78話 祝勝会
「もう、皆回復しているから、目覚めたら動けると思うよ」
俺はユミと呼ばれた少女にそう告げた。
だが、聞いているのか、いないのか、ずっと呆けた表情をしている。
ちょっと広範囲に展開する、回復魔法を試してみたが、上手く全員を治せたようだ。やはり一人ずつでは時間が掛かるし、なにより面倒だ。
一気に出来るならその方が早い。
続々と剣のメンバーが意識を取り戻していく。
「お前達!何しに来た!」
最初に目覚めた剣のメンバーの男が、少女に話しかけていたのだが、反応が返って来ないので、仕方なく俺に問い掛ける事にしたようだ。
何しに来たか?頼まれてノコノコついて来た、かな?
「待って!彼等は私が連れて来た」
ようやく、再起動したらしい少女が必死に、目覚めたメンバーに俺達が敵ではないと伝える。
「連れて来た?何でそんな──」
「私が治療して貰うように頼んだ」
「治療?」
「皆の怪我を治してもらった」
「だが────」
「出て行って貰おうか」
男と少女の言い合いに割り込んで、剣の少年は俺達にそう言い放った。
どうやら、剣の少年も目覚めたようだ。
「待って、彼等に報酬を支払ってない」
「別にいいよ」
新しい回復魔法の実験を勝手にやっちゃったしな。
だが、少女は納得していないようだ。
「払います、絶対に」
少女はムキになってそう言った。
「出世払いで!」
おい!出世払いって……
そんなに長くこの場所に居るわけじゃないので、取り立て出来ないし。
「いや、ならいらないよ。元々、貰うつもり無かったし」
「冗談、ちゃんと払う」
「済まないが、今はお引き取り願おう。報酬の話は後日、ユミと直接話してくれ」
俺と少女で報酬の話をしていると、剣の少年が俺達を帰そうとする。
まあ、元々長居するつもりは無かったので、帰るか。
「でも────」
「治してもらったのは感謝するが、今後、ここへは来ないでくれ」
少女は引き止めようとしたが、剣の少年は少女の言葉に被せるように俺達に言った。
じゃあ、俺達は宿に帰ろうかな。
別にこれ以上ここにいる用事が在るわけじゃないしな……
「それじゃあ、ギルドに寄らないといけないから帰るよ、またね」
少女は何か言おうとしたが、その前に外に出る。
さて、ギルドはあの人混みが無くなったかな?
ギルドは大分、人が少なくなっていてナルンも居なくなっていた。
受付で報酬を貰って、その際にラズのランクが、俺達と同じCランクになった。
その後、宿へ戻ると宿の従業員が「伝言を預かっている」と、俺を呼び止める。
内容は、ナルン達から俺達のパーティーへの伝言で、指定された酒場にすぐに来てほしいとの事だった。
?
何だろうか?
とりあえず行ってみれば分かるか。
そして、指定された酒場に俺達が入ると……
「お、主役が来たぞ!」
誰か一人がそう言うと、皆が一旦動きを止めて、一斉に今入ってきた俺達に注目する。
酒場はかなり大きくて、かなりの席があるのにも関わらず、ほとんどの席が埋まっていた。
そして……
「お疲れさま」
「ありがとう」
「助かったぜ」
皆が、それぞれ俺達に感謝や労いの言葉を掛ける。
え?
何これ?
「皆、サエ様に感謝してるんですよ」
ナルンが俺の隣に来て、説明してくれる。
「今日は、祝勝会で、冒険者がお店を貸し切ったんです」
そう言われれば、見た事ある顔な気がする。
「首都防衛に参加したほとんどのパーティーが参加してるんですよ。さあ、サエ様こっちへ」
ナルンに案内されて、俺達は店の中心の席へ行く。
席へ着くと、ナルンが果実酒?を俺に渡してくる。
色は赤くてワインっぽいが……
一口飲むと……辛!何かキツいし、辛い。
横を見ると、セアも同じ物を飲もうと……ていっ!
ガシャン!
「ごめん、セア、手が滑った!怪我はない?」
「ええ、平気です?」
計画通り。
セアに酒はマズい!
すぐに酔うし、酔うと……うん、阻止しなきゃな!
「酒以外の飲み物ってある?」
ナルンに酒以外の飲み物を訊く。
「ありますよ、果物を絞った飲み物とか「それを、2つお願い!」
ナルンに注文を頼む。
「サエ様?」
セアが何かを問うように、俺を呼ぶ。
「セアと一緒に飲みたいんだ、うん」
「サエ様」
セアが嬉しそうだ。
これで平気かな?
「私のは無いの〜?」
ラズが俺に絡んで来た。
あれ?ラズの顔、赤い?
ひょっとして……
「ねえ、サエ〜私には、ないの〜?」
うん、完全に酔っ払ってる!
あの酒飲んだのか?
「じゃあ〜これで、いいや〜」
そう言って、俺が一口飲んだ酒を一気に飲む。
凄っ!
「なっ!ラズ」
セアがラズを睨む。
「まあまあ、はい、セア」
ちょうど注文した飲み物が来たので、セアに渡した。
少し不満そうだったが、渋々大人しくする。
「そう言えば、剣のパーティーや戦斧のリーダーを見ないけど?」
疑問に思った事をナルンに訊いてみる。
剣のパーティーはまだ、アソコに居るのかな?
「それは────」
「サエ〜!」
ナルンから答えを聞く前に、ラズが俺に抱きついてくる。
「サエ飲んで〜ない〜」
俺が飲み物をコップに余らせているのが、気に入らないのだろう。……多分。
正直、酔っ払ったラズの考えなんて、分からん!
「私が〜飲ませて〜あげる」
そう言って、俺の飲み物を口に含んだラズ。
自分が飲むのかよ!
と、思った瞬間、俺の口とラズの口が重ねて、俺の口内に飲み物を移す。
え?
「「あ!」」
セアとナルンが声をあげる。
ラズを引き剥がす。
流石に、この大勢のなかでキスされるのは、恥ずかしい。
いや、誰も見ていなくても恥ずかしいけど……
「サエ様、私も「無理だから!」
セアが何か言おうとしたが、言い終わる前に拒否する。
あんな恥ずかしい事できるか!
「サエ様」
ナルンが俺の事を呼ぶ、そう言えば話の途中だったな。
ナルンの方を見る。
ちょっと待て!どうして、飲み物を構えてるの?
──────結局、この日は騒いだだけで、ナルンの話の続きは聞けなかった。
次にお酒を飲む時は、気をつけよう。
特に女性2人には……
ちなみに、ヤムは一人で料理を楽しんでいた。
お酒は駄目だから飲まないそうだ。




