76話 許し
守護獣への用事は終わった。
しかし、なんで神父は俺に守護獣に会うように言ったのだろう?
そんな事を考えながら、退室するために扉に手を掛けると、守護獣から「ちょっと待ってくれ」と言われたので、守護獣へと振り返る。
「まず、ありがとう。あと、女王に会うなら頼みたい事がある」
別にお礼はいらないが、頼み事はとりあえず話しだけでも聞くか。
「……何を?」
「女王に伝えてほしい、もう許していると」
???意味が分からん。が、まあ
「分かった、伝える」
「済まない、この部屋と女王に会える者は限られているからな。それと、白よ、この先は苦難の道だ、仲間と助け合い頑張れ」
それだけ言うと、熊はさっさと奥に行ってしまった。
「ボク、頑張るよ」
ヤムはぽつりと熊の方に向かい言った。
ああ、俺もヤムと一緒に頑張ろう。
そして、今度こそ部屋を退室した。
部屋を退室してすぐに、
「サエ、なんであの守護獣に回復魔法を使ったの?」
と、ラズに質問された。
「出産後で体力が落ちてたからだけど?」
「いや、そうじゃなくてね」
「なんで、サエ様を怒らせた相手なのに回復魔法を使ったのですか?」
ラズの言葉をセアが引き継いで、俺に質問する。
「ええと……あの守護獣はヤムの事を心配して言ってくれたのが分かってたから」
それに、初めて見た時にあの守護獣を回復しようと決めていた。
我が子が心配で大切なのだろう。奥をチラチラと盗み見見ていた。あれでバレていないと思っていたのだろうか?
そこまで心配なのに、俺達に会ってくれたしな。
「そうですか」
セアもラズも俺の言葉に納得したようだ。
「ただ……」
「ただ?」
「ヤムが決めた事にいちいち反対するのが、ちょっとむかついただけだ」
「……サエ」
魔王が何か言いたそうだが、結局何も言わなかった。
その後、兵士に女王の所まで案内してもらう。
あれ?前回の謁見の間じゃない?
着いた場所は、普通の扉の前だった。
いや、普通よりも上質か?ただ、守護獣の居た部屋や謁見の間の扉に比べて、地味だ。
兵士が扉をノックする。
「入ってよいぞ」
中から女王の声が聞こえた。
まあ、他の人の声が聞こえても困るが……
兵士に俺達は入室を促されて、部屋に入る。
部屋の中は机と椅子が複数あり、応接室みたいな感じだ。
奥の机には、書類の山が築かれていて、恐らくこの山の向こうに女王が居るのだろう。
「よく来てくれた」
女王が席を移動して姿を表した。
「約束通り、守護獣には会わせたぞ」
「ありがとうございます。ただ、守護獣から女王に伝言を伝えるように頼まれました」
俺がそう言うと、女王は俺を睨んだ。
いや、俺が何かしたか?
視線で先を促したので、そのまま守護獣に言われたことを言う。
「もう許していると言ってました」
俺の言葉を聞くと、女王が俺に飛びかかってきた。
そして、俺の服を掴み、グラグラと揺らす。
女王の突然の行動に皆で驚いて、俺達の誰も、身動きが取れなかった。
「守護獣が本当にそう言ったのか?」
女王が勢い良く、俺に質問する。
あまりの剣幕に咄嗟に言葉が出ずに、ただ縦にコクコク頷いた。
その瞬間、女王の表情がとても安堵したものになった。
「そうか……」
「一体何があったんですか?」
俺の質問に女王はゆっくりと説明しだした。
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この首都には、王族が代々続いていて、女王の前は、とある王様がこの国を取り仕切っていた。
王様は、この国の各街や村から子供を集めていた。
時には、奴隷商から他国の子供を買う事もしていた。
集められた子供達は、一旦城の地下に閉じ込められてから、“ある場所”に送られた。
ある場所とは、青仮面の実験施設だった。
この国の王様は青仮面とある取引をしていて、青仮面は実験の為に子供達を使い、子供達は実験施設に常に一定の人員がいて、居なくなると王様に言って城から補給した。
その取引は守護獣に関係した。
守護獣は、この首都にとって大事な存在で、大きな力を持ち、人々を守護していた。
そして、代々のこの国の王を決めるのもまた守護獣だった。
だが、まだ王様は守護獣には王と認められていなかった。
国民には知らせずに勝手に王様を名乗っていただけだった。
この城の宝物庫は特殊な守護魔法が掛かっていて、守護獣に王と認められないと決して入る事は出来なかった。
なので、守護獣を魔法で操り、自分を認めてもらう。
その魔法を手に入れる為に王様は青仮面と取引した。
内容は……魔法を完成させる為に、実験材料《子供達》を用意する。
そして、ある少女が城にやってきた。
少女は、来たときには、すでにボロボロでそのまま守護獣の部屋に放り込まれた。
守護獣を操るのに、時間がかかると青仮面が言ったからだ。
そして、一か月後──────
暴動が起こった。
子供を盗られた親が冒険者達と協力して、城を攻めたのだ。
戦斧や剣なども参加していた。
兵士は各所へ魔物退治に行った時を狙ったのだ。
やがて、王様が捕まり、次の王を選ぶ為に守護獣に会いにいくと……
そこには、守護獣の死体に泣いて謝る少女がいた。
少女に掛けられている魔法で守護獣は衰弱して、亡くなったのだ。
だが守護獣には、番がいた。
今の守護獣だ。
その番が首都を守護する事になった。
そして守護獣は、少女を王に任命した。
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細かい部分は大分省略したが、女王の話はだいたいこんな感じだ。
女王は一息つくと、こう言った。
「頼み事がある。助けてくれ」




