだ。

 俺は男に対しては、特になにもないから別にどうでもよかったが。


 今日はもう夜も遅いので、ここで野宿をして、翌朝に首都へ帰ることになった。


 館に戻った俺は疲れてすぐに眠ってしまった。


 そして、翌朝。


「セアごめん、ありがとう」


「いいえ、平気ですよサエ様」


 俺は、朝まで眠ったままだった。

 夜番もせずに。

 セアが俺の代わりにやってくれたようだ。

 セアだって昨日の戦闘で疲れているはずなのに……

 申し訳ない。


「それに、ラズも……」


「ごめんなさい」


 ああ、だからラズも朝から雰囲気が暗く……


「もう、2人ともいいですから、朝食を頂いて下さい」


「「はい」」


 朝から失敗してしまった。



 手早く夜営の後始末を終えて、首都に向かって出発する。

 ふとスマホを見てみると、レベルアップの文字が流れていた。

 さすがに今はスマホを操作出来ない。

 まだ、この辺りでは魔物が出没しているから。

 もっとゆっくり確認しながら能力を上げたいので、首都に着いてから上げよう。


 空が茜色から変わろうとした時、ようやく俺達は首都へと帰還出来た。

 そこで、剣のメンバー達は女王に報告があるらしいので俺達と別れた。

 俺達は明日になってから女王に会って欲しいとセンにお願いされた。


「とりあえず宿に行こうか?」


 と俺が言うと、皆が頷く。

 明日は女王に報告しないとな、あとレベルアップのステータスの割り振りどうしようかな?などを考えながら俺は宿に向かった。


 


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