80話 馬
移動する為に、剣は馬の守護獣を一頭連れてきていた。
馬には小さい荷車のような物が着けられていて、そこには剣の物であろう、多少の荷物が載せられている。
「行くぞ」
センが皆に出発を宣言して、馬に飛び乗った。
あっ乗るんだ。まあ、確かに操縦する人が必要か。
確かに馬には、乗馬用らしき鞍が着いているが、果たして、乗馬+荷物は重量オーバーではないのだろうか?と心配して見ていたが、馬は何でもないように、元気に歩き出した。
どうやら、全然平気みたいだな。
ふと、視線を感じたので、振り返ると……ヤムが期待する目で見てくる。
何だろう?
不思議に思っていると、魔王から念話が聞こえた。
「ヤムも馬に対抗して、サエを乗せようとしてるんじゃないかな?」
まさか、そんな馬鹿な事……思ってないよね?
いや、それは無理だから!
例え、ヤムが俺を乗せて歩けるとしても、それは絶対にない。
見た目的にも、精神的にもそんなことはできるか。
なにより、仲間に歩かせて、自分だけ騎乗しようとは思えないしな。
ヤムは、俺が左右に首を振って否定したのを見て、少し残念そうだったが、俺を乗せようとするのは諦めたようだ。
……本当に乗せようと思ってたのか?
先を剣のメンバー達が歩き、俺達のパーティーが少し離れて付いて行ってる。
馬が歩くペースで皆も歩いているが、結構速いな。
先を歩く剣のメンバーを見ていると、ユミが少し遅れ気味な気がする。
時々、ユミは少し走って他のメンバーと歩みを合わせていた。
歩幅とかが違うし、当たり前か?
ユミのような少女が馬と大男に歩みを合わせるのは、大変だろう。
「平気か?疲れないか?」
俺はユミに近付き、声を掛けた。
「平気……いつもの事」
いつもこんななのか?
「……そうか、きついなら言った方が良い」
「平気」
彼女が平気と言うなら、俺は何も言えないな。
ユミはまた、馬に合わせる為に走って先に行く。
「サエ様は優しいですね。“女性に”」
セアが俺の隣に来て、そう言う。
そんなことはない……と思う。
「私には、聞かないのに……」
ボソッと小さくセアが何か言ったが、小さくて聞き取れなかった。
「えっ?セア、今、何て言ったの?」
「何でもないです」
そう言ってセアはラズの方へ行き、2人で話し始めた。
そして、魔王が話し掛けてきた。
「サエは何て言うか、あれだね」
何だよあれって?
「それは──」
魔王が答えようとした、その時、馬が急に鳴き声をあげると、皆の歩みが止まった。
原因は……
「魔物……スピリット!」
「馬鹿な!守護獣の範囲に魔物が!」
ユミとロンが言った通り、俺達の進路上にスピリットが数体、突然に現れる。
スピリット達は真っ直ぐに、馬に向かって襲いかかった。
狙いは馬か!
「危な──」
俺がセンに危ないと言う前に、戦闘は終わっていた。
センが馬上でスピリット達を、一瞬にして全て斬り、スピリット達を消滅させていたのだ。
「あれ?スピリットに物理攻撃は効かないはずじゃ?」
「あの剣は魔法具、光の属性を纏ってる」
俺の疑問にユミが答えた。
なるほど、光の属性持ちの剣か。
「守護獣の守護魔法を突破する魔物か、魔物があれだけとは限らない。皆、周囲を警戒しろ」
センが皆に警戒を促した。
しばらく警戒していたが、一定の範囲から魔物は寄ってこない。
守護獣の魔法はちゃんと機能している。
やっぱり、あのスピリット達が特殊なのだろう。
やがて、再び目的地に向けて出発する。
今度は魔物に警戒しながらの歩きなので、自然とペースが遅くなった。
それに、体力も精神力も大分削られていた。
なので、度々休憩を入ながら進んでいく。
空が大分暗くなった頃、とある森の入り口にたどり着いた。
この森の中に目的の場所があるらしい。
とりあえず、今、森へ入るのは危ないので、探索は明日にして、今日はここで、夜営する事になった。
剣と俺達でテントを作り、それぞれのパーティーで、食事などを用意する。
まあ、俺達は館で食べるかな。
夜は魔物が襲って来るかもしれないので、それぞれのパーティーから、1人ずつ交代で夜番をする事になった。
順番は最初に俺とセン、次にラズとユミ、最後はセアとロンだ。
ちなみに、ヤムは除外された。
狼と2人きりは嫌らしい、直接そう言ったわけではないが、そういう雰囲気だった。まあ、人数も半端になっちゃうしな。
セアには男性と2人きりになるが、平気?と尋ねたら。「平気です、もし、何かしようとしたら、あれを斬りますから」と言われた。
恐くて、あれって何?とは、訊けなかった……うん、セアは平気そうだな。
そして、最初の夜番が始まる。
他の皆はとっととテントに入って行った。今頃、館で食事をしているのだろう。
さて、しばらくセンと2人きりか……あれ?何を話せばいいんだろう?
何か話した方が良いよな。
「センは何でこの依頼を受けたんだ?」
ジロッ!
あれ?俺睨まれてる?
ひょっとして訊いちゃまずかった?
「それは──」




