85話 洞穴
あの手の群を倒した後、マップを起動してみると、近くの赤点は全て消えていた。
あれは、手だけの魔物だったのか?
そんな魔物もいるのか?
「我は初めて見たし、聞いたことも無いね」
魔王でも聞いたことの無い魔物か……
「そっちの用意はいいのか?」
俺が考えていたら、センが声を掛けてきた。
「ああ、それはセアがやっているさ──」
ちらっとセアを見たら、もうすでに支度は終わったようで、今はヤムと何かしているみたいだ。
あれ?ついさっきまで、テントを片付けていたはず?
セアと視線が合うと頷かれた。どうやら、全て終わっているらしい。
「──終わってるみたいだ」
そう呟くように答えた。
「早いな、まだこっちは時間がかかりそうだ。すまないが待っててくれ」
「ああ」
俺が頷きながらそう言うと、センは自分の支度の為に去って行く。
入れ替わりでロンがやってきた。
「支度はいいのか?」
そうロンに訊くと…
「あ…ああ、平気だ。それよりさっきの話しの続きだが──」
「オイ!ロン!」
センの怒鳴り声が聞こえて来た。
平気じゃなさそうだ。
だが、ロンはここから動こうとしなかった。
「いいのか?何か怒ってるようだけど?」
俺が言っても、ロンは「平気、平気、まだ」と軽い返事をする。
「それより、あの後────」
リーダーの使っていた斧が、どこかに消えていた。
リーダーの斧は強力な魔法具で、貴重な物だ。皆、必死に探したが、結局見つからなかった。
その後、突然リーダーを失ってしばらく【戦斧】は混乱していたが、次のリーダーとしてセンが頑張って纏めていくと、次第に混乱も落ち着いて来た。
だが、急に見知らぬ男が「自分は以前からリーダーと協力してる者で、この【戦斧】をリーダーから託された」と言って、リーダーの斧と遺言書と共に現れた。
さらに、その男は「自分はセンがリーダーを殺すのを見た」と言うと、センを【戦斧】から追放すべく行動した。
その結果、その男をリーダーとする今の【戦斧】とセンがリーダーの【剣】と別れてしまった。
────ここまでが、ロンのザックリと話した内容だった。これ以上はセンがロンを引き摺って連れていったので、強制的に終了した。
本当はもっと色々あったようだが……
あれ?斧?確か何かあったような?
「行きますよ、サエ様」
頑張って思い出そうとしたら、セアに呼ばれた。まあ、思い出せないなら大したことじゃないだろ。
さあ、出発するか。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲
森の中をセンに続いて歩き、数時間後。
「ここだ!」
そう言って、センが足を止め場所は、ちょっと丘になっていて、人1人がやっと通れるぐらいの洞穴だった。
「え?本当にここ?」
一応、確認してみる。
こんな場所に、人が住むのは難しいと思うけど?
明らかに中は狭いよな?
「ああ、ここだ、間違いない!」
センは自分の馬を下りる。
「この先はお前は連れて行けないから、待っててくれ」
センは馬を撫でながらそう言うと、馬がセンの言葉に応えるように鳴いた。
「じゃあ、行くぞ」
セン・ユミ・ロンと順番に入って行く。
続いて俺達も入って行く。
中は丸い部屋になっていて、何もなかった。以外に広くて人が10人程が余裕で入るぐらいだ。
先は下りの階段になっている。それ以外には、進める場所はないみたいだ。
頭上には、ランタンのような灯りがあるが、さすがに階段の下の方までは見えない。
誰もランタンを持たないようだけど、灯りが無いと先に進めな──
「頭上のは、魔法で出した灯りだから、歩き始めればちゃんとついて来て、先を照らしてくれるはずだよ」
え?この灯り、魔法だったの?
「先に入った剣のパーティーの誰かが使ったみたいだね」
てっきり備え付けのランタンかと思った。
「サエ様?」
俺がしばらく立ち止まったままなので、気になったのだろう。セアが声を掛けてくる。
「いや、何でも無いよ。行こう」
誤魔化すようにそう言って進む。
「?、はい」
少し疑問に思ったようだが、すぐに俺の後をついて来た。
階段を下りきると、壁が石に変わった。この先は、狭くて長い一本道の通路が、ずっと続いているようだ。
「ユミ、罠を頼む」
「はい」
ユミが先頭に行って、周囲を警戒しながら進む。
通路を進んで行くと、途中にいくつか扉があった。
そして、扉を開いた瞬間に中から、凄まじい臭いが発生した。
部屋の中は……
まるで理科室のようだ。とでも言えば分かるだろうか?
人、魔物、獣のモノが色々並べられていた。
それを目にした瞬間、ユミは部屋を飛び出して行った。
まあ、気持ちは分かる。
俺のパーティーは全員、顔色一つ変えずに見ていたが……
その後も、各部屋を見て調べていったが、魔法陣や薬品が並ぶ部屋等で人の存在は確認出来なかった。
途中、魔王が魔法陣や薬品の解説しようとしたが、止めさせた。
生物合成魔法陣って名前で大体想像がつくし……
皮膚接着剤って……
やがて、通路が終わり一番奥の部屋に着いた。
「ここが、最後の部屋だな」
ロンが呟く。少し、声が震えている。
「ここに奴が居るはずだ!行くぞ!」
センが気合いを入れながら扉を開けた。
中には……




